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湯浅健二ツールーズへ移動・・予選リーグの各組第一戦・・そして日本代表へのメッセージ(1998年6月13日)

 いやいや大変な経験をしてしまいました。本当は、2002のツアーの方々と一緒に、サッカーを語る夕べを過ごすはずだったのですが、そのホテルが、ツールーズから電車で二時間半という信じられないほど遠いところ。誰を責めるわけにもいきませんが、いろいろなメディアを抱えている湯浅健二は、物理的に無理ということで、参加者の皆さんには本当に申し訳なかったのですが、今回は見合わせさせていただくことにしました。

 ただ、それからホテルを探す羽目になった湯浅健二の苦行が始まります。最初は、どうせどこかでホテルが見つかるに違いないとタカをくくっていたのですが、一時間、二時間と探しても、まったく空き部屋が見つからないのです。二十軒は聞いて回ったでしょうか。四星ホテルから、一星ホテルまで全てのタイプのホテルに聞いて回ったのですが成果なし。こんなことは、長いヨーロッパでの経験でもまったく初めてのことです。

 ということで、結局また市役所の観光局に逆戻りしてホテルを世話してもらうことにしました。ただとにかく、ツールーズ市内にはまったく空き部屋のあるホテルはありません。やはりワールドカップというエンターテイメントの規模は想像を絶するモノでした。途方にくれ、「まあこうなったら、駅のベンチにでも・・・」と、学生時代のことを思い出したりもしていたところに朗報が・・。ツールーズから三十キロも離れた村にある「キャッスル・ホテル」を紹介されたのです。もうこうなったら仕方ありません。かなりの価格なのですが、とにかく二つ返事でそのホテルに投宿することを決めたというわけです。

 ただ、そのキャッスル・ホテル。着いてみたら、本当にお城を改造した一級ホテルなのです。周りは、一面の小麦畑。他には建物はまったく見あたりません。緩やかな起伏の続く地形も心休まります。皆さんも何となく想像できるとは思いますが、その地形は典型的な中央ヨーロッパの「老年期」のものです。タクシー代も含めるとかなりな出費になってしまいましたが、こんな素晴らしい自然を満喫できるならば・・。ということで心から納得した湯浅でした。

 そんなホテル探しの事情もあり、本日の第一試合、素晴らしくエキサイティングだったスペイン対ナイジェリアの試合はフルにテレビ観戦できましたが、次の韓国対メキシコ戦は、最後の二十分しか見られず仕舞。残念です。

 私が見始めたときには、すでに「ハ・ソクジュ」が、今回から適用された「後方からの危険なスライディングタックル」で退場になったあと(これで前日の、ブルガリアのナンコフから数えて二人目)。その時点では、まだ一対一でしたが、試合は、すでにメキシコが完全にペースを握った後でした。私は韓国のサッカーを高く評価していますから、それまでの、互角でエキサイティングだったに違いないサッカーが見られなかったことは非常に残念でした。私が見たのは、完全に韓国を押し込むメキシコのスーパーサッカーだけ。結局それからメキシコが二点をたたき込んで試合を制してしまいます。

 この試合は、観光局の近くにあるカフェで見たのですが、隣にすわっていた初老の紳士が、「韓国は、前半は非常に立派な戦いをしていたヨ・・」と言っていました。それでも試合全体のペース配分という意味では、最後に息切れしてしまった韓国。ハ・ソクジュの退場もあったのでしょうが、ワールドカップで勝つためには、心理的、体力的、戦術的な「余裕」、そこから出てくる「正しいペース配分(試合状況をベースにしたゲームコントロール)」、そして「ツキ」が必要です。その意味では、「あの」韓国でさえ、まだ世界にかなりの差をつけられているということなのでしょう。さて日本は・・・??

