湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第十五節(1998年11月3日)

アントラーズvsジュビロ(1-0)

レビュー

 前節のジュビロ対エスパルス同様、実力トップ同士の、「内容がある」エキサイティングゲームでした。

 両チームともに、フォーバック。とはいっても、基本的なやり方は大きく違います。

 ジュビロが、限りなく「ラインフォー」に近い最終守備ラインのシステムなのに対し、アントラーズのそれは、限りなく「スリーバック」に近い最終守備ラインのシステムなのです。

 これは、中盤守備のやり方が、ジュビロでは、どちらかというと「バランス・オリエンテッド」なのに対し、アントラーズは「マンオリエンテッド」だということにもかかわってきます。

 これについては、今週金曜日アップデート予定の「Yahoo Sports 2002 Club」のテーマに採りあげようと思っていますから、そちらも参考にしてください。(チョット専門的なテーマなのですが、できる限り分かりやすく書きますからネ・・)

 アントラーズでは、ジュビロのツートップの一人、奥を、本来はボランチの本田が基本的にマークするというチーム内の決まり事があるようです。また本田は、ジュビロがロングパスを狙うような陣形になった場合は、必ず最終守備ラインの中に入り、スイーパー的な役割も果たします。同じように、本田が上がればジョルジーニョが下がり、必要に応じてスイーパーのポジションに入ります。ということで、アントラーズの場合は、実際には「上がり気味のスイーパー」がいるシステムをとっているとすることができるでしょう。

 このやり方は、アントラーズが長年続けている伝統的なもの。チーム内に、しっかりとした「ピクチャー(プレーのやり方に関する具体的なイメージの共有)」が出来ていますからほとんどいっていいくらい崩れません。

 こんな堅牢な守備システムですから、少なくても前半は、ジュビロの「スペース感覚」あふれる攻撃が、完璧に封じ込まれっぱなしでした。中山が(ボールがないところで)走っても、まったくフリーになれないだけではなく、そこにボールを供給するための「攻撃の起点」もできないのです。

 攻撃の起点とは、ある程度フリーでボールを持っている選手のことです。普段のジュビロならば、中盤に連続的に「起点」が生まれ、そこから、決定的なスルーパスなどが、最前線で、決定的なスペースを狙う中山、奥などに出ます。ただこの試合では、攻撃の起点すら作り出すことができませんでした。

 それほどアントラーズの中盤から最終守備ラインにかけての守備が安定していたということです。

 対するジュビロの守備ですが、たしかに安定はしていますが、確実性という意味では完全にアントラーズに軍配が上がります。中盤での、「次のパスに対する狙い」は定めていても、アントラーズのボールの動きが素早く、広いために、どうしてもターゲットを絞り込むことが出来ず、アントラーズが、簡単に「攻撃の起点」を作り出してしまうのです。「あの」ドゥンガでさえ、(自分も守備のターゲットを外され続けているから)怒るわけにもいかず、「こりゃ、いかんな・・」と頭を垂れてしまう始末。これでは・・。

 何度か決定的なチャンスを作り出したアントラーズ。そして結局、ビスマルクのフリーキックから、前半終了間際にマジーニョが先制ゴールを決めてしまいます。

 前半で目立ったプレーを一つ。

 それは、22分。中山へのパスをカットした室井がそのままドリブルで上がり、相手のファールをさそったプレーです。

 阿部のFKは、バーに当たってしまいましたが、ディフェンダーが、ボールを奪い返し、そのまま攻撃に参加する・・それはモダンサッカーではアタリマエです。そんな積極性が、勝負を分ける「心理的ベース」になります。特に中盤の流れの中で「ボールを奪い返す」という守備の目的を達成したときには、その「ご褒美」としてフィニッシュまでいく攻撃を仕掛けてよい・・。それは、ディフェンダーにとって大きなモティベーションですからネ。その意味でも、この試合はアントラーズに一日の長があったとすることができそうです。

 もう一つ、アントラーズとジュビロでは、攻撃の展開の「広さ」にも差があったように感じます(前半26分の、ジョルジーニョから名良橋へのサイドチェンジからの突破は見事)。アントラーズでは、特にジョルジーニョからの大きな展開が目立っていたのですが、逆に、中盤でものすごいプレッシャーかけられ続けていたジュビロの展開は、本当に「矮小」なものに抑え込まれていました。

 アントラーズは、そんな素早く大きな展開から、サイド攻撃、ドリブル突破、ワンツーなど、変化に富んだ攻めを魅せていました。

 さて、一点リードされた後半です。最初は「もちろん」ジュビロペース。ガンガンと押し込んできます。ただそれを厚い守備網で跳ね返し、効果的なカウンターを仕掛けるアントラーズ。試合巧者です。

 一度そんな危険なカウンター攻撃を仕掛けられたら、心理的に不安定になってしまうのも道理。後半の最初の時間帯を過ぎた頃から、徐々にアントラーズが再びペースを握りはじてしまいます。

 ここなんですヨ。この「心理的なペースの奪い合い」が面白いんです。

 サッカーは心理ゲームですから、相手を不安にさせることさえできれば、どんどんと心理的な悪魔のサイクルに落とし入れてしまうことが出来るんです。ただ、やはりジュビロは並のチームではありませんでした。

 ドゥンガを中心に、守備のバランスを保ちながら、再びペースを握りはじめてしまうのです。もちろん一点ビハインドですから、ジュビロは攻めるしかないのですが、それでも、無計画ではなかったことが特筆もの。さすがに、心理的な部分、戦術イメージ的な部分など、よくトレーニングされているチームではあります。

 中山への決定的なスルーパスや、中山の決定的なヘディングシュートなど、何度かチャンスを迎えたジュビロでしたが、結局ものにすることができずにタイムアップ。

 この結果、セカンドステージのチャンピオンには、アントラーズが輝くことになりそうです。ということで、この試合は、グランドチャンピオンマッチの前哨戦ともいえる性格を帯びていたわけですが、今日の試合内容を見れば、それがものすごくエキサイティングで内容のある試合になることは容易に想像できますよネ。期待しましょう。

 余談ですが、どんどんと成長を続けている柳沢について、苦言を一つ・・。

 それは後半10分のこと。左サイドにいた柳沢にパスが回されたという状況です。

 そこで、中央にポジションをとっていたマジーニョが、柳沢がパスを受ける「前の段階」で、ジュビロゴール前の決定的スペースへダッシュを仕掛けたのです。ただ柳沢のパスタイミングが遅れて(彼がマジーニョの意図を『感じる』のが遅れて)オフサイド。マジーニョの爆発的なダッシュに、ジュビロのディフェンダーはまったく付いていけていませんでしたから、ビッグチャンスだったのに・・。世界レベルの「ウラ取りピクチャー」の差がかいま見えた瞬間でした。

 柳沢も「しまった・・」と思ったに違いありません。そんな失敗の体感が「次」につながります。柳沢選手に大いなる期待を込めて・・・湯浅のメッセージでした。



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