湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第25節(2009年9月13日、日曜日)

 

冗長になってしまったけれど・・自分たちのサッカーを取り戻すための「戦術的な変化」というテーマ・・(Rvs山形、4-1)

 

レビュー
 
 そりゃ、サ・・全体的な「動き」が鈍重に感じられたとか(互いの動きがうまくリンクせず、どちらかといったら互いにスペースをめぐって邪魔し合っていたという印象!?)・・だから相手ディフェンスを崩していく最終勝負でも、個人勝負が目立ちすぎていた・・とか・・

 ・・はたまた守備でも、まだまだ、「フッ」と気が抜けてしまう瞬間が見受けられる(この試合での唯一の失点シーンでの集中切れ・・クロスを送られたポイントでも、ニアポストゾーンでシュートを決められたポイントでも)・・また、マーキングが「いい加減」なシーンも、まだまだ視認できる・・

 そんなネガティブなポイントはあったものの、とにかく、久しぶりに勝利したことは、レッズにとって、とても重要な意味があった思いますよ。勝つことで、様々なネガティブポイントが自然と改善されていくという視点からもネ。 ホント・・とにかく良かった。

 とはいってもネ・・ホントのところ、私は、前述したネガティブポイントについて、その背景に、確かな「戦術的意図」があったとも思っているのですよ。これまでのゲーム内容の悪い流れを断ち切り、とにかくまず何とか勝ち点を獲得する・・という唯一のターゲットを目指して・・。

 これまで私は、相手が、守備を固めるゲーム戦術で臨んできているのに、それに対して、いつも通りのコンビネーションサッカーで真っ向勝負するのはどうかと思うと言いつづけてきました。また守備で集中切れしてしまうシーンが多すぎるという指摘もしました。でもまあ、ここでは、主に攻撃にスポットライトを当てることにしましょう。

 ガンガンの勢いでプレッシング守備を仕掛けて積極的にボールを奪い返し、そのエネルギーを増幅させることで、人とボールを活発に動かしつづけながら(人数を掛けて!)攻め込む・・というイメージの、フォルカー・フィンケが志向する(!?)コンビネーションサッカー。攻守にわたって、常に数的に優位な状況をつくりつづけるっちゅうイメージかな・・。

 そんな、誰もが畏敬の念を覚えた高質なサッカーが、ある時期を境に(運動量をハイレベルに保つことが難しい日本の夏がはじまった頃から!?)急に歯車が噛み合わなくなっていった。

 それでも、連敗がはじまった頃は、まだ流れのなかでチャンスを作れていたから、敗戦に対しても「純粋にツキに見放された・・」というイメージの方が強かった。それが、負けているうちに、サッカー内容にもネガティブな現象が積み重なるようになっていく。

 ボールがないところでの動きが(ガチガチの相手マークに抑え込まれるように!?)停滞気味になることで、組織コンビネーションがうまく機能しなくなっていったのですよ。そして、全体としてはイニシアチブを握ってはいるものの、流れのなかでは、チャンスを作り出せず、相手の一発カウンターに沈むというゲームがつづいてしまう・・。

 そりゃ、そうだ。相手は、レッズが繰り出す「ボールがないところ」での動きを、忠実でタイトなハードマークによって抑え込むんだからね。だから、フリーなパスレシーバーを演出できず、スペースもうまく使えない。そうしているうちに、ボールがないところでの動きの勢いも減退しはじめ、結局は、相手の人数が多いゾーンへ向けて、ゴリ押しのドリブル勝負を仕掛けていくだけという、信じられないほどプリミティブな(低次元の)サッカーに落ち込んでしまうのですよ。

 そんな悪い流れを断ち切るためには、とにかく攻撃に「変化」を付けなければいけません。簡単に、ロングボールやアーリークロスを「放り込んだ」り、強引な中距離シュートを、がんがんブチかましたり・・。そんな「粗野な」仕掛けを繰り出せば、相手もまた、そんな「信じられない変化」に対応していかなければならないわけです。そして守備の組織バランスが取れなくなっていく・・

 そうなったら、再び、レッズの素晴らしいコンビネーションサッカー(私は、ハイクオリティーな組織パスプレーと個人勝負プレーが、とても高度なバランスを魅せるコンビネーションサッカーと呼びます)が復活するに違いないと思っていたわけです。

 組織プレーと個人勝負プレーの高度なバランス・・という現象の意味だけれど、要は、原口元気とかエジミウソンといった個の勝負能力を最大限に活かせる「良いカタチ」で彼らにポールを持たせるために、しっかりと人とボールを動かしつづけるということです。もちろんシュートは、そんな個人勝負ベースだけじゃなく、パス&ダイレクトシュートという「組織フィニッシュ」もありだよ。そんな組織的な最終勝負「も」うまく機能するからこそ、個の勝負も光り輝かせることができるんだよ。

