湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十七節(1998年8月8日)

ジュビロvsベルマーレ(3-1)

レビュー

 最後まで目が離せない、ホントウに面白い優勝争いでした。

 同勝ち点で最終節に突入したジュビロとエスパルス。とはいっても、ご存じのように、得失点差ではジュビロが断然有利。エスパルスは、レギュラータイム内で勝つことが優勝するための大前提ということですが、その条件はジュビロも同じです(それでなければ、互いにアナタ任せになってしまう)。エスパルスの対戦相手がアビスパということもあり、とにかく90分間で勝たなければならない・・そんなジュビロの心理的なプレッシャーは推して知るべしといったところです。

 ジュビロと相対するのは、中盤の王様、中田が抜けたベルマーレ。また呂比須はケガ、最終守備ラインの重鎮、クラウジオも出場停止と、とにかく「外見」には、ジュビロ絶対有利というところですが、そこはサッカー、失うものが何もないだけではなく、主力が欠場していることもあって(危機感の高揚)、ベルマーレ選手たちの集中力は、150パーセントにまでに高まっていたに違いありません。自分たちの目の前で優勝の胴上げを見たくないと思うのも当然ですしネ。

 サッカーは心理ゲーム。始まる前も、前半が終了した後も、何となくドラマの予感がしていました。

 試合は、「予想通り」ジュビロがペースを握ります。それでも、完全に試合を掌握しているというのではなく、ホームパワーに後押しされた勢いでベルマーレを押し込んでいるといった様相。もちろんベルマーレは、まずしっかりと守り、チャンスを見計らってのカウンターというゲーム戦術で試合に臨んでいるでしょうから、そんな展開も計算済みといったところです。

 10分、ジュビロのドゥンガと藤田が素晴らしいコンビネーションを見せます。ペナルティーエリアの中央、外側でドゥンガがタメている瞬間に、藤田が決定的なスペース(相手GKの前のスペース)へ、ベストタイミングでフリーランニングをスタートしたのです。そこへ、これも測ったようなタイミングとコース、そしてピッタリの強さのパスがドゥンガから出ます。まったくフリーでトラップした藤田。難しいパスだったのでトラップがうまくいかず、結局シュートには失敗してしまったのですが、サッカーのエッセンスを十二分に表現した、それはそれは美しいコンビネーションプレーでした。

 そこら辺りから、ジュビロのプレーに落ちつきが出てきたように感じられました。

 この試合でも、ドゥンガが目立ちます。とにかく、攻守にわたって鬼神の活躍。確かに運動量は減りましたが、ココゾッという守備での勝負所には、常にベストタイミングで入り込みます(でも、ちょっと山西を叱りすぎ?!)。また攻撃でも、シンプルかつクリエイティブな組み立てを見せるのです。彼がボールを持ったときの、周りのフリーランニングは特筆もの。それは、彼に対する信頼の証明といったところでした。

 ドゥンガの集中力(常に考え続ける姿勢)は底なし?! 怒り続ける「鬼軍曹」。そんなイメージの背景にある、勝負に臨む真摯な態度にはアタマが下がります。

 さすがに、ドイツ、ブンデスリーガで「存在感」を発揮し、個人プレーだけでチームプレーには欠ける南米サッカー・・というネガティブイメージを一新することに貢献した南米選手の第一世代。彼のプレーを見ているだけで、入場料にオツリがくるというものです。

 レッズのギド・ブッフバルトもそうだったのですが、こんな超一流のパーソナリティーがいるうちに、もっと彼らのプレーの本質を議論すべきだと心底感じた湯浅でした。

 この試合でのベルマーレですが、しっかりとした守備から積極的な攻めを展開するなど、全体としては、よくやったと思います。

 特に守備では、田坂とホン・ミョンボの活躍が目立っていたのですが、それでも、ベルマーレの守備では、相手の決定的なフリーランニングについていかない場面があまりにも頻繁に起こりすぎ・・という印象を強くしました。だから、田坂とホンの、決定的な場面での必死のカバーリングが目立っていた?!

 前述した藤田のチャンスもそうでしたが、決定的な場面で、何度も相手をフリーにしてしまう場面を目撃したのです。確かに(遅れたタイミングではあっても)最後は誰かがチェックに入りはしますが、ゴール前の決定的な場面で少しでも相手をフリーにしてしまうこと自体が大きな問題なのです。

 結果としてチェックに入ったし、失点はしなかったんだから・・。それでは単なる結果論。結果としてムダであったとしても、基本に忠実にプレーすることをおろそかにしてしまっては、いつかは必ず痛い目に遭ってしまうものなのです。特にこの試合は、守備堅めが基本的なゲーム戦術だったのでは・・??

 後半12分に挙げた、藤田の先制ヘディングゴールの場面がそうだったとはいいませんが(後ろ気味のポジションから、ヘディングする瞬間に、マークするバデアの前へスッと出た藤田のクレバーさの勝利)、ベルマーレの守備には、決定的な場面でのマークに明らかに課題があります。

 このところを修正しておかなければ(意識の徹底とトレーニングでの実践)、セカンドステージでも同じ問題が生じてしまうに違いありません。

 エスパルスですが、最後までホントウによく頑張り、リーグを盛り上げました。福岡のゲームでも、素晴らしい内容でアビスパに勝利したと聞いています(3-0)。彼らの場合、クラブ存続の危機が叫ばれていたのですが、逆にそれが選手たちの大きなモティベーションになったのでしょう。

 「サバイバル」という環境だからこそ、攻撃的な(積極的で前向きな)リスクチャレンジの姿勢を崩さない。それがプロとしての本質的な態度です。その意味で、アルディレス監督率いるエスパルスの、セカンドステージでの活躍に大いなる期待を抱く湯浅なのです。




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