湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第9節(2009年5月2日、土曜日)

 

後半の残り30分に出てしまった悪いサッカーから学ぶことは?・・(レッズvsアルビレックス, 1-0)

 

レビュー
 
 「後半の(残り!?)30分は、悪いサッカーになってしまった・・」

 フォルカー・フィンケが記者会見で言っていた。まさに、そのことが、今日のコラムのメインテーマということになります。

 でもまずは、トゥーリオがブチ込んだ劇的な決勝ゴールから。本当に凄かった。まさに鬼神のゴール。

 ところで、その2分前のこと。アレックスからの素晴らしいクロスボールを、これまたトゥーリオが、爆発的なヘディングシュートを見舞ったシーン。

 そのシュートは相手ゴールキーパーの正面に飛んでしまったけれど、そのときトゥーリオが十字を切って神と対話(!?)していた。「チャンスを作り出してくださったのも、そのシュートがGKの正面に飛んでしまったのも神の思し召し・・そこにある何らかの意味を反芻します・・」といった祈りだったんだろうか・・。

 そしてその2分後の、まさに劇的な決勝ゴール。わたしの脳裏では、そのゴールと、その2分前のトゥーリオの「神との対峙」が重なっていた。あの祈り(神に対する感謝!?)があったからこそ生まれた劇的なサヨナラゴール!? さて・・

 ところで、このコラムは、今日の二本目ということになります。一本目のコラムは、平塚競技場で1300時から行われた「ベルマーレ対セレッソ」のエキサイティングマッチ。素晴らしい勝負だったし、そこには、興味深いコンテンツが山盛りだった。でも、その後の、平塚から埼玉スタジアムへの移動が地獄だった。大渋滞・・。ホントに疲れた。そのことについては「このコラム」の前段をご参照アレ。

 ということで本題に入ってきましょう。

 前半は、アルビレックスが、ダイナミズム(迫力ある力強さ)にあふれた積極ディフェンスを基盤に、互角のサッカーを展開しました。前半のゲーム内容は、どちらに勝利の女神が微笑んでもおかしくないといった展開だったのです。

 わたしは、アルビレックスが魅せつづけた、有機的に連鎖しつづける全力ディフェンスに目が釘付けでした。素晴らしかったですよ。だからこそ、次の攻撃にも勢いが乗る。素早く相手ゴールに迫る組織パス展開だけではなく、その流れに、ペドロ・ジュニオールの爆発ドリブルや、矢野貴章が仕掛ける「柔軟で危険」な勝負ドリブルが効果的にミックスされる。そんなアルビレックスの攻撃からは、危険な香りが強烈に放散されていた。

 もちろんレッズも負けていない。このところの発展ベクトルから寸分の狂いもない、攻守にわたるダイナミックな組織(コンビネーション)サッカーを前面に押し出すことで、アルビレックスの勢いを徐々に殺いでいった。

 (山田直輝は言うに及ばず)例によってエジミウソンが、ポンテが、原口元気が、縦横無尽にポジションチェンジを繰り返しながら、忠実で効果的、そしてダイナミックなディフェンスを展開する。

 ここでは、忠実さがメインテーマだね。とにかく、エジとポンテの忠実ディフェンスを観ながら、そのアクションの背景に潜む「心理マネージメント的な秘密」に思いを馳せていたわけです。

 そんな『才能系のプレイヤーによる!』攻守にわたる忠実な汗かきランニング(仕事)があるからこそ、レッズの「発展ベクトル」を、継続的に伸張させることができるということなんだろうな・・だからこそ、その「背景に潜む心理マネージメント的なメカニズム」に興味が湧くよな・・なんて思っていたいたのですが・・

 そんな忠実なランニング(強烈な意志の発露=ほつろ=)が、選手の交替によって、大きく阻害されてしまうのですよ。そう、高原直泰と原口元気の交替と、アレックスと山田直輝の交替。

 彼らの脳裏に潜む心理的な背景(!?)などについては知る由もないけれど、二人とも、効果的なプレーができていないことは確かな事実なのです。高原直泰は、少なくともスペースへ動くことで展開のステーションにはなれているけれど、動きが鈍重なアレックスは、もう最悪。まったく「自分から仕事を探す」ことができていない。

 アレックスの周りを、ポンテやエジミウソンが、前後左右に汗かきのディフェンス(=忠実なチェイス&チェックなど!)に奔走している。要は、突っ立っているアレックスが、何度も、前後左右に、ポンテやエジミウソンに「追い抜かれ」るのですよ。最悪でしょ?