 ただ、連敗中のレッズは、まさに「かたくな」に自分たちのサッカーを押し通そうとして、心理的な悪魔のサイクルにはまり込んでしまっていた。

 ちょっと前段が長くなりすぎてしまったけれど、私が言いたかったことは、この山形戦でのレッズは、単純なタイミングとコースのロングパスを最前線へ送り込んでみたり、タテへ「仕掛けて行き過ぎる」のではなく、後方でゆっくりと横パスをつなぐなど(そこでの前戦での動きもゆっくりになるなど)、攻撃のペースを「わざと鈍重にする」ようなイメージでプレーしていたフシがある・・ということです。

 だから、人数を掛けた相手の守備ブロックも(レッズの鈍重な動きに油断して!?)その雰囲気とリズムに「乗ってしまった」という印象があるのですよ。

 ゆっくり、ゆっくりとボールを動かしているけれど(ボールがないところでの動きも鈍重なベース!?)、ひとたび、何らかのキッカケによってスイッチが入れば、急激なテンポアップと、ボールがないところでのアクションが複合してスタートすることで、例によっての素早い組織コンビネーションと個の勝負ドリブルを、効果的に相手守備にブチかましていく・・。

 そのキッカケは、原口元気やポンテのドリブルだったり、前述したロングボールから、最前線のエジミウソンがタメを作ったり、中盤からのワンツーコンビネーションがスタートしたりなど、もちろん千差万別ですよ。でも、ひとたび・・

 とにかく私は、何度も、ゆっくりした流れから、急にテンポアップして鋭いコンビネーションや必殺の勝負ドリブルを繰り出していく「メリハリの効いた仕掛け」を目撃した。

 これまでは、全体的には支配しているけれど、結局は、まったく流れのなかからチャンスを作り出せないというゲームがつづていた。それでも、この試合では(まあ、レッズがリードしたことで山形が攻め上がってきたという側面もあるけれど・・)五分の展開のなかで作り出したチャンスの量と質では、連敗中のレッズとは雲泥の差があった(大いに改善した!)と思っている筆者なのです。

 うまく(短く)まとめられなかったことで、とても冗長で、微妙なニュアンスのコラムになってしまった。とにかく私は、この山形戦でのサッカー内容について、レッズが、復調ベクトルに乗るために(!?)様々な戦術的トライを入れはじめた兆候があると言いたかったわけです。

 復調といえば、プレイヤー的にも、攻守にわたって素晴らしい縁の下の力持ちプレーを(まさに絶頂期に匹敵するスーパー汗かきプレーを)披露しつづけた鈴家啓太とか、見違えるほど、攻守アクションの量と質が(しっかりと働くことに対する意識と意志が!?)高揚しているセルヒオや梅崎司とか、復活し、相変わらずのダイナミックプレーで、期待値を限界まで高揚させてくれた田中達也(彼のプレーは、原口元気にとっても大いなる刺激になるはず!)、そして多分次節に復帰するだろうダイナミズム・ジェネレーター(力強さの原動機)山田直輝などなど、やっと、メンツが揃ってきたという感があるよね。

 フォルカー・フィンケは、彼が志向する組織コンビネーションフットボールのベクトルから外れる「戦術的トライ」について確信が持てていないのかもしれないね。やり方を間違ったら、これまで培ってきた「良いサッカーのイメージ基盤」が根底から崩壊してしまうかもしれないからね。でも私は、この戦術的トライは、そんなネガティブ現象にはつながらないと確信しているのですよ。

 レッズ選手たちは、とても「モノが分かった大人」だと思うわけです。彼らは、フォルカー・フィンケが志向する組織コンビネーションサッカー(まあ・・トータルフットボールを志向するベクトル上のある組織フットボール)について『アグリー』であり、だからこそ、それを自分たちのモノとして「成就させたい」と思っているに違いないのですよ。

 だからこそ彼らも、(これからメンツが揃っていくことも含め!)たとえ「攻撃の変化」を演出するための「アバウトな戦術的トライ」をミックスしたとしても、最後は、彼らが考える『我々の目標ベクトル』上に落ち着くことを確信しているのですよ。

 それについては、まったく心配していないけれど、この山形戦での久しぶりの勝利が、本当の意味で、レッズが志向する目標ベクトル上のサッカーへの復調を(復調へのキッカケを掴んだことを)意味するのかどうかについては、まだ確信は持てません。

 さて次節は、絶好調フロンターレとの勝負マッチ。彼らは、ゲーム戦術などに頼るのではなく、あくまでも自分たちのチカラを信じ、しっかりと攻め上がってくるでしょう。相手にとって不足なしだし、自らの「復調のレベル」を探る、とてもよい機会じゃありませんか。レッズにとっては、「自分たちのサッカー」を取り戻すための、とても大事な学習機会ということですかネ。とにかく、いまから楽しみで仕方ありません。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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