湯浅健二の「J」ワンポイント


2013年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2013年3月3日、日曜日)

 

まあ、内容からすれば、フェアなレイソルの勝利というのが妥当だね・・(レイソルvsフロンターレ、3-1)

 

レビュー
 
 風間八宏監督は、「ケンゴがいなくても問題ないようなチーム作りをしてきている・・」って、気丈に振る舞っていたけれど、やっぱり、牛若丸の不在はとても大きかったと思う。

 たしかにシュート総数ではフロンターレが上回ったし、ゲーム全体の流れでも、レイソルのネルシーニョ監督も言っていたように、互角・・のように見えた。でも私は、実質的なゲーム内容では(そして結果でも)、レイソルに軍配が上がる・・と感じていたのですよ。

 そんな評価のバックボーンは、ディフェンスの実質的な効果レベルと、攻撃でのチャンスメイクの量と質・・という視点だよね。

 要は、最終勝負シーンでの守備と攻撃の両面で、レイソルの方が(少しだけれど)上回ったということです。決定的なチャンスの量と質という視点には、両チームの、守備と攻撃での内実が内包されているわけだからね。

 そして、まさに「そのポイント」で、牛若丸の不在を如実に感じていたっちゅうわけです。

 中村憲剛がいれば、レナトにしても大久保嘉人にしても、もっとシンプルにボールを動かしただろうし(要は、球離れがもっとシンプルでスムーズになったに 違いないっちゅうことだよ!)、そのことで、チームメイトたちの「ボールがないところでの動きの量と質」も確実にアップしたと思うわけです。

 サッカーは、心理ゲームだからネ。

 周りのチームメイトが、「ヨシト(レナト)がボールをもったから、ちょっとこねくり回すだろうな・・」なんて、常にイメージしてしまったら、もちろんボールがないところでの人の動きの量と質がダウンしちゃうでしょ。

 そして、フロンターレの最終勝負が、どんどんと「個の勝負」へと偏っていくんだ。

 昨シーズン、風間八宏さんに、こんな質問を投げたっけ。

 「風間さんがやろうとしているサッカーでは、素早く確実なトラップと、軽快でスムーズなボールの動きのリズムが生命線だと思うのだが・・」

 それに対して風間さんは、「そう・・その通りです・・」なんて、すぐに反応してくれたっけね。

 そう、この試合では、そのボールの動きから、素早く、軽快なリズムが抜け落ちたって感じられたのですよ。

 だからこそ、その「リズム・コントロールの絶対的リーダー」である中村憲剛の不在が、殊の外ダイレクトに感じられたっちゅうことなんだろうね。

 それだけじゃなく、今日のフロンターレのサッカーでは、3人目、4人目がスペースへ抜け出しても、パスが出にくかったのも確かな事実だった。

 何度、「タイミングよくウラへ(決定的スペースへ)抜け出しているのに、なんで、そこへパスを出さないんだよ〜っ・・!」なんて声が出たことか。

 そんなフロンターレに対して、レイソルは、例によっての攻守にわたる「ソリッドな組織イメージ」をベースに、素晴らしいサッカーを展開した。

 ソリッド・・!? あっ、スミマセン。要は、互いのプレーイメージが、とてもうまく連鎖・連動するような優れた組織サッカーという意味合いです。そう、長い時間をかけて作りあげた、攻守にわたる効果的な組織プレーイメージの共有環境。いいね・・

 そんな攻撃の中心になったのが、レアンドロ・ドミンゲスとクレオ。

 クレオは、ゼロックスサッカーで私が投げた(クレオに関するネガティブなニュアンスの!)質問にネルシーニョが反論していたとおり(!?)、コンディションのアップとともに、攻守にわたる組織プレーにも効果的にフィットしはじめていると感じる。

 だから、ポストプレーやドリブル勝負、はたまたヘディングなど、彼が仕掛けていく個人勝負プレー「も」抜群に危険な機能性を発揮する。

 そのベースは、言わずと知れた、攻守にわたるハードワーク。彼は、とても真面目な選手なんだろうね。

 ネルシーニョ監督は、そんな彼のパーソナリティーまでも明確に把握している。だからこそ、あまり機能しなかったゼロックスサッカーでの低調プレーの後でも、自信をもって、クレオのパフォーマンスアップを確約できたっちゅうことなんだろうね。

 スミマセン、ネルシーニョさん・・前言を撤回しま〜す。

 ところで、レイソルの新戦力、韓国代表の右サイドバック、キム・チャンス。彼「も」、ホントに素晴らしい選手だね〜。その、パワフルでスピーディー、そしてスキルフルなプレー(強烈な闘う意志!)は、観ていて、胸がスカッとする。

 ということで、最後になりましたが、フロンターレの新戦力、大久保嘉人についても、ちょっと補足しておこうと思います。前述した内容では、やはりネガティブなニュアンスの方が強いでしょ。だから、ちょっと書き足さなければフェアじゃない・・って思ったんですよ。

 要は、後半になって、サイドではなく、中央に基本ポジションを移してからは(要は、攻守にわたる自由度がアップしてからは!)、プレーぶりが、とても良くなったと感じたのです。

 守備でのハードワークはもちろんのこと、ボールをもっても、あくまでもシンプルなリズムで展開し、忠実にパス&ムーブを繰り返す。レイソルに大量リードを奪われてから(!)彼のプレー内容が、完全にフッ切れたということなんだろうね。

 そして何度か、彼が中心になって、惜しいチャンスも創りだされた。

 レイソルに大量リードを奪われたことで、後ろ髪をひかれることなく、フッ切れた自由裁量プレーが出来るようになったことが効いたのかな・・。

 とにかく、才能あふれる大久保嘉人が、様々な意味合いで「覚醒」したならば、それは、フロンターレにとって、ものすごく大きな価値だぜ。

 その意味じゃ、フロンターレにとってこの試合は、敗戦というネガティブな結果を補って余りある「ポジティブな価値」を手に入れたと評価することだって出来る!? さて〜〜・・


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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。





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