湯浅健二の「J」ワンポイント


1998年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第十六節(1998年8月5日)

グランパスvsジュビロ(1-2)

レビュー

 ジュビロは、この試合に勝てば、得失点差で大きくリードしていることもあって、優勝への大きな一歩を踏み出します。

 「とにかく今度は自分がいる状態で優勝だ・・」。そう言ったかどうか、バケーションあがりのドゥンガが先発から出場です。対するグランパスは、まだ優勝戦線にクビの皮一枚のこしている・・ということもあるし、相手が前シーズンチャンピオンのジュビロということもあるのでしょう。試合開始当初から、アクティブな中盤守備など、気合い十分のサッカーを展開します。

 これは面白い試合になる・・。思った通り、両チームともにボールの動きが大きく素早いなど、良質なゲームを展開します。拮抗したゲーム内容とはいえ、両チームとも、しっかりと相手ゴールまで迫り、何らかのフィニッシュまでいってしまうのです。

 ただ、先制点は意外なカタチで入ってしまいます。前半20分。ドゥンガが左サイドから蹴ったフリーキック。大きくカーブを描いて、グランパスのファーポスト側へ飛びます。パンチングしようとゴールマウスを飛び出すGK伊藤。ただ彼の繰り出した右手は、ボールをかすってしまいます。完全なパンチミス。そしてボールが、こともあろうに自分の背中に当たってゴールに飛び込んでしまうのです。こんな自殺点、見たことない?!

 これで、それからの伊藤のプレーに興味がわいてきました。こんな大チョンボをしたGK。それでも、その後からは自信をもったプレーを展開できればホンモノです。ただ結局そのミスは、伊藤の心理にネガティブに作用していたようです。

 前半39分。右サイドのスペースへ、ピッタリのタイミングでオーバーラップした古賀へ、これまた測ったようなタテパスが通ります。そのパスをしっかりと止める古賀(というか、どちらかといえば偶然足の裏に入って理想的なトラップができたといった方が・・)。その足元へ、(これまた?!)遅れたタイミングで、GKの伊藤が飛び込んできたのです。古賀のトラップを見極めた飛び込みではなく。遅れ気味のタイミングであったにもかかわらず最後まで飛び込んでしまう・・。結果は、完璧なトリッピング(相手を引っかけてしまう反則)。PKです。それも伊藤のミス以外のなにものでもありませんでした。

 GKのミスで二点もリードされてしまう。それはもう最悪のシナリオです。案の定、ストイコビッチの顔がひきつってきます。そして例によって、「フラストレーションが原因の暴言(イエローカード)」です。

 わたしは、先週の「2002」のコラムで、プロでは「・・たら、・・れば」は禁句。プロの資質として、過去にこだわらない心理構造が重要だ、と書きました。もちろん「事前の、・・たら、・・れば」はモティベーションになりますが、「事後」のそれは自滅の原因になるだけなのです。その意味でも、後半のグランパスのプレーに注目していた湯浅でした。

 その後半が始まりました。グランパスの選手の表情からは「元気」を感じません。対するジュビロは、これで「大きな一歩」を手に入れるわけですから気合い十分といった立ち上がりです。そしてそんな微妙な心理状態の中、またまた伊藤が、選手たちの不安をかき立てるようなプレーをしでかしてしまうのです。

 始まってすぐの、ジュビロのコーナーキック。キッカーはドゥンガ。蹴られたボールは、中央で待ちかまえる奥のアタマにピッタリカンカンで合います。そこにゴールマウスから飛び出してきた伊藤。ただ結局は、ボールに触ることができず、奥のヘディングを許してしまうのです。

 幸運にも、ボールはゴールを外れましたが、それは、単なる幸運としかいいようがないプレーではありました。

 ゴールマウスから飛び出したゴールキーパーは、絶対にボールに触らなければならない。それは世界のサッカー界における鉄則です。それが失敗した場合、どれほど守備陣の心理状態が不安定なものになってしまうか。

 伊藤は、基本的には優れたGKですが、一度大きなミスを犯してしまい、そこから立ち直ることができませんでした(彼には心理トレーニングが必要なようです)。そして彼のパフォーマンスが地に落ちてしまうのです。これでは、味方守備陣の心理状態も一緒に地に落ちてしまうのも道理。田中監督は、GKを交替させるべきだったのかもしれません。

 そして後半18分。今度はグランパス最終守備ラインの中心、トーレスが二枚目のイエローカードで退場です。グランパスにとっては、これ以上ないという最悪の状況になってしまいました。

 ただここで、心理的に「吹っ切れた状態」とでも表現できることがグランパスに起きてしまうのです。「こうなったらもう何も失うものなんて・・」と、グランパスの選手が開き直ってしまったのです。伊藤のプレーにも、本来のキレがもどってきます。そして21分には、岡山がゴールまで決めてしまいます。これで「2-1」。『ホントウに、サッカーって面白いですネ』・・ナンチャッテ。

 それからのグランパスは、もう押せ押せ。ただ、そんな試合展開を読んだように、しっかりと中盤守備を固めるように指示を出し、自身も効果的なカウンターの起点になる中盤の鬼軍曹、ドゥンガ。そんな彼を中心に、堅牢な守備をベースにしたジュビロのカウンターも、何度となくいいカタチでフィニッシュまで行ってしまいます。世界の頂点を極め、全ての試合状況を知りつくした歴戦の勇士である彼の面目躍如といったところでした。

 彼のリーダーシップがなかったら、グランパスの勢いが、11人目、12人目、はたまた13人目のグランパス選手を、カスミの中からグランド上に生まれさせてしまったに違いありません。グランパスの勢いと、ジュビロの(余裕からくる)消極さ。そんな「心理ポテンシャルの差」が、「カスミ選手」たちを生み出してしまう可能性もあったということです。もしそうなっていたら、それこそ「サッカーは心理ゲーム」といった展開になっていたのに・・。ドゥンガの経験が、そんなエキサイティングドラマのスクリプトを霧散させてしまったといったゲームでした。

 さてこれで、他チームがすべて勝ち点を失ってしまったこともあり、優勝争いは、ジュビロとエスパルスに絞られました。得失点差、また「優勝経験」を考えれば、ジュビロに一日以上の「長」があることは確かなことです。それでも、そこはサッカー・・・?! これ以上書く必要はありませんよネ。

 さ〜〜て皆さん。三日後の土曜日(8月8日)が楽しみになってきましたネ。では、また・・・




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