湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第18節(2010年8月15日、日曜日)

 

両監督との対話・・(FRvsSA, 3-1)

 

レビュー
 
 「おっしゃるように、これまでサンフレッチェは、多くの優秀な選手を他のクラブに取られた・・また今シーズンでは、主力級の選手にケガが多い・・にも関わらず、サンフレッチェは、立派な(優れた)サッカーを展開しているし、そこそこの結果まで残している・・そんなペトロヴィッチさんを見ていると、選手の才能レベルなんかに関係なく、しっかりとしたコンセプト(チーム戦術)を、一人の例外もなく全員が、まさに全力で徹底的に追求すれば、その方が良いサッカーになると確信しているようにも見える・・もちろん、選手の才能と優れたコンセプト(チーム戦術)は、優れたサッカーの両輪ではあるけれど・・」

 例によって、質問が長くなってしまった。それでも、ペトロヴィッチ監督の通訳、杉浦大輔さんは、正確に、そして気持ちを込めてドイツ語に翻訳してくれた。わたしはニュアンスまで分かるから、そのドイツ語の通訳を聞きながら、杉浦大輔さんが、頂点レベルのサッカーに対して造詣が深いことを再認識していた。

 彼は、優秀なサッカーコーチなんですよ。でも彼のタイトル(肩書き)は、まだ「通訳」のまま。まあ・・、サンフレッチェの内部事情もあるんだろうね(!?)彼のタイトルが、まだ「通訳」ということになっている背景には。でもサ、あんなに優秀な若者なんだから、サンフレッチェは、早くコーチというタイトルに変更しなけりゃいけないと思いますよ。

 通訳といっても、やっていることは、コーチと同等か「それ以上」に重要なコミニュケーターとしての役割なんだから。あっと・・またまた脱線・・失礼。

 そんな私の質問に対し、サンフレッチェのペトロヴィッチ監督は、エンスージアスティックに、こんなニュアンスの素晴らしいコメントを返してくれた。

 「たしかに、いまの我々は、少し難しい時期に差し掛かっていると思う・・それでも、相手の良さを消そうとするような守備偏重のサッカーをやることなんて、まったく考えていない・・あくまでもサンフレッチェは、攻守にわたって動きつづけるなかで効果的なアクションを積み重ねるアグレッシブな組織サッカーを志向しつづけるんだ・・とはいっても、日本の夏は厳しい・・これほど蒸し暑いなかで、我々が志向する組織サッカーを体現していくのは至難のワザなんだ・・そして、両チームともに運動量が落ちてきた状況で活きてくるのが、個の才能っていうわけサ・・この試合の先制ゴールの場面もそうだし、その後のカウンターピンチのシーンもそうだった・・でも我々は、このコンセプトを突き詰めていく・・そのことだけは、胸を張って宣言できるヨ・・」

 杉浦大輔さんの通訳とは、100パーセント一致しているわけじゃないけれど、いつものように「行間」まで受け容れ、それを私なりに創作してしまいました。あははっ・・

 とにかく、「そんな」サンフレッチェは、いつでも、私の心を癒してくれる存在なのです。ガンバレ〜〜・・

 そして、内容的にも「完勝」に近いカタチでゲームを終えたフロンターレ。高畠勉監督が、冒頭で、こんな気候条件だから、とにかくメリハリが大事・・ゲームコントロールが大事・・なんていうニュアンスのコメントをしていた。だから聞いた。

 「この日本の夏を乗り切るためには、おっしゃるように、しっかりとメリハリが効いたゲームコントロールを心がけることが大事だと思う・・わたしは、動き過ぎず、でもボールはしっかりと動かしながら、チャンスを見計らって爆発するなんて表現するが・・ただ、もちろんなかにはサボる者もいるだろうから、一緒に爆発しない選手も出てくるはず・・だから私は、メリハリのニュアンスを、チーム内でイメージがしっかりと共有された爆発というふうに理解したのだが・・」

