湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第24節(2009年8月30日、日曜日)

 

期待通りのエキサイティングな仕掛け合いになった・・(FRvsSP、1-1)

 

レビュー
 
 いや、ホントに面白かった。相手の良さを消す・・なんていうゲーム戦術(術策)を講じるような戦い方ではなく(!)あくまでも自分たちのサッカーを前面に押し出しながら積極的にプレーする両チームなのですよ。そんな彼らがギリギリの仕掛け合いを展開したのだから、ゲームが白熱しないはずがない。

 これぞ、エキサイティングフットボール。このゲームは、急に私用が重なってしまったから、結局テレビ観戦ということになってしまったけれど、それでも、局面での(そして大局的にも!)両チーム選手たちの、個人、そしてグループ戦術的な「リスクチャレンジ姿勢」が、ビンビンと伝わってきたものです。ホント、スタジアムへ行けなくて残念至極・・

 たしかに、全体的としては拮抗した仕掛け合いというゲームの流れだったし、シュート数でも互角だった。とはいっても、実質的なチャンスの量と質では、明らかに、エスパルスに軍配が上がるというのも確かな事実だったと思いますよ。

 特に前半は、イニシアチブを掌握するなかで、何度も決定的チャンスを作り出したから、ゲームペースは、もう完全にエスパルスのものだった。 その好調な積極サッカーの絶対的ベースは、言わずと知れた「優れた守備意識というファクター」に集約されるわけだけど、そこにも、長谷川健太監督の「優れたウデ」が見えてくる。

 ここで、両チームが繰り出す仕掛けプロセスの傾向というテーマに触れてみることにしよう。そのニュアンスは、やはりちょっと違う。

 両チームともに(カウンター状況は除き)両サイドゾーンをうまく活用して仕掛けていくというメインイメージには変わりはないけれど、その仕掛けの流れの中心的なプロセス(手段≒チーム内でのシェアイメージ)に違いがあるということです。

 エスパルスは、あくまでも組織パスプレーをコアに最終勝負までもっていこうとする。それに対してフロンターレの最終勝負プロセスは、どちらかといったら「個のチカラ」を前面に押し出す。

 エスパルスが仕掛ける組織プロセスの中心人物は、言わずと知れた最前線コンビ、岡崎慎司とヨンセン。もちろん中盤の本田拓也、兵働昭弘、枝村匠馬、伊東輝悦、そして両サイドも、この組織プロセスの流れを担ってはいるけれど、エスパルスの場合は、特に、最前線コンビの役割が大きいと思うのですよ。そう、効果的な「タテ方向のボールの動き」を演出する最前線コンビ・・。

 特に岡崎慎司。この試合でも、例によっての、抜群にスピーディーでパワフルな、最前線からのチェイス&チェック(=ボール奪取勝負)を絶対的なプレーイメージ基盤に、ボールがないところでの抜け出し(決定的フリーランニング)だけじゃなく、ポストプレーや、勝負ドリブルを駆使したチャンスメイカーとしても(もちろんドリブルシュートを駆使するフィニッシャーとしても)とても素敵なプレーを魅せた。

 自信の高揚・・!? まあ、そういうことだね。自信があるから、プレーが中途半端にならず、最後の最後まで、吹っ切れたリスキーな仕掛けチャレンジを完遂させられる確率が高揚する。もちろん失敗もあるけれど、彼の自信と確信は、そんなミスによるネガティブマインドをも完璧に包み込んでしまうほどのレベルにあると感じさせてくれる。そんな自信&確信プレーを代表チームでも・・!! 期待が高まるじゃありませんか。

 ここでは、岡崎慎司の「優れた個の勝負プレー」を取り上げたわけですが、それは、エスパルスの「組織パスプレー基調の仕掛けプロセス」と書いたことに反するかもしれませんね。まあ、岡崎の「個人勝負プレー」の実質的なコンテンツは、やはり、フロンターレが擁する「個の天才連中」のプレーとは、ニュアンスがちょっと違うよね。

 ジュニーニョの、爆発的な勝負ドリブルや、チョン・テセが魅せるパワフルな勝負プレー、はたまた中村憲剛が繰り出す軽快な勝負ドリブルや「スペースをつなぐ」ドリブルなど・・。そんな天賦の才が香るジーニアスプレーと比べ、岡崎慎司の個の勝負プレーには、どこか「雑草の香り」がするわけです。

 まあ、ヨンセンも含め、エスパルスの最終勝負プロセスには、忠実な(雑草のような)組織プレーイメージが、チーム内で深くシェアされているというバックボーンを感じるわけなのです。

 ところで中村憲剛。この試合で、彼のことを「牛若丸」と呼ぶには、ためらいがありました。ちょっと、エスパルスの守備にやられ過ぎていた(ミスが多すぎた)からネ。

 最初は、攻撃的ハーフから立ち上がっていったケンゴだったけれど、エスパルスの「高質なディフェンス」と対峙するなかで、どんどんとリズムを失っていったと感じます。そのこともあって、後半からは、より後方からスタートするというイメージでプレーするようになった!? そう、前節、山形戦での成功体感を呼び覚ますように・・。

 そのことで、たしかにプレー内容は好転したという印象はあったけれど、皮肉なことに(後方からのゲームメイクというイメージが災いして!?≒そのイメージを、マルコス・パウロに読まれて!?)エスパルス先制ゴールのきっかけを与えるような決定的ミスを犯してしまう。フムフム・・

 最後は「まあまあフェアな痛み分け」ということで落ち着いたけれど、私にとっては、「あのまま」エスパルスが先制ゴールを守りきっても、とてもフェアな結果だったと思えるゲームではありました。

 エスパルス選手たちの(特に岡崎慎司の)表情からも、「勝つべき試合だった・・」という悔しさがにじみ出ていた。それに対してフロンターレ選手たちの表情からは、ちょっと守りに入ってしまった(消極的にプレーしてしまった!?)時間帯があったこと(≒もっと良いゲームがやれたに違いないという体感が残ったこと!?)を悔やんでいるようなニュアンスが見て取れた。さて・・

 まあ、この試合については、こんなところでしょうか。ヴィッセル対レッズ戦は、週明けにでも、ゆっくりとビデオ観戦することにしましょう。それにしてもレッズは、リーグ7連敗ですか〜〜・・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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