湯浅健二の「J」ワンポイント


2010年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第5節(2010年4月4日、日曜日)

 

フロンターレが展開した今シーズンのベストゲーム!?・・また素晴らしいプレーを展開した稲本潤一についても一言・・(FRvsFCT, 2-1)

 

レビュー
 
 良かったですよ〜、フロンターレ。

 内容的にも、フロンターレの順当勝ちというのがフェアな見立てでしょう。たしかにFC東京も、バーやポストを直撃するシュートをブチかますなど、何度か決定機を作り出したけれど、そんな決定的チャンスの量と質を比べても、やはりフロンターレに軍配が上がるのですよ。

 そんなフロンターレ。私は、一時期、とても心配していました。主力の二人(ジュニーニョと中村憲剛)がいないことで、エンジンとハンドルが故障したクルマのように、サッカーが、受け身で消極的な機能不全に陥っていたのです。それほど、チームが、この二人に「依存」していたということなんだろうけれど、それが、ここにきて、特に攻守にわたる組織プレーが、とてもうまく機能するようになっている。まあ、そのなかでも、この試合がベストゲームだろうね。

 何が良くなっているのかって? もちろん、全体的な運動量がアップしていることが第一のポイントだね。そして、そのことをベースに、攻守にわたるプレーがより積極的になっていると感じる。もちろん、逆に、一つひとつのプレーが積極的になったからこそ(意識と意志のレベルがアップし、より積極的にプレーしはじめたからこそ、結果的に!?)運動量がアップしたとも言えるけれど・・。そう、サッカーは「相対性ボールゲーム」なのですよ。

 「ジュニーニョと中村憲剛がいると、いないのでは、質という意味で、かなり違うと思います・・」

 高畠勉監督が、そんな言い方をしていたけれど、最初の頃、チームは、この二人がいないことに「負い目」を感じていたということなんだろうね。負い目があるから(自信がなく不安な心理でプレーしているから)どうしてもリスクチャレンジも仕掛けられないなど、プレーが、受け身で消極的なモノに落ち込んでしまっていた・・。だからサッカーの内容も高揚していかず、結局は「心理的な悪魔のサイクル」に落ち込んでしまう・・。

 まあ、とはいっても、私が観たフロンターレのゲーム(そのなかの特定の時間帯)に限って、特に内容が悪かった「だけ」で、全体としてみた場合、私が考えるほどサッカー内容が落ち込んでいたわけではなかったのかもしれないけれど・・。

 とにかく、この試合でのフロンターレのサッカーからは、「ジュニーニョとケンゴの呪縛」から、かなり解放されているという印象をもった。攻守にわたり、自信をもって、組織的にプレーできていたと思うのです。まあ、ジュニーニョと牛若丸(中村憲剛)がチームに戻ってきたときには、再び「ゼロから」ポジションを奪い取らなければならない・・という雰囲気がチームに充満していることこそが、チームが、健全な個人事業主のグループとして機能していることの証明というわけだから・・。

 次に、ハナシを「個人のパフォーマンス」に振っていこうと思うのですが、このゲームでは特に、稲本潤一に注目したいね。彼のプレー内容が、どんどん高揚していると感じられたのですよ。

 FC東京は、フロンターレに先制ゴールを奪われた直後から、ペースを格段にアップさせ、ガンガン攻め上がってきたわけですが、たしかにその時間帯では、一人でアンカー的な役割を担っていた稲本潤一が振り回され気味になっていた。

 ただそこでベンチが動き、谷口寛之と田坂祐介の基本ポジションを少し下げて「守備的ハーフ・トリオ」的に機能させ、うまく東京の勢いを抑制することが出来たとのこと。まあ、相手がガンガン攻め上がってきているのだから、特にハーフの選手は「一度」戻らざるを得ないわけだからね(要は、前後の動きの量と質をアップさせなければ、相手のペースにはまり込んで悪魔のサイクルに落ち込んでしまうということ!)。そんな状況でも、前のポジションに張り出しっぱなしじゃ、役立たずのハーフということです。だから、谷口にしても田坂にしても、しっかりと自分たちの判断で「ハーフの底」を厚くするように柔軟に対応していたと思うのですが・・!?

 あっと・・稲本潤一。とにかく彼のディフェンスは、素晴らしいの一言だった。守備の起点プレー(ボールへのチェイス)だけではなく、インターセプトや相手トラップの瞬間を狙ったアタックなど、とにかく、抜群のボール奪取テクニックを魅せてくれるのです。とてもパワフルでスキルフル、そして魅力あふれるディフェンスプレーを積み重ねる稲本潤一なのです。

 だからこそ、次の攻撃でのプレーも冴えに冴えわたる。しっかりと安定したボールキープ(効果的なタメ!)から、シンプルにボールを動かすだけではなく、正確でクリエイティブな展開パスを繰り出したり、時には、相手の意表を突くドリブル突破も魅せる(中盤の低い位置からの、タテのスペースをつなぐようなスピーディーで直線的なドリブル=だからこそ、相手守備ブロックの組織をバラバラに切り崩していける!)。

 その、とてもパワフル&スピーディー&スキルフルなドリブルだけれど、それは、以前イングランドのフラムで、攻撃的ハーフとして多くのゴールを決めたときのプレーや、2002ワールドカップでの、素晴らしいインターセプトから、怒濤のカウンタードリブルを仕掛け、最後は、チームにとってものすごく重要なゴールまで決めてしまったスーパープレーを彷彿させる。

 とはいっても、いまの稲本潤一は、その頃の「簡単に勘違いしてしまう」ような子供とは違う。あくまでも、守備的ハーフの(アンカーの)ポジションを絶対的ベースにプレーするというイメージに徹しているのですよ。だからこそ、『次の攻撃への参加』が抜群の実効を生み出すというわけです。

 最後に、チョン・テセ。彼が日本に帰化しなかったことを、またまた「タラレバ」で残念に思っていた次第。スピード、パワー、まあまあのテクニック、そして心理・精神的な強さ(アグレッシブなプレー姿勢)などなど、彼は「世界レベル」へ到達できるキャパを備えているよね。

 あっと・・全体的には良いサッカーを展開したFC東京についても(城福さんへ!)一言だけ・・

 ・・どうして今野泰幸を、最初からボランチで使わないのだろう・・もちろんセンターバックとしても超一流の彼だけれど、攻守両面での機能性をアップさせたいならば、リンクマンとしてもセンターハーフとしても超一流の今野泰幸を、羽生直剛、徳永悠平と「トリオ」にすれば、より中盤のダイナミズムがアップすると思うのですよ・・守備こそが全てのスタートライン・・特に中盤ディフェンスのダイナミズムがアップすれば、確実に次の攻撃の内容もアップしていくはず・・前の三人は、おのずと決まってくるだろうけれど、米本拓司と梶山陽平を欠く現状では、この三人による「守備的ハーフ・ダイナミックトライアングル」が、とてもうまく機能すると確信する筆者なのでした・・

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]