 「基本的には、そのように(なるべく多くの選手が、同時に!)爆発できるのが理想だとは思うけれど・・まあ・・ところで、メリハリだが、それについては、素早く効果的に攻守を切り替えるというニュアンスが基本だ・・チャンスを作り出すためにもっとも効果的な状況は、何といっても、ボールを奪い返された次の瞬間に、タイミングよく(相手の重心が前へ移動し始めるその直後に!)再びボールを奪い返したときに訪れる・・だから我々は、そんなイメージをもって勝負を仕掛けている・・とにかく、攻守の切り替えの内容こそが、もっとも重要なキーファクター・フォー・サクセスだと思っている・・」

 「行間ニュアンス」も含め、高畠勉監督は、そんなコメントを返してくれた。それもまた素晴らしいコメントだった。

 そう・・、効果的な「爆発」のためには、選手全員が、「ここだっ!」と瞬間的にアクションを起こせるような「共通イメージ」をもっていることが大事になってくるのですよ。でも、(カウンターではなく)遅攻の組み立てプロセスでボールを動かしながら、急激なテンポアップを、それも複数の選手が同時に、タイミングよく、そしてアクション内容までしっかりとシンクロするなかで「スタート」させることは至難のワザだよね。

 だからこそ、相手にボールを奪われた状況とか、相手からボールを奪い返した状況、はたまた、相手に奪われたボールを再び(素早く、効果的に)奪い返した(奪い返そうと味方がアクションに入った)状況を、爆発の「スタートサイン」としてチーム全体に深く浸透させる作業には、とても重要な意義がある・・というわけです。

 読売サッカークラブ時代。そこには、明確な爆発コマンダー(リーダーの王様コンビ)がいたから、多くのケースで、とてもスムーズに、爆発コンビネーションがスタートしたものです。そう、当時のチームには、ラモス瑠偉とジョージ与那城がいたんですよ。

 ジョージが、「ゆっくりっ!」なんて声を出す・・それでチーム全体が足許パスを回しはじめる・・それも、利き足やアクションの方向までもイメージした素早く正確なパス・・そして、この二人のうちのどちらかが勝負コンビネーションをスタートした次の瞬間には、周りの味方が、そのアクションに乗っていく・・。

 この二人に対する信頼と畏敬の念はとても強く、それがあったからこそのイメージシンクロ爆発スタートだったというわけです。まあ・・ラモスの怒りが怖いということもあったかな・・あははっ・・。

 前半のフロンターレは、そんな、イメージシンクロ爆発スタートがうまく機能していなかったから、中央ゾーンへチャレンジして行き過ぎたという面も含め、ちょっと苦労した。

 「でも後半は、サンフレッチェが積極的に攻め上がってきたことで、より効果的にカウンターチャンスを狙うことができた・・そう、そこには、効果的なアクションのスタートサインがあったということです・・」と、高畠勉監督。フムフム・・

 とにかく、ケガで出遅れていたジュニーニョとヴィトール・ジュニオールが本調子になってきたことは、フロンターレのダイナミックな追い上げを意味することは言うまでもありません。そしてリーグの優勝争いが、これまで以上にヒートアップしていく!? これからも、お互い、サッカーをとことん愉しみましょう。

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 そして今朝のこと。コンビュータを開けたら、数通、サンフレッチェの杉浦大輔さんに関するメールが入っていた。一般のサポーターの方、またプロライターの方からも。

 「湯浅さん・・杉浦大輔さんは、昨シーズンから既に、コーチ兼通訳として仕事をしています・・ご心配なく・・」だってサ。

 そうか〜〜・・それは、ホントに良かった・・あんなに優秀な若者を活かさないのだとしたら、それこそ日本サッカーに将来はないからネ・・でも、公式のメンバー票には「通訳」とされていた・・あっ、そうか・・ベンチ入りできるコーチの人数は限られていたんだよな・・

 事実の「修正メール」、有難うございました。かしこ・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 



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