 彼らのプレーを観ながら、「アレックスは山田直輝と交替して出場したんだぜ・・少なくとも走りまくってチームに活力を与えろよ・・走れば、周りに才能ある選手が揃っているんだから、何かを動かすことができるんだよ・・それなのに、逆に、チームの活力を殺いでしまうようなプレーしか出来ないなんて・・ホントに信じられない・・」なんていう文句が出っぱなしでした。

 フォルカー・フィンケも、その事態を、しっかりと理解していた。だから記者会見で、「後半の30分間は悪いサッカーになってしまった・・」と言ったのです。

 彼は、アレックスに対して、「左サイドをベースにプレーせよ・・そしてそこからクロスボールを入れろ!」と指示を出したということです。そのことによって、冒頭で描写した、トゥーリオへの「素晴らしいクロスボール」が送り込まれたというわけです。

 フォルカー・フィンケが言うように、アレックスの場合は、とにかく仕事を「規定」してやる必要があるということなんだろうね。レッズの指揮官は、これまでに何度も、彼を「ミッドフィールド」で使うことにトライし、その都度、期待を裏切られてきた。とにかく彼は、攻守にわたって自分で仕事を探せないから、仕事を「チーム戦術的に限定」する必要があるということなんだろうね。「それ」がうまく機能すれば、少なくとも素晴らしいクロスは入るからね。フムフム・・

 それにしても「中盤のフタ」が入ってからは、数分と経たずに、中盤でのダイナミズム(人とボールの力強い動き)がどんどん減退していった現象には驚かされた。とにかくアレックスは、中盤のセンターで、スペースを「消して」しまっているから最悪。それに、守備でもチェイス&チェックをやらないから、まさに邪魔なだけの存在です。

 そんなだから、ポンテとエジミウソンの「意志」がダウンしてしまうのも道理だったのですよ。

 「動き」がキーワードであるレッズの発展ベクトル。結局、高原直泰とアレックスという「中盤と最前線のフタ」が、その良い流れを断ち切ったと言っても過言じゃないかもしれないね。とにかく、彼らが出場したことで、それまでスムーズだった攻守の(イメージの)流れに、明確な「よどみ」が生じてしまったのは確かな事実だったわけだからね。

 ポンテとエジミウソンは、原口元気と山田直輝という二人の若者に大いなる刺激を受けつづけていたのですよ。だからこそ、才能系のベテランとしてのプライドによって自己主張していた!? いや、彼らは、この二人の若者によって、自分たちがもっと良いプレーが出来るという事実を教えられたのかもしれない。

 その「刺激」がグラウンドからいなくなっただけではなく、代わりに、二人の「イメージステータス的には同格」のベテラン選手が入ってきた。でも彼らは、明らかに「停滞要素」だった。そして彼らのところで「動き」が止まることによって、徐々にチームが「悪魔のサイクル」に陥っていった。これでは、ポンテとエジミウソンの「動き」が止まり気味になってしまうのも道理じゃありませんか。

 アイツらは走らない・・攻守わたって、汗かきの全力ダッシュもやらない・・これでは何も生み出すことはできないしリズムが減退していくばかりだ・・

 それだけではなく(中盤と最前線のフタによって!?)守備的ハーフの押し上げ(タテのポジションチェンジ)や、サイドバックのオーバーラップも、どんどんと勢いを失っていく(左右のサイドゾーンが、この動きのない二人によって占拠されてしまった!)のですよ。

 ちょっと高原直泰とアレックスに厳しすぎるかもしれない。ただ、この試合での「現象」については、真摯に反省しなければなりません。そのことについては、言い訳の余地は全くないのですよ。彼らはビデオを見直すことで、良いプレーをするために、何をするのが必要なのか、とにかく自分自身で考えなければいけません。やらされているのは最悪だからね。そう、自分たちの、プロとしてのプライドに懸けて・・

 それ以外にも(フォルカー・フィンケ曰くの)相手の一人が退場になった状況でのゲーム運びの難しさというテーマや、トゥーリオ、鈴木啓太、阿部勇樹で構成する「守備ブロックのダイナミック・トライアングル」というテーマもある。

 単車での移動距離は、今日も「200キロ」を超えてしまった。ちょっと疲れ気味。ということで、今日はこのあたりで・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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