湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第2節(2013年3月9日、土曜日)

 

完勝のレッズ・・5人守備ブロックの素晴らしい機能性・・実績を積み重ねる新加入選手・・(レッズvsグランパス、 1-0)

 

レビュー
 
 レッズの完勝でした。その評価について異論をとなえる方は少ないに違いありません。

 とはいっても前半は、ちょっと拮抗した展開になった。グランパス中盤守備も頑張ったからね。

 でも、そんな動的な均衡状態のなかでも、可能性の高いチャンスを作りだす「流れ」では、レッズに一日以上の長があった。たしかに、偶発的なボールの動きから、小川佳純のダイレクトシュートがレッズゴールの右ポストを直撃する・・なんていうシーンはあったわけだけれど・・

 そして後半は、より明確に、レッズがゲームの実質的な内容を牛耳るゲーム展開へと変容していったっちゅうわけです。

 とても素敵なタイミングで勝負のタテパスが通っちゃったり、逆サイド最前線の決定的スペースへ素晴らしいロング(サイドチェンジ)パスが送り込まれたり。

 ことほど左様に、レッズは、観ている方のアドレナリンレベルが、急激な高まりをみせるのも道理・・ってなチャンスの流れを演出しつづけるのです。

 それにしても、レッズが繰り出した(最終勝負の流れを加速させる!)仕掛けのタテパスは、本当に素晴らしい効果レベルにあったよね。

 完璧に、「高質なクリエイティブ・ボランチ」へのイメチェンを果たした鈴木啓太から、はたまた阿部勇気や永田充から、クレバーな動きによって最前線でフ リーになった(スペースへ入り込んだ)柏木陽介や原口元気、はたまた興梠慎三へと、鋭い足許パスが正確に通されちゃうんだ。

 以前、バルサのコラムで書いたけれど、スペースへ上手く走り込んだ味方への「足許パス」は、基本的には「スペースパス」と、まったく同じ意味合いと価値を内包しているよね。

 ということで、この試合でレッズがブチかました、クリエイティブな「タテへのスペースパス」は、次の、危険な最終勝負プロセスの流れを加速させつづける。

 要は、そのタテパスが「入った」のと同時に・・または、入りそうになった時点で(!)・・、必ず誰かが、決定的スペースへの爆発フリーランニングをスタートしているということです。

 そう、互いの勝負イメージが、素晴らしくシンクロしたコンビネーション。

 だから、観ている誰もが、「これは、シュートまで行くぞっ!!」と、手に汗握る(アドレナリンレベルが急激にアップする!)っちゅうわけだ。

 決勝ゴールだけれど、そこで出されたパスの種類や、誰が、そのコンビネーションの軸になったかを反芻(はんすう)すれば、今シーズンの、レッズの進化プロセスが見えてくる・・ってな感覚に包み込まれませんか!?

 ・・この試合でも、守備だけじゃなく、創造的で確実なボールコントロール&展開パスなど鬼神の活躍を魅せつづけた鈴木啓太から、例によって、タテへの「鋭いスペースパス」が放たれる・・

 ・・そのパスをスパッと止めた興梠慎三・・すかさず、切れ味鋭いボールコントロールと創造的なルックアップから、宇賀神友弥が狙うウラの決定的スペースへ向けて、これまた鋭く正確なタテへの必殺スルーパスを送り込む・・

 ・・そして最後は、宇賀神友弥が、落ち着いてグランパスゴールの右隅へ、ゴールへのパスを決めちゃう・・宇賀神友弥もまた、本物のブレイクスルー真っただ中にいる!?・・フムフム・・

 とにかく、そのゴールには、鳥肌が立ったね。

 ということで、このコラムでピックアップするテーマは、あと二つ。

 一つは、本当に素晴らしい機能性を魅せつづけた、「3バック+ダブルボランチ」の5人で形作られた守備ブロック。そしてもう一つが、森脇良太と興梠慎三の新戦力。

 守備ブロックについては、もう言うまでもないけれど、とにかく、攻守にわたって、素晴らしいコンビネーションを魅せつづけていた。

 彼らは、互いに「使い・使われる」というメカニズムの本質を、完璧に理解している!?

 特に、鈴木啓太と阿部勇樹のダブルボランチ。

 まあ、鈴木啓太が前気味で、阿部勇樹は、最終ラインを「前へ送り出す」創造的なカバーリング作業を受け持つ・・ってな基本イメージですかネ。

 それについては、昨シーズンと同じだけれど、コンビネーションイメージ内容の完成度は、ノンストップで着実にアップしつづけていると感じますよ。

 とにかく、このダブルボランチは、陰に日向に、両サイドバックと、槙野智章と森脇良太のオーバーラップを支えつづけるんだよ。だから彼らも、後ろ髪を引かれることなく、全力で最終勝負シーンまで絡んでいく。

 ここでは、心置きなく・・というのが重要ポイントだね。相互信頼の深化・・。それです。

 このダブルボランチについては、タテのポジションチェンジの仕掛け人と呼ぶこともできそうだね。本当に素晴らしいゲームコントロールぶりだ。もちろん、彼ら自身も、チャンスがあれば最終勝負シーンへも積極的に絡んでいくしね。

 それも、これも、ストロング・ハンド、ミハイロ・ペトロヴィッチの(戦術&心理)マネージメントがあればこそ。あっと・・、杉浦大輔コーチとの二人三脚・・という側面も無視できないですよ。彼らもまた、素晴らしい相互信頼コンビだと思うよ。

 ところで、森脇良太と興梠慎三の新加入戦力だけれど、彼らもまた、ペトロヴィッチの手腕によって、とてもスムーズに、そして効果的にチームに組み込まれたよね。

 まあ森脇良太は、ミハイロ・ペトロヴィッチが育てたといっても過言じゃない、サンフレッチェ生え抜きのディフェンダーだけれど、彼と槙野智章の左右コンビのオーバーラップには、ものすごいダイナミズムが秘められているよね。

 ドリブル突破にしても攻撃的なタテパスにしても、面構えにしても。この2人って、もしかしたら前世では同一人物だった・・!? あははっ・・

 そして興梠慎三。

 その、インテリジェンス(考える力)とクリエイティビティー(創造性)にあふれたプレーぶりは、敗れたピクシーも絶賛だったね。

 たしかに、相手ディフェンスの組織バランスをズタズタにし、味方がつかえるスペースを、至るところに作り出す素晴らしいフリーランニングと、味方が安心 してサポートへ上がっていけるような安定したポストプレー、はたまた最終勝負シーンでの危険なドリブル勝負やフッ切れたシュートなどなど、どれを取っても 超一級だよね。

 実績を積み重ねつづける新加入の興梠慎三と森脇良太。でも、彼らだけじゃない。そこには、那須大亮がいる、関口訓充がいる、阪野豊史もいる。

 いや、ホント、今シーズンのレッズは、楽しみが多い。あっと・・、次は火曜日のACLか。相手は、とても強い、タイのムアントン。いまから楽しみで仕方ない。


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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