湯浅健二の「J」ワンポイント


2016年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2016年4月24日、日曜日)

 

チーム作りにおける両指揮官のリスクチャレンジ姿勢と、成果としての高質なダイレクト(パス)コンビネーション・・(フロンターレvsレッズ、0-1)

 

レビュー
 
いや、ホント、ものすごく楽しい観戦だった。

両チームがブチかましつづけた、とてもハイレベルな、攻撃的(リスクチャレンジ)サッカー。その強い意識と意志、そして勇気あふれる積極性は、最後の最後まで衰え知らずだった。

まあ、とはいっても、前半は、明らかにレッズがイニシアチブを握った。その絶対的バックボーンは、もちろん守備(意識)にあり・・だよ、守備に。

でもネ・・

そう、言わずもがなだけれど、レッズは、リトリート(下がって)守備ブロックを固めるなんていう低級なやり方などしない。

そうではなく、あくまでも、素早く効果的な攻守の切り替えをベースに、最前線から協力プレスをブチかましていくっちゅう、攻撃的ディフェンスなのだよ。

まあ、このレッズのプレー姿勢については、もう様々なメディアで採り上げられているとおりです。

ということで最前線からのプレッシング守備。そのテーマについて、ゲーム中に興味深いコトを小耳にはさんだんだよ。

あるジャーナリスト仲間の方が、フロンターレの選手たちに対する取材をベースに、ここんな情報を流してくれたんだ。曰く・・

・・フロンターレ選手たちも、レッズの、前からディフェンスが強力なことは知っているし、たぶん最初のころは、少し押し込まれるかもしれないと言っていたんですよ・・

・・でもそれは、かなりエネルギーを消費する協力プレス守備だから、90分間を通して同じペースというわけにはいかないのじゃないか・・

そう、フロンターレ選手たちは、レッズの、最前線からブチかましてくる「攻撃サッカー」をベースに、自分たちが「どのようなゲーム展開イメージ」をもってグラウンドに立つのかについて、確固たる共通理解をもっていたのだよ。

でも・・

そう、皆さんも観られたように、レッズのプレッシングの勢いが、後半になって明確に「落ちた」とは感じられなかったですよね。

そうではなく、後半については、フロンターレが、より自分たちの持ち味を出した「良い(人とボールの!)動きリズム」でゲームを運べるようになったと見るのが正解だと思う。

そしてフロンターレは、(レッズが先制ゴールをブチ込んだこともあって!?)、より積極的に人数をかけて前へ仕掛けていったと思うわけだ。

そして後半のゲーム展開が、全体的なイニシアチブでは、(一点を追いかける!)フロンターレが比較的優位に立ち、前半とは逆に、レッズが必殺カウンターをブチかます・・ってなカタチへと変容していったっちゅうわけだ。

そう、その「ゲーム展開の変容現象」には、フロンターレの戦術的な微調整と、選手たちの「意志の高揚」が絶対的なバックボーンだったということであり、決して、レッズの協力プレス守備の「勢い」が大きく減退したから・・という背景があったわけじゃないんだよ。

まあ、このテーマについては、またの機会に譲ることにしよう。何せ、そのグラウンド上の現象の背景には、とても多くのファクターが複雑に入り組んでいるわけだから。

それよりも・・

そう、私は、レッズ守備のコノテーション(言外に含蓄される意味)にスポットを当てたい。

それも、前述した「前からの協力プレス守備(もちろん目的はショートカウンター!)」ではなく、フロンターレがブチかました必殺カウンターに対する守備をテーマにしたい。

私は、何度かあった、とても危ないカウンターシーンを観ながら、こんなことを考えていた。

・・以前のレッズだったら、完璧にやられてしまう場面でも、とても冷静に、そして効果的に抑え切れている・・だからこそのチーム総合力(勝者メンタリティー)の進化と深化というわけか・・

まあ、ミハイロは、私の質問に対して、「二つくらいは、とても危ないシーンはあったよね・・でも、我々の守備ブロックは、とても冷静に対処できていたと思う・・」と述べていた。

そしてミハイロは、こんな興味深いニュアンスのコメントも残してくれたんだよ。曰く・・

・・オレは、個人的なコメントはやりたくないのだけれど・・でも、例外的に一人だけ・・

・・遠藤航・・彼の、カウンターピンチでの落ち着いた対応は、殊の外素晴らしかったと高く評価したいんだよ・・それがあったから、槙野智章や森脇良太のプレーにも落ち着きと余裕が感じられるようになったと思うんだ・・

フムフム・・。

私も、そう思う。

遠藤航という天賦の才は、ミハイロが述べた最終ラインのチームメイトたちだけじゃなく、両サイドバック、そしてチームの重心である、阿部勇樹と柏木陽介のセンターハーフコンビの機能性にも、大いなるポジティブ刺激を与えていると思うんだよ。

もっと言えば、遠藤航の加入によって、前述した選手たちが、本来のチカラを存分に発揮できるようになっている・・とも評価できそうだ。

まあ、他にも・・

・・積極的になってきている(!?)ミドルシュート狙い(興梠慎三がブチかましたキャノンシュートはレベルを超えていた!)というテーマ・・

・・また、(前戦プレスを外された後の!)クレバーで落ち着いた組織的ディフェンスにおけるポジショニングバランスと、チェイス&チェックを仕掛けていく「ブレイク」の後のカバーリングなどの絶妙な「連動機能性」・・

・・等など、テーマは多いけれど、それらについては、追い追い採り上げていきますよ。

それよりも・・

今日のコラムの締めとして、同じような「チーム作りベクトル」を志向する二つのクラブが、素晴らしいゲームを展開したということで、こんな二つのテーマをピックアップしようと思った。

一つは、3人目、4人目の「クリエイティブなムダ走り」が満載された、ダイレクト(パス)コンビネーションというテーマ。

これについては、新連載「The Core Column」において昨日アップした「このコラム」をご参照下さい。

そこではレッズをモデルにしたけれど、レッズの代わりに「フロンターレ」と挿入しても、とてもスムーズに意味が通じるはずです。

またフロンターレについては、同じ連載のなかで、以前に、「あの」バルセロナと同列で、「人とボールの動きのリズム」について、「こんなコラム」も発表していますよ。

そしてもう一つのテーマが、両監督ともに示唆していた、「美しく勝てるチームを作り上げるプロセスでは攻撃的な姿勢がベースだ・・」というモノ。

もちろんそれは、日本サッカーを、いかに早く、効果的に「世界トップ」へ近づけていけるのか・・というテーマとも言える。

このテーマについても、レッズとサンフレッチェをモデルに、新連載「The Core Column」において「こんなコラム」を発表したから、そちらもご覧あれ。

そこで「も」、レッズの代わりにフロンターレと挿入しても、スムーズに意味が通りますよ。

ということで、この2チームの今後の発展プロセスを、自分自身の学習機会としても、大いなる興味をもって注視していこうと再確認している筆者だったのであ〜る。

へへっ・・

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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。

昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。

何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。

まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。

皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。

まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。

ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。

そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。

だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。

この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。

そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。

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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。

一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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