湯浅健二の「J」ワンポイント


2011年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第9節(2011年5月3日、火曜日)

 

レッズのこれからに対する心配がつのる・・(RvsM, 0-2)

 

レビュー
 
 レッズのサッカー。ホントに、ちょっと「悪い流れ」になりはじめている・・と感じる。

 チーム戦術イメージが選手間でうまくシェアされず(!?)、プレーのイメージがうまく噛み合わない。だから、組織コンビネーションがうまく回らず、それぞれの仕掛けプレーが相乗効果を発揮しない。そんなだから、マリノス守備ブロックのウラスペースを攻略できそうな雰囲気さえ感じさせられないのも道理。だから、個人勝負プレーだって効果的に仕掛けていけず、まさに「ゴリ押しドリブル」を繰り返すだけになってしまう。

 レッズの攻撃が、そんな悪い流れになりはじめていることは、一点をリードされた残り20分という時間帯でのグラウンド上の現象を観ていれば、一目瞭然だった。

 ・・もう失うモノは何もないというゲーム展開に追い込まれたレッズ・・とにかくゴールを奪うために攻め上がっていくしかない・・それでも、相手の一人か二人のフォワードに対し、律儀にも、四人が守備ブロックに残っている・・

 ・・もちろん、「人」が上がり過ぎ、変なカタチでボールを失ったら(マリノス追加ゴールシーンのように!?)危険なカウンターをブチかまされてしまう・・でも、必要以上の人数が守備ブロックに残っているなんていう消極プレー姿勢はないよな・・カウンターを喰らっても、バランサーがしっかりしていれば、少なくともカウンターの流れを遅らせられるだろ・・でも、まあ確かに、あの時間帯のレッズには、そんなコーディネイター(リーダー)もいなかった・・

 ・・あの時間帯・・たしかに攻めに関わる人数は多くなったけれど、それでも、肝心の、組織的な(特にボールがないところでの)勝負アクションの量と質が好転したわけじゃなかった・・そして、ブツ切りの個人勝負が目立つばかりという、ジリ貧の展開に落ち込んでいく・・

 ・・とにかく個のドリブル勝負イメージばかりが前面に押し出されるレッズのサッカー・・コンビネーションイメージを活性化させよう何ていう雰囲気は皆無だった・・

 ・・出てくるのは足許パスばかり・・パス&ムーブといった組織コンビネーションの基本プレーだって目立たない・・たまにはワンツー・コンビネーションにチャレンジするシーンもあったけれど、結局はリターンパスが出てこなかったりして・・そんなだから、3人目、4人目のフリーランなど出てくるはずがない・・だから、ドリブルで仕掛けていくしかない・・これじゃ、マリノス守備ブロックも、まったく怖くない・・フ〜〜・・

 そんなサッカーを見せられ、ちょっと、フラストレーションが溜まりつづけていた。まあ、ゼリコ・ペトロヴィッチがチームを受け持ってからの軌跡については、前節の「ベガルタ戦コラム」や、リーグ再開マッチとなったホームでの「グランパス戦コラム」も参照して下さい。

 そんなレッズに対し、マリノスは立派な「アウェー・サッカー」を展開し、まさに順当といえる勝利を飾った。

 たしかに中村俊輔は、前節のエスパルス戦のように光り輝くことはなかったけれど(それについてはこのコラムを参照してください)、それでも肝心な勝負所では、見事なボールコントロールで相手を翻弄してタメを演出したり、そこから素晴らしい勝負パスを供給するなど(先制ゴールは俊輔のフリーキックから・・)存在感は抜群だった。

 また谷口博之にしても、相手の視野から「消え」、次の瞬間には、突然最前線の決定的スペースに顔を出すといった「影武者プレー」が全開だった。いや、ホントに素晴らしかったですよ。そんな全力オーバーラップを繰り返しているにもかかわらず、中盤守備でもしっかりと仕事をしているからネ。まあ、彼の守備的ハーフパートナーである小椋祥平の支えもあるわけだけれどネ。

 グランパス戦コラムの最後では、レッズ選手たちの自立した意識の高揚に対する期待を書いた。でも、やっぱり、選手個々の「イメージや主張」は千差万別だから、それを一つにまとめる「ストロング・ハンド」の存在には、決定的な意味合いがあるよね。

 とにかく、ゼリコ・ペトロヴィッチには、ポジションを固定し「過ぎ」ずに、もっと選手たちの意識を高める(彼らを信頼し、より積極的に考えさせ、リスクにチャレンジしていく勇気を与える・・等々)ようにマネージしてもらいたいと思うのは、私だけじゃないはずです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
 追伸:わたしは-"Football saves Japan"の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。