湯浅健二の「J」ワンポイント


1999年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十四節(1999年5月22日)

マリノスvsサンフレッチェ(3-2)

レビュー

 この試合は、「どちらに転んでも勝ち取った勝利とは言い難い・・」というゲームでした。

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 久しぶりのサンフレッチェ。開幕三連敗したときに書いたコラムの最後を「三連敗にもかかわらず、彼らのサッカー内容からすれば、確実に順位を上げてくるに違いありません・・」と結んだことを覚えています。そして・・

 この試合での興味ですが、中村俊輔がいないマリノスがどの程度クリエイティブな組み立てを見せることができるか、また久々に見るバウベルの出来・・といったところ、対するサンフレッチェでは、もう何といっても久保です。久々の「本格的なセンターフォワードタイプ」の選手。彼に対する期待は天井知らずといったところなのですが、彼がこのまま伸び続けることができるか・・注目したいと思います。

 立ち上がりは、ホントに退屈。両チームともにまったく「リスクチャレンジ」の姿勢を見せません。単にボールをつないでいるだけ・・何だコリャ・・ってな印象です。何とか早い段階で両チームにとっての大いなる「刺激」になる出来事が必要だ・・そう、ゴールが必要なのです。

 15分、マリノスの三浦が、左サイドから勝負のドリブルを仕掛け、二人を抜き去ってシュートまでいきます。そのリスクチャレンジプレーが、両チームにとっての「目覚まし時計」になってくれたらナ・・ってな期待も、結局は空振り。

 何か両チームともに、「確実なパス(つまり仕掛けのない消極パス)」ばかりを考えているようなゲーム展開です。少しは、決定的スペースを意識したプレーを見せてくれヨ。もちろんパスを受ける方にも問題はあるのですが、ボールを持つ方も「リスク・チャレンジ」という意識が本当に稀薄なんです(何度かは、マリノスの永井走り込んだりしますが、パスが 出る雰囲気がまったくない・・)。

 「オレのミスでボールを奪われたくない・・」、選手全員がそんな消極的な意識でゲームをやっている・・だから、パスを受ける方の足もどんどんと止まり気味になってしまう・・そして、すべての攻撃アクションが簡単に守備の餌食になってしまう・・これは、前半は何も起きそうにないな・・

 前半終了間際、マリノスの永井とバウベルのワンツーが決まり、決定的なシュートチャンスを作り出しはしました。ただ全体としては、とにかく「何だコレ・・」というものすごく退屈な内容。チャンスを作り出すような中盤からの「仕掛けパス」が難しい場合、最終守備ラインからの「決定的ロングパス」を狙うなどの工夫(変化)が必要なのに・・。選手たちに、そんな「変化」に対する意識がまったくありません。

 例えば、中盤でボールを回し、最終守備ラインの誰かにボールがもどってきたとしましょう。そんなタイミングでは、相手最終守備ラインが上げられているもの。そう! それが、相手最終守備ラインとGKとの間に広がる太平洋のような決定的スペースを、「ラスト・ロングパス」などで突いてしまうチャンスなんですヨ。

 ただ両チームの最前線の選手たちは、ただボールを眺めているだけ。ラストパスは「呼び込むもの」でもあるのに・・。一体、何を考えているんダ! って叫びたくもなりますよ。もしかすると、選手たちは何も考えていなかったりして・・っていうのは言い過ぎかナ・・

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 さて、後半。ペースは完全にサンフレッチェに流れていきます。中盤での守備がアクティブになり、攻撃でのリスクチャレンジも増えてきたのです。

 そうなれば久保の能力も生きてくる?! そうです。どんどんと決定的なフリーランニングを繰り返す彼が起点になり、何度もチャンスが作り出されるよにうになります。チームのペースが上がり、久保も「ヨシッ、これなら仕掛けパスが来るに違いない・・」と確信できるようになったのでしょう。

 やはりサッカーの攻撃では、ボールがないところでのプレーが勝負を決めてしまう(勝負シーンの芽を生み出す)ということです。そして前半7分、サンフレッチェ、高橋が先制ゴールをもぎ取ります。さて、これで(特にマリノスの)ゲームに動きが出てくるな・・

 ・・という期待はあったのですが、現実は、マリノスのペースはまったく上がらず、たまに見せるカウンターにも威力なし・・といった具合。

 最初に書きましたが、中村がいないマリノスが、これほど戦力ダウンしてしまうとは・・彼らは、何か「心理・精神的」な問題を抱えているのかも。最前線に張っていなければならないバウベルも、我慢しきれなくなって中盤でのパス回しに参加してきます。でも中盤の二列目から上がっていく選手など一人もいませんから、吉田のワントップになってしまっている。それも「動きのないターゲット」ですからネ・・結果は言うまでもありません。

 そしてサンフレッチェが、14分、ゴール前での冷静なパス回しから、最後はフォックスが追加ゴールを決めてしまいます。その後の(心理・精神的な)試合展開からすれば、もうこれで勝負ありだな・・と感じていたもののですが、そんな私の短絡的な思い込みが、サッカーの神様にあざ笑われてしまいます。

 23分、(バウベルとの競り合いで)フォックスが一瞬のためらったことから、バウベルにボールを奪われ、最後は吉田にゴールを決められてしまいます。これで「2-1」。

 ただその後もマリノスのペースはまったく上がりません。ゲームの流れとしては大きなチャンスなのに、決定的フリーランニングなし、またリスクを犯すパスなしと、強いときのマリノスとはかけ離れた最低パフオーマンスなのです。

 ホントにどうしたんだ・・と思っていたら、(思ってもみなかった)同点ゴールが生まれてしまいます。フリーキックからのこぼれ球を上野が冷静に決めたのです。ここから、眠っていたマリノスが、やっと目を覚ましたかのように攻めはじめます。そして、左サイドまで大きくオーバーラップした上野からのピンポイントセンタリングを、永井がジャストタイミングでのヘディングシュート。これでマリノスが逆転。後半43分のことです。

 内容的にはサンフレッチェに軍配は上がりますが、それも僅差(サンフレッチェにしても、ベストな状態とはほど遠く、マリノスがあまりにも悪すぎたから、少しはマシ・・という程度)。

 結局、このゲームで起きたことを説明するためには、ココゾの決定力の差・・なんていうファジーな表現に頼るしかなかったりして・・

 こんなゲームをやっていたら、プロにはあるまじき「消化試合・・」などと揶揄されても仕方ありませんし、観客の「観戦リピート」を望むこと自体が失礼に当たるということになってしまいます。

 「(勝ったことは勝ったけれど・・)内容が悪かったから、あまり・・。それでも次は魅力的なゲームをやろうと思いますので皆さん・・」。上野の試合後のインタビューでした。少しは選手たちも、ゲームの内容のなさを感じていたんだ・・。

 これで選手たちが何も感じていなかったら、それこそ「病気」です。ちょっと憤っていた湯浅でした。



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