湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2009年10月25日、日曜日)

 

今日は、雨が上がったから、二試合をハシゴできた・・(RvsAR, 0-3)(FRvsSA, 7-0)

 

レビュー
 
 今日は、ラッキーなことに、午後から雨から止んでくれた。だから、愛車のオートバイを駆って「ハシゴ観戦」が出来た。最初は、埼玉ダービー「レッズ対アルディージャ」。そして次が、等々力で行われたフロンターレ対サンフレッチェ戦。

 最後の最後まで、互いに積極的に仕掛け合うというエキサイティングな展開になったフロンターレ対サンフレッチェ戦。それは、まさに「一日の締めにふさわしい」という表現がピタリと当てはまる素晴らしい勝負マッチだった。それにひきかえ、レッズ対アルディージャ戦は・・

 まあ、とにかくストレートに感想を書かなければフェアじゃないよね。そう・・レッズは、これまでの負けパターンと同様に、アルディージャが展開する、しっかりと守備ブロックを組織するなかで蜂の一刺しカウンターを仕掛けていくという「ゲーム戦術」にはまり込んでしまった。

 足を止め、アルディージャ守備ブロックの眼前ゾーンでボールを横方向へ動かすだけのスタンディングサッカー。そんなんじゃ、アルディージャ守備ブロックが怖がるはずがない。彼らは、まったく余裕を持ってレッズの攻撃を受け止め、まさに「アルディージャのツボ」とも呼べるような、ラファエルが中心になった必殺カウンターでレッズを撃沈してしまったのです。

 それだけじゃなく、この試合でのレッズのサッカー内容が、まさに最低だったことは、かなり問題だった。

 以前の負けパターンだと、しっかりと(人とボールがよく動く組織コンビネーションで)攻めてチャンスは作り出すけれど(ツキに見放されたように!?)それを決め切れずに、相手の一発ワンチャンスカウンターに沈んでしまうという、まあゲームの内容的には(サッカーではよくあることだから!?)仕方ない面もあるよな〜・・なんていうモノが多かった。でも、この試合では・・

 要は、人とボールの動きがあまりにも鈍重に過ぎたということです。特に、攻めにおける、ボールがないところでのプレーに、まったくといっていいほど「自らリスクチャレンジの仕事を探そうとする意志」が感じられなかったのはいただけない。ホントに、情けない・・

 たしかに、アルディージャの守備は、いつものように、素晴らしい集中力を魅せつづけていただけではなく(素晴らしいチェイス&チェック・・忠実マークに忠実プレスなどなど)、エジミウソンと鈴木啓太が不在だったとか、前半40分にはポンテが退場になったことで、その後は10人で戦わなければならなくなった・・といったネガティブ要素はあったけれど、それでも、「あのプレー姿勢」は、プロとして、とても容認できるモノじゃない。

 いつのコラムだったか思い出せないけれど、良いときのレッズの組織コンビネーションイメージが戻ってきたことを象徴するような、ダイレクト・パスを組み合わせて決定的スペースを攻略したシーンを取り上げたことがあった。

 たしか、最後は阿部勇樹が、相手GKと一対一になった決定的チャンス。結局GKに止められちゃったけれど、そこで阿部勇樹が繰り出した、ボールがないところで「タテへ抜け出す」動きが、大事なものを「象徴」してたと感じたから、そのシーンをビックアップした。

 イビツァ・オシムさんがジェフを率いていたとき、チームの調子がどんなに悪くても、どんなに暑い気候でも、ジェフの(組織的な)仕掛けで、タテ方向の(リスキーな)ボールの動きと、決定的スペースへ向けて、タテへ「長い距離を全力で抜け出す」ような人の動きが連動しないことはなかった(もちろん状況によって、その数は大きく変動したけれどネ)。

 そのときのジェフ選手たちは、まさに、脇目も振らずに決定的スペースを狙いつづけ、実際に、何度も何度も(決定的スペースへ)飛び出していた。三人目、四人目の選手が、後方から、最前線の味方を追い越してまでも、全力で、決定的スペースへ飛び出していた。そう・・、そんな状況で、もし変なカタチでボールを失ったら、間髪を入れずに、これまた全力ダッシュで、守備へ戻らなければならないことを十分に理解していたにもかかわらず・・