 次に、スペイン対ナイジェリア戦です。この試合でまず目立ったのが、ナイジェリア選手たちの「フィジカル的な強さ」と「戦術的な個人能力の高さ」でした。「こんな能力の高い連中を、一度はコーチしてみたい・・」。私の正直な感想です。

 だからかも知れませんが、とにかくナイジェリアの、戦術的には愚鈍ともいえる「スタンディングサッカー」が目に付いてしまうのです。こんなに能力の高い連中なんだから、ホンモノのチームプレーができたら、確実に優勝候補のひとつに挙げられるのに・・。彼らのサッカーは、本当に足元にボールをつなぐだけ。スペースを使うような「ボールのないところでのプレー(決定的なフリーランニング)」はほとんどありません。だからパスを受けたプレーヤーは、例外なくマークの相手を背負ってしまっているのです。

 対するスペインは、非常によくトレーニングされた「スマートなサッカー」を展開します。サッカーの質では確実にスペインの方が数段上です。立ち上がり数分のうちに、ラウルが得た二つの決定的なゴールチャンス。それは、中盤でのアクティブな「ボールの動き」から、決定的なフリーランニングをしたラウルに、ベストタイミングで通ったパスによって生み出されました。

 そんなスペインのクリエイティブサッカーが、後半二分に飛び出した、ラウルのスーパーボレーシュートとなって結実します。中盤でボールを持ったイエロ。しっかりとタメてから、最前線で決定的スペースへ爆発ダッシュするラウルへ、コース、タイミングともに理想的なタテパスが通ります。たしかに、ラウルのボレーシュートは美しかったのですが、そこに至るまでの「プロセス」にも注目しなければ、サッカーの魅力の半分も満喫したことになりません。これは、「タメ」と正確なパスを演出したイエロと、ピッタリのタイミングでフリーランニングをスタートしたラウルの「あうんの呼吸」が生み出したスーパーゴールでした。

 ナイジェリアの最終守備ラインですが、そこには問題が山積みです。フォーバックで「受け渡しマーク」をするのですが、決定的な場面で相手のマークを離してしまうこともしばしば。これでは、ギリギリの勝負に勝てるはずがありません。確かにこの試合には勝利を収めましたが、それは多分に「ツキ」のおかげだったというのが私の見解です。

 もっといえば、この試合は、高いレベルの「チームワークサッカー対個人能力サッカー」の対決でした。もちろん、ナイジェリアの、レベルを超えたテクニックとフィジカル能力は魅力的ですし、見ていて楽しい限りです。だからなおさら、チームプレー(そのベースがボールのないところでのプレー)に徹する部分と、個人勝負を仕掛ける状況にメリハリがつけば・・と残念に感じられてしまうのです。

 この試合で見えたことは、個人の技術と戦術能力が高いアフリカサッカーの「ジレンマ」でした。

 最後に、オランダ対ベルギーについて一言。

 隣国のライバル同士。しっかり守りカウンター、というサッカーに徹するベルギーに対し、優勝候補のボーダーラインにいるオランダは、積極的に攻め込み続けます。

 そんなゲームは非常にスピーディーでダイナミックな内容になりました。攻め込みますが、完全にベルギーの守備を崩し切れないオランダ。対するベルギーも、何度も危険なカウンター攻撃を仕掛けます。その攻防は、見応え十分。カウンターで危ない場面を迎えたにもかかわらず、積極的に攻め込み続けるオランダ。たまに、チーム全体のポジションバランスが崩れてしまいますが、かまわず攻め続けるオランダ。それに押し込まれ続けるのではなく、勇敢にリスクチャレンジのカウンターを仕掛けるベルギー。

 それは、モダンサッカーのエッセンスが詰め込まれた魅力的な攻防でした。

 さて、今日は、日本が世界にデビューする日です。彼らが、試合の中で「成長」することを願ってやみません。試合の中で、「オッ、オレたちも出来るじゃあネ〜カ」ってな自信をつかむのです。そのためには、まず守りが重要。最初の時間帯でアルゼンチンにまったくチャンスを作らせなければ、それが自信になります。そして試合を、「日本代表が主体になって」、なるべく「静かな」モノに抑え込んでしまいます。そして、本チャンスをモノにする「リスク・チャレンジ」です。

 ガンバレ日本代表。日本サッカーの存在感を高めるために・・そして2002のために・・。




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