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天皇杯の決勝カードは、フリューゲルス対エスパルスに決定・・(1998年12月27日)

1998年度天皇杯の決勝は、エスパルス対フリューゲルスの対決になりました。

 アントラーズ対フリューゲルスのゲームはテレビ観戦だったのですが、中盤の王様、ジョルジーニョが抜けたとはいえ、まだまだ実力的にもリーグチャンピオンと呼ぶにふさわしいアントラーズに対し、一歩も引けを取らないサッカーを展開したフリューゲルス。両チームともに、まったく「集中」を途切らさず、緊迫した素晴らしいゲームを展開しました。

 いままでに何度か、(最終的には自由にプレーせざるを得ないということから)サッカーは、他のスポーツよりも心理的な影響が色濃くグラウンド上に現れてくるボールゲームだというコラムを、メディアに発表しました。

 フリューゲルスは、「諸般の事情」で気合いの入り方が違う「実力チーム」ですから、その意味でも勝負強いのは偶然ではないということです。彼らの、危険な状況での守備に如実に現れてくる「集中レベル」は、天井知らずといったところでした。

 さて私が見たもう一つの準決勝、グランパス対エスパルスです。

 一点をリードされ、(グランパスが)一か八かの選手交代で総攻撃をかけた終盤の試合展開を除けば、全般的には、エスパルスのサッカーが、「質的」にグランパスを圧倒したといったゲームでした。

 たしかに「ボールポゼッション(ボールの試合率)」では互角に近いという印象を受けましたが、「内容的」には、かなりの「差」を感じた湯浅でした。

 その「差」の第一が、中盤、最終守備ラインのディフェンス。とにかく彼らの「読みベースのクリエイティブ守備」からは、アルディレス監督の後を受けたペリマン監督の方向性が間違っていないことが如実に伝わってきます。グランパスの中盤選手で、フリーでパスを受けた者は、本当に数えるほどしかいなかったのですからね。

 次に、ボールを奪い返した後の攻撃。そこでのキーワードは、いわずと知れた「ボールの動き」と「ボールがないところでのプレー(フリーランニングですよ・・)」。それらのポイントで、この両チームでは(特に前半)、本当に「雲泥の・・」とでも表現できるくらいの差を感じました。

 前半の25分くらいでしたか、右サイドで長谷川が「怒濤のドリブル突破」を成功させ、ペナルティーエリア周辺までボールを運んだシーンがありました。当然グランパスの守備組織は整っていませんから、そのままドリブル勝負を仕掛けられる状況だったのですが、長谷川は、勝負する素振りを見せながら、チョンッと「置くように」横パスを出したのです。走り込んでいたのは、右サイドバックの安藤でした。長谷川に引っ張られるようにオーバーラップをスタートした時点での彼の脳裏には、とっさにゴール前でのチャンスイメージが奔ったに違いありません。

 そのような、「ここがチャンス!」という状況での、エスパルス選手たちの思い切りのいい攻め上がり(つまりリスクチャレンジ)には「世界」がかいま見えたモノでした。

 結局その一連のプレーは、安藤からのセンタリングから、ファビーニョの決定的なシュートチャンスにつながります。美しくもあり、鳥肌が立つくらい心地よいカウンター攻撃ではありました。

 とにかく前半は、一点ビハインドだったにもかかわらず、グランパスの攻めは、まったくといっていいほど機能していなかったのですが、そのことを象徴していたのが、ストイコビッチの「苛立ち(怒りのポーズを見せたり、ウォーターボトルを蹴り上げたり・・)」です。彼ほど、中盤でクリエイティブに動かないボールの動きにイライラしていた選手はいなかったのです。

 そんな「ボールの動きの停滞」が原因で、エスパルスに簡単にボールを奪い返され、そして「シンプルなワンツー」などで、まるで赤子の手をひねるかのように簡単に置き去りにされてしまうグランパス守備陣・・。これでは・・

 後半ですが、私は、グランパスのベンチワークに期待していました。何らかの「刺激」で、彼らが「心理・精神的」に再生するものと期待していたのです。ただフタを開けてみたら・・。

 ただそんな、前半の試合内容を引きずるようなカッタルイ試合展開が、後半15分を過ぎる頃から、グランパス選手たちにも「必死の形相」が現れはじめ、何度かチャンスになりそうな雰囲気をかもし出し始めます。それは、やっと試合が動き始めたな・・そう感じた時間帯でした。

 そして時間が押し詰まってきた頃、グランパスのベンチが矢継ぎ早に動きます。まず積極性に欠けるプレーを繰り返していた平野に代えてウリダ。浅野に代えて野口、そして最後は、中谷に代えて、(ファーストタッチで同点シュートを決めた)小倉まで投入してきたのです。

 グランパスベンチは、平野は別にして、守備ブロックの浅野、中谷を外して「最前線タイプ」の選手を投入してきたのです。ここで私は、これで同点にでもなったら、試合を落ち着かせることができるような「プレーヤータイプ・バランス」を保つことができるのだろうか・・という心配をしていました。

 同点になったら、守備的ハーフに、望月と岡山を組ませ、ウリダを左サイドに入れようと考えていたらしいのですが、結局、案の定というか、グランパスの前に重心が掛かり過ぎるプレー傾向が「落ち着く」ことはありませんでした。

 そして延長に入り、今度はストイコビッチを「中盤の底」に入れようともしていましたが、攻撃主体プレーに慣れている選手たちに「一度攻撃参加した後の、必死の戻り」にまで期待するのには無理があったようです。何度も、攻撃と守備の「人数・ポジションバランス」が崩れてしました。

 さてエスパルスの「Vゴール」ですが、その90%は、素早く、キーパー(伊藤)からのパスを受けたストイコビッチのチェックに行った伊東、そしてストイコからトーレスへの横パスを予測してカットし、最後はアレックスの決勝ゴールまでも演出してしまった大榎に差し上げたいと思います。

 特に大榎の、ココゾッという勝負の守備プレーは秀逸でした。彼は、伊東がマークに入った瞬間から、ストイコビッチの横パスを狙った(そのパスを予測した)ダッシュをスタートしていたのです。

 最後に、38歳になるエスパルスのサントスについて。

 彼は、忠実なマークや、クリエイティブな読みベースの穴埋め作業などの効果的な守備だけではなく、攻撃にうつったときの素晴らしい「起点プレー」など、いまでもエスパルスの中心プレイヤーであることを証明しました。

 たしかにスピードは落ちました。ただそれを「読み」でカバーしてしまう。流石です。私は、彼の「老練なプレー」にも酔わされていました。決勝では、彼と、そのパートナーである伊東のプレーを中心に観戦しようと思っている湯浅です。もちろん、フリューゲルスの「心理パワーサッカー」にも興味が尽きることはありませんがネ・・




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