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日本の成長を明確に認識できたゲームでもあり、トレーニングマッチとしては物足りなく「なってしまった」というゲームでもありました・・ポーランドvs日本(0-2)・・(2002年3月27日、水曜日)

いや、ポーランドにはガッカリ。何といっても、私のイメージは、1974年ワールドカップにおいて、トマシェフスキー(私にとっては、世界歴代最高のGK!)、デイナ、ラトー、ガドーハ等のスーパースターたちが織りなしたドリームゲームがベースですからネ。それがこの試合では、まったくといっていいほど、「戦術的な驚き」が見えてこない。もちろん、たまには、オリサデベの「天才」は光り輝いていましたがネ。

 「選手たちは、日本を軽んじていたようだ。そしてグラウンド上で、彼らの強さを実感させられた・・」。試合後の記者会見で、ポーランドの監督が言っていました。まさにそういうことなんでしょう。

 とにかく、彼らのサッカーでは、前半と後半の最初の時間帯だけでしたからネ、中盤での忠実でダイナミックな守備が見られたのは。それが10分も経たないうちに、日本の忠実な守備と、攻めでのボールの動きに翻弄されはじめてしまって・・。それは、とりもなおさず、彼らの「高慢」が招いた自滅的な現象でした。

 要は、格下だと思って甘く見ていたチームに、クルクルとボールを回されたことで、逆に「焦燥感」ばかりがつのってしまった・・そして心理・精神的な「ダイナミズム」が急速に減退していったということです。相手が強いと意識していれば、何度「アタックやチェック」をはずされても、忠実に「戻って」、次のディフェンスに就くはずだし、協力したプレスを狙う目にも「猛禽類」の鋭さが宿っていたはずですからネ。それが、一度「狙いすましたアタック」が外されたら、「チェ!」なんていう心理で足を止め、軽快な日本のボールムーブメントの観客になってしまう。

 「おいおい! それじゃ、日本のトレーニングマッチにだってならないゾ!」なんて声が出そうになって・・。

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 サッカーは「相対的なボールゲーム」です。もちろん日本代表は発展をつづけ、世界に対する自信を深めています。それにこの試合では、「自信の象徴」がもどってきましたしネ。もちろん中田ヒデ、小野、稲本たちのことです。とはいっても、逆にポーランドが「悪すぎた」というファクターも、しっかりと認識しておかなければならないということです。

 基本的にポーランドは、守備ブロックをしっかりとソリッドに保ちながら、機を見た一発カウンターを狙う・・というイメージでは、レベルを超えた確信を持っているんですよ。もちろん、このメンバーでは、1970年代の圧倒的に美しいサッカーなど、望むべくもありませんからネ。それが、この試合では、アロガントな(思い上がった)プレーに終始し、そして自分たち自身で、ゲームのペースを乱していってしまった・・。

 もちろんそれには、日本代表の守備ブロックが「強固」だったことも挙げられます(もちろん何度かは、ウラを突かれそうになったり、オリサデベにフリーシュートを打たれてしまいましたが・・)。中田ヒデの「攻守にわたるスーパープレー」については後で触れますが、とにかく彼も含めた日本のディフェンスブロックに素晴らしい統一感があったために、ポーランドの選手たちが抱いていたに違いない「守備の穴」が見いだせなかったと思うんですよ。

 普通だったら、どちらかといえば自分たちが攻められる状況の方が多い故に、相手ディフェンスブロックに「穴(守備の薄い)ゾーン」が生まれますからね。そこを、アバウトなロングボールや、オリサデベの抜群のキープ力、突破力を駆使して突いていく・・ってなイメージをベースにするんですよ。そんな彼らが、このゲームでは、その明確なイメージをまったく持てなかった・・そして焦燥感ばかりがつのっていき、中盤でのダイナミズム(闘う意志)が減退していく・・。これじゃネ。

 とにかくポーランドの攻めには、まったく「変化」が演出できていませんでした。だから、日本代表の最終ラインも、完璧な「読み」で対処できる。もちろんそれには、優れた中盤守備も、要因として挙げなければいけませんけれどネ。

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 それにしても日本代表。素晴らしかったですね。私は、上記のような相手の「心理環境」があったにせよ、彼らがここまでやる(できる)とは想像していなかったですよ・・正直なところ。

 斜に構えて論評するなんてこととは無縁の湯浅ですから、本当に心からゲームを楽しみましたし、日本の若武者たちに「オメデトウ、そしてアリガトウ」といいたい心境なのです。

