湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2010年11月14日、日曜日)

 

アントラーズが魅せた、重厚な勝負強さ(勝者メンタリティー)・・(FRvsA, 1-2)

 

レビュー
 
 実力チーム同士が雌雄を決する、鳥肌が立つほどの緊迫感に包まれたギリギリのエキサイティングマッチでした。わたしは、心の底から堪能していた。これぞ、いま日本が提供できる最高峰のサッカーマッチだ・・

 とはいっても、微妙なニュアンスだけれど、サッカー内容と勝負強さという、ある意味「背反」する要素の、『それぞれのチームでタイプが微妙に異なる最高バランス』という視点では、やはりアントラーズに一日の長があると「も」思っていた。

 守備の目的である「ボール奪取」にしても、攻撃の目的である「シュート」にしても、その量と質で、微妙にアントラーズに軍配が上がると「も」感じていたのですよ。

 たしかにフロンターレの攻撃は、例によって危険きわまりない。ジュニーニョやヴィトール・ジュニオール、はたまた中村憲剛といった「天賦の才」が脳裏に描く勝負のイメージ。それらが、うまくシンクロする(同期する)組織コンビネーションを基調に、そのなかに爆発的な勝負ドリブルといった個の勝負プレーも効果的にミックスしていく。

 そりゃ、強いはずだ。でも、やはり、まだまだ「チョン・テセの穴」が埋まっていないと「も」感じていた筆者なのです。矢島卓郎は、とても危険なストライカーだということをアピールできていたけれど・・ね。

 ゲームの立ち上がりは素晴らしくエネルギッシュなペースで攻め上がったフロンターレだったけれど、そんな前への勢いを、余裕をもって受け止めたアントラーズが、徐々にゲームのイニシアチブを握りはじめていく。そんな「ペースの奪い返しプロセス」にも、アントラーズの底力を感じていた。

 ところで、チーム総合力でアントラーズに微妙に一日の長がある・・というテーマについて、「試合巧者のアントラーズ・・」と表現したフロンターレの高畠勉監督が、とても興味深い分析をしてくれた。要は、「試合巧者の意味をもう少し掘り下げて欲しい・・」という私の要望に対し、例によって誠実に、以下のようなニュアンスのコメントをくれたのです。

 「そうですネ〜・・それじゃ、こぼれ球をマイボールにする競り合いを例に取りましょうか・・私は選手たちに、そこで負けないことが雌雄を決する大事な要素だと、いつも言い聞かせていました・・でも実際は、肝心なところでアントラーズにボールを奪われ、支配されるというシーンがつづいたんですよ・・」

 高畠さんがつづけます。「ルーズボールを自分の支配下に置いてしまう技術というか・・競り合いに臨むイメージ的な準備も含め、アントラーズは、マイボールにするプロセスが、とても巧みなんです・・予想が早いから、より速く必要なアクションを仕掛けているとかネ・・まあ、こちらの弱みにつけ込んでいくのが上手いとも言えますかネ・・またアントラーズは、試合の流れを読んで巧みにプレーしますよね・・だから、勝負所のセットプレーでは、抜群の勝負強さを発揮したりする・・また、ゲームの流れを読み、例えばリードした後の時間帯では、完璧にゲームをコントロールして勝ち切ったりする・・しっかりとしたゲーム運びイメージが浸透していると感じます・・とにかく、勝負という意味合いで、アントラーズは、とても巧いということですかネ・・」

 そんな高畠さんのコメントに、何度も頷(うなず)かされた。そして思っていた。

 「・・たしかに、ラッキーな勝ち越しゴールが決まってからのアントラーズの試合運びには、これぞ勝者のメンタリティー!と呼べるほどの重厚感があったよな〜〜・・ところで、その決勝点はフロンターレの自殺点だったんだろ!?・・(公式記録を見ながら)アッ、違うんだ〜〜・・直接フロンターレゴールに吸い込まれていったスルーパスを出した小笠原満男のゴールだってサ!!・・とにかく、アントラーズ安定した強力ディフェンスに、フロンターレは、まったくといっていいほど決定的なチャンスを作り出せなかったしね・・多分ジュニーニョの一発ドリブルシュートくらいだったかな(!?)」

 ということで、アントラーズの勝負強さ(勝者メンタリティー)について、オズワルド・オリヴェイラ監督にも聞いた。例によって私の質問も長かったけれど、オズワルドのコメントも、とても長いものだったから、こちらで、そのニュアンスを短くまとめます。

 ・・勝者のメンタリティーは、一朝一夕に開花させられるようなモノじゃない・・それは、就任当時から忍耐強くつづけてきた継続作業の賜物(たまもの)なのだ・・ところでそのプロセスだが、それは、こちらの指示通りに選手たちがプレーすることに積み重ねだったなんていう単純なモノじゃない・・

 ・・とにかく、選手が、監督の指示を「だまされたと思っても」やりつづけるように仕向けなければならない(≒優れた心理マネージメント)・・そして、良い結果が出てきたり、そこで自分たちの武器を発見できるようになったらしめたモノ・・そこで、より高いレベルのチーム・ハードワークにも精を出すように(心理)マネージしていくんだよ・・そんな努力は、確実に、大きな成果のバックボーンになるはず(もちろん選手の質が伴っていればのハナシ・・筆者の注釈!!)・・そして、それを、善循環に乗せていく・・それこそがコーチの本質的なウデなのだ・・

 ・・そこまでくれば、成果に伴ってチームの確信レベルも自動的に増幅していくだろう・・とにかく、まず選手に「やらせる」・・それに成果が伴ってきたタイミングを逃さず、より高いレベルのチームワークへと導くことでチーム総合力をアップさせていく・・そこまでくれば、選手自身が、長所と短所を相互補完し、彼ら自身でバランスを取るようにもなるだろう・・アントラーズ選手は理解力がある(アタマがいい)からね・・そう、継続こそチカラなり・・

 どうですか、オズワルドの言葉は、なかなか含蓄があって興味深いでしょ!?

 ところで、アントラーズのスーパー通訳、高井蘭童さんが通訳している最中、オズワルドが高井蘭童さんに「ちょっかい」を出した。ポルトガル語だったから、よく分からなかったけれど、高井さんは、その「ちゃかし」も、しっかりと正確に訳してくれた。

 「いま監督から、オレは、そんなに長く話したっけ?と聞かれました・・」だってサ。その「ちゃかし」で、記者会見の雰囲気が和(なご)んだことは言うまでもありませんよね。

 フロンターレの力強くスピーディーな攻撃サッカーと(ゲームをアントラーズにコントロールされはじめてからは、才能ベースの危険極まりない魅力カウンターに舌鼓を打っていた!!)、アントラーズが魅せた勝負強い重厚サッカーを心から堪能していた筆者でした〜〜。

 あっと・・「シーズン終盤に展開されるギリギリのタイトル争い・・」というテーマについては、前節のアントラーズのゲームで書いた「J_コラム」も参照して下さい。これから、まだ四試合もあるからネ。まだまだ何が起きるか分からない。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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