湯浅健二の「J」ワンポイント


2016年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第14節(2016年5月29日、日曜日・・実際のアップは翌日)

 

ちょっと視座を変えたディスカッションにしようと思った・・(鳥栖vsレッズ、0-0)

 

レビュー
 
マッシモ・フィッカデンティというイタリア人プロコーチの面目躍如。

彼は、レッズとの実力差と、そこに内包された意味をしっかりと消化し、「守備からゲームに入り、蜂の一刺しカウンターとセットプレーを狙う・・」という勝負サッカーに徹した・・ということだね。

私は、このところの鳥栖コラムで、マッシモ・フィッカデンティが志向するのは、昔の堅守速攻(リアクション!?)イタリアサッカーとは一線を画する・・なんていう主張をしていた。

でも、まあ、今のレッズは確かに強いから、「ゲーム戦術」に徹するという選択肢もアリだね。

ということで、そのように観れば、それもまた一興ではあるわけだ。

もちろん、「長い目」での日本サッカー発展というテーマを俯瞰(ふかん)すれば、(勝負ばかりを意識する!?)ゲーム戦術を前面に押し出し「過ぎる」ことは、あまりポジティブではない。

それでも、鳥栖が展開した、覚醒の創造性と強烈な意志が満載されたディフェンスには、サッカーの進歩という意味でも、大事なコノテーション(言外に含蓄される意味)が内包されていることもまた確かな事実だと思う。

ということで、この「戦術ゲーム」にも、プロサッカーの醍醐味が内包されていたとするに躊躇(ちゅうちょ)しない筆者なのであ〜る。へへっ・・

もう一つ、「理想」マイナス「現状」イコール「課題」という式についても一言。

私は、この式を、「数字」も拠りどころにした「感覚的な目標イメージ」を象徴化するためのツールとして活用している。

要は、錯綜した内容に考えを巡らせているとき、アタマを整理するために、この式を思い浮かべることにしているというわけだ。

理想は、もちろん、美しく勝つこと。

でも、そこには「実力差」や「周りの状況・環境」という現実がある。

だから、様々なファクターを前提に、「蛮勇」を振るうのではなく、設定した「理想的な目標」を達成するための「現実的な課題」を探ろうというわけだ。

まあ、もちろんそこには、「何が蛮勇か・・」という議論もあるわけだけれど・・さ。

ということで、強いレッズと対峙する鳥栖は、錯綜するファクター満載の「攻撃的サッカー」にチャレンジしていくのではなく、現実路線のゲーム戦術に舵を切ったというわけだ。

もし、分不相応な(攻守の)チャレンジを仕掛けていったら、結局は、レッズとの「総合力の差」が、徐々に、そして「小さなトコロ」でグラウンド上に現出してくる。

そして最後は、肝心なトコロでディフェンス人数が足りなくなったり戻りが遅れたり、「最後の半歩アクション」が伸びなくなるといった、最終勝負シーンでの決定的アクションの内実に、微妙な「Deficit」が生じてくるんだよ。

この、「微妙に足りないトコロ」に関する戦術的なコノテーション(言外に含蓄される意味)に思いを巡らせることは、ものすごく興味深い学習機会だよね。

あっと、脱線。

とにかく、この「微妙なDeficit」の積み重ねによる影響が、勝ち点という結果を大きく左右してしまうということが言いたかったんだっけ。

フムフム・・

ということで、マッシモは、「現実的な課題」を設定することにした・・っちゅうわけだ。

とにかく鳥栖プレイヤーたちは、レッズが最終勝負をスタートさせるのと同時に、素早くスムーズに、そして最高の集中力と忠実さで、実効レベルの高いマンマークへ移行するんだ。

そう、ポジショニングバランス(組織された守備ブロック!)オリエンテッドな状態から、レッズの仕掛けスタートに即応して組織バランスを「ブレイク」し、マンマークへ移行するんだよ。

この「マンマーク」という表現だけれど、それには、決定的フリーランニングを仕掛けるレッズ選手を効果的にマークするというだけじゃなく、レッズが狙う、最終的な「決定的スペース」を潰すというニュアンスも込められている。

鳥栖の選手たちは、そんな、ボールがないところでのディフェンスアクションの量と質を、徹底的にイメージしつづけていた。とても立派だった。

そう、マッシモ・フィッカデンティは、そこで展開された効果的な連動ディフェンスの「イメージ創り」に全力を傾注し、そして成功を収めたのだ。

まあ、言葉で表現すれば簡単だろうけれど、そこでの、ボールがないところのでのアクションの量と質には、とても深い学習機会が内包されていると思うわけさ。

ということで、レッズ。

例えば、興梠慎三がブチかます、最初のワンのパスをスルーしてからの爆発ダッシュでリターンパスを受けるという「変形ワンツー」のコンビネーション。

例えば、トップへタテパスが送られた瞬間に後方からスタートする(柏木陽介がブチかました!)3人目のフリーランニング。

・・等など。

鳥栖ディフェンスは、そんな3人目、4人目のフリーランニングまで「正確にイメージ」し、タイミングの良い「組織ブレイク」と、その後のマン(&スペース)マーキングと忠実なカバーリングで、レッズの仕掛けを潰しつづけたんだ。