 彼らは、試合がはじまって10分くらいで、明確に感じていたことでしょう。「相手は大したことないゼ!」。そんな雰囲気は、中田や小野が、試合中に水を取りながら談笑していることからも伺えます。この二人の影響力は大きいですから、周りの選手たちも「自信」を倍加させていったということでしょう。もちろん日本のいいところは、そんな状況でも「謙虚さ」を失わないこと。彼らは、最後までギリギリの闘いをつづけていました。そこが素晴らしい。

 試合前にフィリップが、「中盤で激しく競り合え! フランス戦を思い出せ!」などと檄を飛ばしたことも大きかったに違いありません。

 日本代表の選手たちの自信が高まっていったのは、「足許のプレーでは、オレたちに一日の長がある・・」と、すぐに確信したことがベースだったと思います。それでも相手は、「放り込み」と、(こぼれ球をイメージした)同時の押し上げという「パワー・プレー的」な仕掛けには、ほとんど入ることがなかった。それも、日本選手たちの確信レベルを倍加させる要因だったと思った湯浅でした。

 まあ「内容」からすれば、もう2-3点は入っていてもおかしくない・・といった、ヨーロッパでのアウェー初勝利ではありました。

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 中田ヒデですが、まあ私が語るまでもなく、素晴らしい、本当に素晴らしいプレーを披露しました。もちろん、守備でも、攻撃でも。

 ドイツの友人(プロコーチ)に、衛星テレビで「パルマ対ユヴェントス」を見て、内容を知らせて欲しいと頼んでおいたんですが、「凄いゼ・・中田は。オレはよく知らないけれど、これまでアイツは、ベンチだったんだって? まあ、そんなことがあったなんて信じられないね。とにかく効果レベルでは、確実にベストプレーヤーだったよ。それに、あれだけの攻撃センスをもっていながら、守備でも、しっかりと汚れていたからナ。特に、ここぞっていう場面でのボールがないところでの忠実なディフェンスは感動ものだったゼ・・」なんていうレポートをもらいました。

 まさに、この試合での彼のプレーにシンクロナイズ!

 私は、これまで様々なメディアで、今の彼の状況は、決してネガティブではない・・、逆にもの凄くポジティブだ・・もちろんフィリップとの緊張感も含めて・・なんて書いていました。何といっても、あれ程の能力とインテリジェンスを天から授かっている中田ですからネ。それでも、たしかに「何か変なこだわり」があるのかもしれない・・とは心配はしていましたが・・。

 とはいっても、サッキ&カルミニャーニのコンビ、またフィリップに対する、「よし、見ていろヨ!」なんていう思いが、心の深層には必ずあったはずだから、それが、いつかは爆発し、彼をもう一回りも二回りも大きくするって確信していたんですよ。まあ中田ヒデにすれば、「そんなことないよ。オレは、いつもの通りに、自分の仕事を(自分主体で!)全力でこなしているだけだヨ・・」なんて言うんでしょうけれどネ。

 とにかく、この試合での彼のパフォーマンスに「乾杯!」なのです。

 彼については、隠された「真のチームパフォーマンスプレー」という視点で、明後日の東京新聞に書く予定ですので・・。

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 次は、小野。良かったですよ、本当に。素直な湯浅ですから、明確に「見直しました!」と言います。とはいっても相手のポーランドは、組織的に仕掛けてくるわけではないし、ボールがないところでの動きも緩慢、また動いてもパスが回ってこない・・なんていうサッカーに終始していたから、まだまだ本当の評価の対象にはならない・・。でも、攻守にわたる「ボール際の競り合い」は、本当に見応えがありましたよ。もちろん攻めでは、いつもの「天才」を振りまくシーンも魅せました。

 ここで言いたいことは、ただ一つ。チームのコアとして、攻守にわたって、自ら「仕事を探す」という姿勢です。その意味で、中田ヒデは、もうスーパー。ただ小野には、まだ「伸びしろ」がある・・。

 とにかく、あれ程の「才能」なんですから(とはいっても決してマラドーナではない!)、それを「使い切る」という・・いや、「もっと、もっと使いたい!」という心理的な「姿勢」が重要な意味をもつのです。それを私は、「積極的に仕事を探すリスクチャレンジ姿勢」と表現するわけです。分かりにくいですかネ・・。

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 要は、「バランシング・イメージ」ばかりが前面に押し出されたら、プレーが小さく縮こまってしまう・・逆に、「まずリスクチャレンジありき!」という姿勢があれば、もっともっと発展しつづけられる・・ということです。もちろん最後は「グレーゾーン」に入っていくわけですが、そのグレーゾーンが、消去法的な(消極的・・安全意識ばかり)ものではなく、限りなく「前向き」の性格を有しているということです。またまた、分かりにくいですかネ・・。