 だからこそ、イビツァ・オシムさんは、今でも日本サッカー界で(たぶん日本の一般社会でも!?)とても深く尊敬されているのだと思う。

 でも、チャレンジャブルな(三人目、四人目の!)タテへの抜け出しフリーランニングなどまったく見られなかったレッズに対しては、敬意を表する気持ちは湧いてこなかった。

 とはいっても、ほんの数分だったけれど、ポンテが退場になった直後に、人とボールの動きの量と質が(リスクチャレンジの姿勢が!?)、何倍にも増幅した時間帯があった。でも、結局はそれだけ。ハーフタイム(・・という大事な機会)を経た後半でも、彼らの減退したプレー姿勢が大幅に高揚することはなかった。フ〜〜・・

 本当に、この試合でのレッズのプレーには落胆させられた。だからこそ、互いにギリギリまで仕掛け合ったフロンターレ対サンフレッチェ戦を観て溜飲が下がった。

 結局フロンターレが、(攻め上がるサンフレッチェの逆手を取るように=多くはカウンターで)7ゴールもブチ込んでしまったけれど、そこに至るまでには、様々な紆余曲折があった。

 サンフレッチェのペトロヴィッチ監督は、「とにかく、勝つつもりで仕掛けていった結果だから仕方ない・・ここで起きたことは、選手にとって、とても良い学習機会になった・・」と、冷静に分析していた。

 まあ、サンフレッチェの場合、一点を追う後半に(いままでの彼らのやり方に逆行するように!?)守備の人数を少し増やして安定させ(=それ以上の失点を喰らわないように手配し)それをベースにゴールを奪いにいく・・などといった、ある意味「中途半端な策略サッカー」的なやり方じゃ、もっとヒドイことになったと思うけれどネ。

 やはりサンフレッチェは、最後の最後まで、吹っ切れた仕掛けを魅せつづけなくっちゃネ。リスクチャレンジのないところに発展はない・・。何せ、ペトロヴィッチさんは、イビツァ・オシムさんの弟子でもあるからネ。

 それにしてもフロンターレは強くなった。リーグチャンピオンに相応しい・・!?

 私は、そのもっとも大きなバックボーンは、何といっても、攻撃陣のなかに、本物の「組織プレーイメージ」が確固たるカタチを成してきているからだと思います。そのことについて聞いた私の質問に対し、関塚隆監督もアグリーだった。

 まあ、そのニュアンスの多くは、レナチーニョに関することなんだけれどネ。以前は、まさに自分勝手なスタンドプレーが目立っていた彼だったけれど、いまでは、汗かきディフェンスもしっかりとこなすし、攻撃でも、シンプルなパス出しだけではなく、ボールがないところでも忠実にスペース攻略フリーランニングを繰り返すのです。

 もちろん、ジュニーニョにしてもチョン・テセにしても、同じように「組織マインド」が進化していると感じます。だからこそ、牛若丸(中村憲剛)が中心になった組織コンビネーションにも、ホンモノの勢いが乗るようになってきているし、そしてだからこそ、彼らの「個の能力」が、本当の意味で効果的に発揮されるようにもなっている。

 しっかりと人とボールを動かせば、必ず、相手ディフェンスの「人数の薄いゾーン」でドリブル勝負を仕掛けていけるようなチャンスを獲得できるからね。

 そんなフロンターレだけれど、もちろん課題も垣間見せていた。

 それは、立ち上がりの20分くらいまで(要は、ジュニーニョのスーパー先制ゴールが決まるまで)に作り出した絶対的チャンスを決め切れなかったという事実。その現象には、とても深い意味が込められていると思いますよ。勝負強さとか、勝者のメンタリティーとか・・

 そして、案の定というか、森勇介からのスーパースルーパスをジュニーニョが決めた先制ゴールの後では、サンフレッチェに攻め込まれて、何度もピンチを迎えていた。

 そんな展開を観ながら、「これは・・終わってみたら引き分け・・なんちゅうコトになっちゃうんじゃないのか・・」なんて思っていた。でも実際には・・

 まあ、そんな経緯も、前述した「紆余曲折」に含まれるわけです。それにしても、7ゴールか〜〜。とても派手だけれど、まあ、フロンターレの強力な攻撃陣のイメージからすれば当然の体現ということですかネ・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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