もちろん、それでもレッズは、足を止めることなく、相手の一瞬の「思考の空白」に生まれる数少ないチャンスを追い求めて、最後までチャレンジをつづけたと思う。

そのプレー姿勢もまた、立派だった。

こんな膠着状況がつづいた場合、皆さんもご存じのとおり、私は、相手ディフェンスを驚かせる「仕掛けの変化」が必要だ・・と主張します。

例えば、後方からのアーリークロス的な放り込み・・例えば、中距離シュート・・等など。

でも、この試合では、それら全ての「ボールの出所」に、効果的にフタをされてしまった・・という印象があるんですよ。

ホントに鳥栖のディフェンスは、忠実に、そして創造的に頑張っていたし、最後の最後まで集中力を切らさなかったのだよ。

ここからが、私の主張になるわけだけれど・・

それは、そんな素晴らしい鳥栖ディフェンスだったからこそ、ホンモノの忍耐力が問われる・・という主張。

何度失敗しても、全力で、次のチャンスを狙いつづけられる精神力(インテリジェンスと意識と意志のチカラ!?)とでも表現できますかネ。

あのようなゲーム展開だったからこそ、意識と意志をハイレベルに保てた方に、勝利の女神が微笑むということが言いたかった。

そう、ボールがないところでの動きを、両チームの、疲労によってアクションコンテンツが徐々にダウンしていく「全体的な雰囲気」に呑み込まれることなく、主体的にアップさせられる精神力。

気持ちが縮こまってしまうようなネガティブ雰囲気を体感すればするほど(!)、逆に、意志(自我)を活性化させられる精神力!?

うまく表現できないけれど、とにかく、そんな精神力(インテリジェンス+意識+意志+アルファ)こそが最後は報われる・・と、経験&体感レベルでイメージしている筆者なのだ。

何か、分かり難いコラムになってしまった。ご容赦。

では、また・・

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ところで、ワケの分からない、1.ステージ、2.ステージ、そしてチャンピオンシップ・・という「興行」について。

昨シーズンの「J」は、本当にツキに恵まれた。

何せ、年間最多勝ち点チームというリーグ頂点に立ったサンフレッチェが、「興行チャンピオン」にも輝いたわけだからね。でも、昨シーズンの二位クラブは、ガンバ大阪なんだってサ。要は、「興行チャンピオンシップ準優勝チーム」ということらしい。

まあ、皆さんも感じられている通り、とても、変。まあ、協会側は、この不自然なリーグシステムを「まだ」つづけるつもりらしいけれど・・サ。フンッ。

皆さんもアグリーだと思うけれど、「J」に関わっているサッカー人は、絶対に、『年間最多勝ち点チーム』を目指さなきゃいけないんだよ。

まあ、以前の「2ステージ制」とは違い、昨シーズンから始まった「今回の興行」では、シーズンが終了したとき、『年間最多勝ち点チーム』が一番エライってことになることだけが、救いかな。

ということで、その後のトーナメント(チャンピオンシップ)は、まさに「興行」。

そして「J」の歴史には、『年間最多勝ち点チーム』と『興行チャンピオン』の両方が刻み込まれる(刻み込まれなきゃいけない!)。そうじゃなきゃ、10年、20年後に、「昔」と比べられる、同じ基準のチャンピオンがいなくなっちゃうわけだからね。

だから、サッカー人だけじゃなく、読者の皆さんも、『年間最多勝ち点チーム』をイメージしてシーズンを楽しむべきだと思うわけなのですよ。

この「テーマ」については、新連載「The Core Column」で発表した「このコラム」も参照してください。

そこでは、いかに(目的が歪んだ興行の!)2ステージ制が、世界の主流フットボールネーションが築き上げた「伝統」に逆行しているのかというディスカッションを展開しました。

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最後に「告知」です。

どうなるか分からないけれど、新規に、連載をはじめています。

一つは、毎回一つのテーマを深める「The Core Column」

そして、もう一つが、私の自伝である「My Biography」

自伝では、とりあえず、ドイツ留学から読売サッカークラブ時代までを書きましょうかね。そして、もしうまく行きそうだったら、「一旦サッカーから離れて立ち上げた新ビジネス」や「サッカーに戻ってきた経緯」など、どんどんつづけましょう。

ホント、どうなるか分からない。でも、まあ、できる限りアップする予定です。とにかく、自分の学習機会(人生メモ)としても、価値あるモノにできれば・・とスタートした次第。

もちろん、トピックスのトップページには、新規に「新シリーズ」コーナーをレイアウトしましたので、そちらからも入っていけますよ。

まあ、とにかく、請う、ご期待・・ってか〜〜・・あははっ・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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