 これは、コーチにとっての永遠のテーマなのですが、サッカーが「相対的」なものだという意味での「グレーゾーンの発想」に対する明確なイメージを持つ・・ということです。要は「出来ないから、やらせない」ではなく、「出来るに違いないから・・」、また「くり返せば出来るようになるだろうからチャレンジさせる・・」という発想だなんて言えるかも・・。

 それが「スタートライン」になければならないというわけです。何といって、不確実性テンコ盛りのボールゲームなんですから、サッカーは。そんなプロセスを経ることでのみ、本当に「出来ないこと」が、より明確に見えてくる・・。そして、より明確に「(クリエイティブな)グレーゾーン」が見えてくるというわけです。私は、フィリップの基本的なフィロソフィーは、そこにあると思っています。だからこそ、同業者として、彼の仕事内容に対して、最大限レスペクトするのです。

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 全員を扱っていたら、もう大変。ということで、後は「戸田」について言及することにしましょう。

 彼は、本当に、代表チームの「中核」になりました。もちろん「中盤での忠実な汚れ役」としてネ。それに近頃は、中盤での組み立てにおける、クリエイティブな基点としてもチームメイトの信頼を集めてしまって・・。いや、本当に素晴らしい。一人のサッカープレーヤーの、ものすごく興味深い「発展プロセス」を見せつけられていると感じます。彼の献身的なプレーがあるからこそ、稲本や福西が活きる・・中田ヒデが活きる・・はたまた、最終ラインが活きる・・。もちろんこれは、ちょっと極端すぎるポジティブ評価かもしれませんがネ(これもグレー発想!)。とにかくイメージ的には、それくらいの「チームにとっての価値」を提供していると思うのですよ、戸田が・・。

 あっと・・忘れちゃならない「久保」。久しぶりの代表ゲーム。そして再び、レベルを超えた潜在ポテンシャルの持ち主であることを垣間見せた。

 それでもまだまだ「弱気」。一度などは、右サイドを、例の超速ドリブルで突破するという状況まで行ったにもかかわらず、結局は持ち直して、中央のヒデへパスを出してしまったんですよ。あんな「体勢」だった、そのパスを読まれてしまうのも道理。パスも、少しズレたのかもしれません。結局、ヒデのところでボールを失ってしまったんですが、そのとき、「何やってんだ! フザケルナよ、何で、最後まで勝負しないんだ!!」なんていう罵りが口をついてしまって・・(その後、一度だけ、ドリブルで右サイドをブチ抜いてセンタリングを返したシーには鳥肌が立ちましたがネ)。周りの記者の方々には申し訳なく思いますが、とにかく彼が(代表チームで)「ブレイク」しないことを、既に何年もの間、見せつけられていたもので・・。でも、この試合が、長年待ち望んだ「久保ブレイク」のキッカケになってくれれば・・と願わずにはいられない湯浅だということはお分かりいただけた・・!?

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 その他にも、最終ラインや稲本、福西、市川、波戸、明神、ツートップ(鈴木のパフォーマンスには感動しきり・・彼こそ、持てるチカラを120パーセント発揮しつづける・・、いや、常に意識して発揮しようとチャレンジをつづける、尊敬に値するプロ!!)、そして川口など、私なりの評価はもっています。でも今日のところは、ここまでということでご容赦・・。

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 明日(木曜日)は、電車でワルシャワへ移動し、そこからフランクフルトへ飛びます。次の金曜日は、空港近くのホテルに尋ねてきてくれるサッカー関係者との話し合い、また他メディアへの原稿執筆で忙殺されるはず。そして土曜日に、一路アメリカへ(サンフランシスコで、ビジネス会合)。帰国は「月曜日」の4月1日になるはずです。

 ではまた、日本で・・。

 
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PS:何か、書いていてスッキリしないところがありました(感情を、必要以上に抑えている・・という印象が残ったのです)。ということで、最後に一言だけ。とにかく湯浅は、心から喜んでいます。日本代表が、あれ程素晴らしく立派なサッカーを展開し、ヨーロッパの強豪国に、それもアウェーで勝利をおさめた・・。私は、ドイツへサッカー留学していた当時から(かれこれ25年の間)そのことばかりを夢見ていたんですよ。だから本当に嬉しい!・・のです。これで、私のヨーロッパでの活動も、よりスムーズにやりやすくなるに違いありません。



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