湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第三節(1999年3月20日)

アントラーズvsサンフレッチェ(1-0)

レビュー

 イヤ、面白い試合でした。国立競技場の観客数は一万弱。冷たい雨に降られていたとはいえ、この試合の観戦を予定していて実際には来なかった皆さんには、「残念でしたネ・・」と言わざるを得ないかも?!

 とはいっても、チャンピオンズリーグとかセリエ、はたまたブンデスリーガなどを見慣れているせいか、最初の頃は、どうしても両チームの「ボールの動き」がカッタルく感じられてはいましたがネ・・。

 まず、このコラムの骨子に通じる、前半37分の決勝ゴールから・・。

 それは、サンフレッチェのオフサイドトラップが外された場面からはじまります。「オフサイドトラップ外し」を演出したのはビスマルク。彼の一瞬のタメによって、サンフレッチェ守備ラインの「確信」が「不安」に変わり、ラインコントロールの統率が一気に乱れます。そして次の瞬間、ビスマルクから、右サイドをオーバーラップする名良橋にタテパスが出されたのです。

 それが勝負の瞬間でした。中央では、マジーニョと長谷川が、(名良橋への)ビスマルクからのタテパスが出された瞬間に、サンフレッチェゴール前の決定的スペースに走り込みます。(名良橋のオーバーラップも含め)彼らのフリーランニングのスタートタイミングは秀逸そのものでした。そしてタテパスを受けた名良橋から、アタリマエだよ言わんばかりの「ダイレクト・センタリング」が送り込まれます。これで勝負アリ。

 最初のマジーニョはシュートに失敗しましたが、後方からバックアップで走り込んでいた長谷川の足にピッタリと合ったというわけです。

 「ヨシ!!決定的なタテパスが出そうだ・・」。それで全力で決定的スペースに入り込む。そしてそこに「ホントに」ラストパス(ラスト・センタリング)が送り込まれる。

 それこそが、アントラーズの強さを象徴しているプレーだったのです。

 私が言いたいのは、「ココゾ!」のチャンスで、複数の味方が「同時に」アクションを起こす「マインド」のことです。私は、次のプレーに対する「イメージがシンクロした」プレーと呼ぶわけですが、それが、実際のグランド上では「決定力」などといったものとなって現れてきます。

 このことはもう何度も書いているのですが、アントラーズの勝負強さの背景には、それはもう血のにじむような「イメージ同期トレーニング」があるのです。

 対するサンフレッチェ。中盤での積極的な守備と堅実な最終守備ライン、また攻撃の構成力など、彼らは決してアントラーズにひけを取っていたわけではありません。いや、内容的にはサンフレッチェの方が勝っていたといっても過言ではないとも思っています。それでも「結果」はアントラーズ・・。そこなのです私の言いたいことは。これって、日本代表の国際試合で、良い試合はやったけれど惜敗・・という現象に共通していたりして・・。

 世界のチームは、勝負所を心得ているというか、チャンスの芽を、本当に実際のチャンスに結びつけてしまったり、決定的なピンチをギリギリのところで防いでしまうような、言葉では表現しにくい「感覚的な強み」を持っているものです。アントラーズの試合を見ていて、確かに彼らには、「世界に通じる勝負強さ」が備わってきている・・と感じます。それもこれも、「世界のギリギリ勝負所」の本質を知り尽くしているジーコのチカラに負うところが大きい?!

 攻撃では、決定的な場面での「スペース感覚」とでも表現できるでしょうか、アントラーズ選手全員が、ボールを持つ選手の次のプレーに対する「イメージ」ができあがっているように感じます。柳沢にしても長谷川にしても、とにかく彼らの「(パスを受けるための)縦横無尽のフリーランニング」のスタートタイミングには、(他チームよりも)確実に一日の長があることを感じさせられてしまうのです。

 またアントラーズは、守備でも勝負強さをいかんなく発揮します。一点リードした終盤。サンフレッチェの猛攻を、それこそ「首の皮一枚」のところで防ぎ切ったアクティブディフェンスは感動的でさえありました。

 味方の守備プレーヤーが密集した状態でも、「オレがボールを奪い返してやる」「オレが、ヤツらのシュートをブロックしてやる!」というマインド(気持ち・・集中力・・考え続けるチカラ)を保つことは容易なことではありません。普通だったら、味方がたくさんいればいるほど、どうしても「アナタ任せ」になってしまうというわけですが、アントラーズの守備からは、最後まで「オレが!!」というマインドを感じるのです。これも、稀代の自己主張マインドの持ち主(?!)であるジーコの、長い年月をかけた「マインド伝達努力」の成果かもしれません。

 もちろんアントラーズからは、まだまだ「ジョルジーニョの穴」を感じます。この試合では、本田と阿部がボランチコンビを組んだのですが、確かに守備は堅実ですが、攻撃にうつる場面でのそこからの展開には、どうしても限界を感じてしまうのです。

 その意味で、マジーニョを中盤に下げる布陣には賛同します。彼とビスマルクが組んだ中盤の展開力はサスガ。とはいっても、まだまだ「後方からの大きく鋭い展開」という面で「穴」が感じられてならない湯浅でした。

 さてサンフレッチェですが、彼らは基本的には優れたサッカーを展開しています。これで三連敗となってしまったわけですが、まだまだ希望を捨てる必要はありません。このままのアクティブマインド(積極性)を持ち続ければ、必ずや光明が見えてくるに違いありません。とはいっても、まだ中盤でのボールの動きや(攻撃での)決定的な場面での「イメージ・シンクロ」については大きな課題を抱えていますがネ・・。

 パスを受ける前から、自分の「次のプレー」をイメージしておく(味方の位置、意図などについてイメージしておく)・・。常に決定的なフリーランニングのスタートを狙っている・・。「この味方」からのロングパスの場面では、絶対に相手最終守備ラインのウラに走り込む・・。ワンツーの場面では、確実に「パス&ムーブ(パスをした後に確実に次のパスを受けられる位置へ動く!)」を実行するだけではなく、「三人目の選手」も確実に、もう一つの可能性があるスペースへ走り込む・・などなど・・。

 これについては、もう選手たちの間で話し合うしかないのかもしれません。基本的には良いサッカーを展開できているのですから、後は選手たち自身が、自分たちの「イメージ」をしっかりと一致(シンクロ)させられるように話し合うのです。

 (久しぶりの本格的センターフォワード、久保も含め)基本的なキャパシティーレベルの高いサンフレッチェの今後の活躍に、レベルを超えた期待を寄せている湯浅でした。



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