湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第33節(2009年11月29日、日曜日)

 

内容と結果の不一致というサッカー的ドラマ・・(MvsSP, 2-0)

 

レビュー
 
 それにしても、サッカーらしい、理不尽なゲーム展開になったもんだ・・

 来シーズンACL(アジアチャンピオンズリーグ)へ向けた最後の四つ目の座をつかみ取るために、全力で勝ちにきたエスパルス。対するマリノスは、来シーズン指揮を執らないことが決定しているという背景要因も加味したメンバー構成だったことから(!?)あまりサッカー内容が高揚していかなかった(木村浩吉監督の弁)。

 そのことは、グラウンドでは、ディフェンス内容の差として現れてくる。要は、前戦からのチェイス&チェック、忠実マーク、協力プレスへの集散、そしてインターセプトや局面のボール奪取勝負のせめぎ合い・・といったディフェンス内容でマリノスを凌駕するエスパルスが、多くの時間帯で主導権を握ったということです。

 でも勝負では、ゲーム終盤で、夢のような二本の中距離シュートを決めたマリノスが勝利を収めてしまう。

 先制ゴールは、交替出場した小椋祥平の、狙いすましたテクニカルなスーパーシュート。追加ゴールは、足がツリ気味ということで、最前線とポジションを入れ替えた栗原勇蔵が、(最前線で孤立してしまったから!?)エイヤッ!という気合いとともに放ったキャノンシュート。

 二つとも、同じようなところから(やや右サイドのペナルティーエリア手前10メートル!)、同じような軌跡を描き、同じようなスポットに(エスパルスゴールの左上角!!)吸い込まれていった。その瞬間、わたしは自分の目を疑った。あ〜〜、ビックリした。

 それまでのゲーム展開からすれば、まさに唐突なゴールだったのですよ。エスパルスの長谷川健太監督にしてみたら、まさに青天の霹靂ゴールだったに違いない。でもまあ、それもまた「サッカー」だから・・ね。

 ところで、前述した、木村浩吉監督が、(自身が)来年は指揮を執らないという背景要因も加味した先発メンバーにしたというクダリ。

 木村監督は、それについて、こんなニュアンスのことを言った。「これまでは(チームマネージメントのなかで!)闘う対象になることが多かったベテランだけれど、このような状況になったから、あまりこだわらずにメンバーを決めた・・」

 要は、これまでは、チームモラル(体質)とモティベーションを最高の状態に維持するべく、心理マネージャーとして「人間の弱さとの闘い」を志向してきた木村浩吉監督だったけれど、リーグの順位的にも、自分の立場的にも、徹底的に本来的な仕事を極める必要性は薄くなったということなんでしょう。そのテーマには、本当に様々な背景ファクターが内包されていることは言うまでもないよね(これまた木村浩吉監督の弁)。

 とはいっても、木村浩吉監督は、今日の先発メンバーでも良いサッカーが出来ると確信して送り出したわけで、それが叶わなかったことで、ちょっと落胆の表情を浮かべていた。だから私は、こんなニュアンスの質問をぶつけるしかなかった。

 「今日のマリノスの出来は、本当に良くなかった(しっかりと頷きながら聞いている木村監督)・・私にとって今シーズンのマリノスは、良いサッカーを展開し、チャンスも多く作り出しているのに、相手の一発カウンターに沈んでしまったり、チャンスを決め切れずに引き分けに持ち込まれてしまったりと、運にも見放された勝負弱いチームというイメージがつきまとっていた・・でも、この試合では、皮肉なことに、その逆の現象が起きた(木村浩吉監督も、今シーズンでは初めてかもしれないと言っていた)・・そこで質問だが、木村さんのアタマのなかには、たまには、良いサッカーを捨て、勝つことに徹するような吹っ切れた勝負(戦術)サッカーをやるというイメージはあるか?」

 「いえ・・ありませんね・・勝つことだけを意識したサッカーをやろうとしたことはありません・・あくまでも、良いサッカーをやっていれば、おのずと結果がついてくるというのが基本的な発想です(このコメントは、ちょっと脚色しすぎ!?・・でもニュアンス的には、それを言わんとしていたわけだから・・)・・それでも、内容では負けていたのに、運で掴んだ勝利に対して、(結果だけを受けて!?)内容までも誉められることもあった・・そんな報道には、違和感がありました・・」

 いいネ・・木村浩吉・・強固な意志(フィロソフィー=哲学)を持っている・・ポジティブで優れたパーソナリティーの証!?・・フムフム・・

 さて、このゲームに強烈な「意志」をぶつけてきたエスパルス。たしかにゲーム内容では、マリノスを凌駕した。でも、事実として、作り出したチャンスは数えるほどしかなかった。

 「そうですね・・マリノスの守備も一流だし・・でも、マリノスと比べたら、我々の方が、チャンスの量と質では勝っていたと思っているし、全体的なサッカー内容でも、このところの(連敗していたときの)悪い流れからすれば大幅に改善したとも思っている・・展開もスムーズになっているし、自分たちのカタチでシュートまで持って行けていたし・・」

 そんな(ニュアンスの)長谷川健太監督のコメントを聞いたことで、こんな質問が口をついた。

 「一時期、エスパルスにもリーグ制覇のチャンスがあったし(変化という意味でも)大いに期待していた・・ただ、タイトルが身近に感じられるようになった途端に調子を崩してしまった・・最後まで勝ち切れないエスパルス・・勝者のメンタリティーの欠如・・エスパルスには、そんなイメージがつきまとう(頷きながら聞く長谷川健太監督)・・その視点で、ネガティブな流れに陥ったこの一ヶ月間を振り返ってもらえないだろうか・・」

 「たしかに、タイトルチャンスが見えてから急に調子が落ちてしまった・・勝者のメンタリティーとか、一言じゃ、うまく言い表せませんが、その現象については、やはり、経験のなさという一言に集約されると思います・・我々は、まだ一度もタイトルを手にしていないのですよ・・ただ、今回の失敗は、確実に、次の糧になる・・いや、次のステップへ進むための効果的な糧にする自信があります・・」

 長谷川健太監督が、そんなニュアンスのことを言う。そう・・そういうことです。人間は、失敗からしか何かを学ぶことは出来ないし、それこそが本当の意味の経験とも言えるからネ。もちろん、その「失敗という現実」を見て見ぬふりをし、そこから逃避してしまうような後ろ向きの意識だったら、同じ過ちを何度も繰り返すことになってしまうけれど・・

 わたしは、長谷川健太監督と(プロコーチ)木村浩吉にも、日本サッカーを背負って立つことを期待しているのです。常に、人間の(自身の!?)弱さと対峙する「本音のディベート」・・。頑張れ〜〜・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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