湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第2節(2009年3月14日、土曜日)

 

まだまだ時間はかかるけれど、期待レベルを高いところに設定できるから十分に耐えられる・・(レッズvsFC東京, 3-1)

 

レビュー
 
 「オレは(まだ!?)チームを固めることはしない・・とにかく、その時点で調子が良い選手を使うんだよ・・前節のアントラーズ戦メンバーからは、高原直宏と平川忠亮に代わってエジミウソンと山田暢久が先発に入ったわけだが、それにしても、今週のトレーニングでの彼らのプレー内容をみて決めたんだ・・」

 公式記者会見後の、英語ベースの「かこみ取材」で、フォルカー・フィンケがそんなニュアンスのことを言っていた。

 いいね〜〜、フォルカー。皆さんもご覧になったとおり、エジミウソンの気合いレベルは、昨シーズンとは比べものにならないよね。攻守にわたって、本当によく走って闘っていた。そんなところにこそ、心理マネージャーとしての、監督の本質的なウデ(優れた見えざる手!?)が見えてくる。

 だからこそ、セルヒオ・エスクデロの覚醒に対しても、本当の意味での期待感が高まってくるのですよ。もしかしたらフォルカー・フィンケは、本当に、セルヒオが秘める「レベルを超えた才能」を、正しいサッカー方向へ「ブレイクスルー」させられるかもしれない・・ってね。

 また、「囲まれていた」フォルカー・フィンケは、レッズのサポーター(参加&当事者意識が高く、浦和レッズを地域のアイデンティティー=誇り=として認知している生活者の方々!?)について、こんなニュアンスのことも言っていた。

 「オレには、浦和レッズのサポーターの熱意に応えたいという思いもあるんだ・・昨シーズンの最後の数試合を観戦したけれど、サポーターは、最後の最後までレッズを心から応援していたよな・・ちょっと感動モノだった・・そんな素晴らしいサポーターに応えたいという感情が出てくるのは自然なことだと思う・・」

 いいね〜〜、フォルカー・フィンケ。

 ところで、「調子が良い選手使う・・」というコンセプト。もちろん、後半になって交替出場した高原直泰にしても事情は同じ。彼もまた、良いプレー(監督が望む、攻守にわたるコレクティブな汗かきコンビネーション!?)を全力でやりつづけなければ、すぐにでもベンチに座ることになると、しっかりと認識しているのですよ。だからこそ、素晴らしいダイナミックプレーで、レッズの組織(コンビネーション)プレーを加速させられた。彼自身にとっても、ここ最近でのベストプレーだったんじゃないか? 本当に、素晴らしい実効レベルの勝負プレーを魅せてくれた。ちょっと見直した・・あははっ。

 とにかく、もっとも大事なことは、調子の良い選手を優先的に使うという「フォルカーの真実」をチーム全体が共有しはじめているということですかね。

 それこそが、チームモラルを高揚させる唯一のエネルギー源だからね。監督の本質的な仕事は、「人間の弱さ」との闘いなのですよ。教師としての経験も豊富なフォルカー・フィンケは、優れた心理マネージャーとして、その人間心理のメカニズムを熟知しているということでしょう。

 そういえば、私も教えを請うたオランダの伝説的スーパーコーチ、故リヌス・ミケルスも教師上がりだったっけ。

 とはいっても、フォルカー・フィンケ自身も言っていたとおり、レッズの状況は、まだまだ「道半ば」であることも確かな事実です。

 この試合でも、守備が連動せず、攻撃でも、ボールがないところでの選手の足が止まっていた(足許パスのオンパレード!)時間帯も、かなりの頻度でみられた。こちらは、そんな流れを観ながら、アタマにきていた。何をやっているんだ〜っ!!

 たしかに、前節のアントラーズ戦での戦術的な反省ポイントは、しっかりと修正され、ある程度は機能していたと思う。トゥーリオが上がったら、鈴木啓太か阿部勇樹が下がってカバーする・・スリーバックではなく「ツーバック」なのだから、両サイドバックは「同時に」上がるのではなく、状況を見てバランスを取る・・などなど。

 とはいっても、まだまだ「戦術的なプレーイメージ」は、スムーズに描写されていないという印象の方が強かったのですよ。要は、「考えすぎる」ことで、協力プレスへ急行するタイミングを失ったり、攻撃でも、よりよいカタチのスペースパスを狙い過ぎることで逆にタイミングを失ってしまったり(それがミスパスにつながる!)するようなシーンが目に付いたということです。

 とにかく、あまり考え過ぎることなく(素早いタイミングで)スムーズにアクションが出てくることで、より活発でダイナミックに人とボールが動きつづける「組織サッカー」を表現できるようになるまでには、まだまだ時間が必要だということだろうね。決してステレオタイプじゃなく、あくまでも「創造的なオートマティゼーション」へ向けて・・

 ところで、フォルカー・フィンケの戦術ベースである「ポゼッション」だけれど、「それ」は、あくまでも「リスキーな仕掛けのキッカケ」を演出するためのベースという発想が基本ですよ。

 要は、人とボールをしっかりと動かしつづけることで(効果的に)決定的スペースを攻略していくための基盤ということ。もちろん「攻略の意味」は、相手守備にとって危険なゾーンで、ある程度フリーでボールを持つ味方選手を作り出すことなんて定義できる。その目的を達成するために「前向き&チャレンジャブルに」ボールをキープするということであり、決して、安全な(要は逃げの)横パスで「無為にボールを保持する」なんてことじゃありません。

 ちょっと錯綜した(カッタルい!?)論理展開になってしまった。とにかく、レッズが良いベクトル方向に乗っていることだけは確かな事実だよ。だからこそ、ちょっとネガティブなコトが起きても、ガマン出来るということか・・

 さて、選手の個人的な評価だけれど、この試合では何といってもポンテのパフォーマンスアップが目立っていた。実を言うと、もうポンテは終わりじゃないか・・なんてことまで思っていた時期もあったのですよ。それが、この試合では、攻守にわたって「目立たないところでの汗かきプレー」までも全力でこなすほど回復していた。それがあったからこそ、彼本来のクリエイティブな仕掛けプレーにも勢いが乗っていった。

 ボールがないところで走り上がる相手をケアーし、何十メートルも全力でマーキングに戻った汗かきディフェンス・・20-30メートルの全力ダッシュで「次・その次の相手パスレシーバー」に対するボール奪取アタックを仕掛けていった汗かきディフェンス・・などなど。そして、ココゾッ!のポイントで魅せる、勇気をもった個人勝負や、彼自身がリードするコンビネーションプレー(そこでの全力パス&ムーブは素晴らしかった!)。

 ポンテはもう終わり・・なんていう前言は、素直に撤回しますよ。スミマセン・・

 ポンテ以外にも、相変わらず鋭い突破プレーを魅せていた田中達也、忠実&堅実かパーリングが光った鈴木啓太、もっとリーダーシップを発揮できるはずの阿部勇樹、「天才」山田暢久、ガッツの細貝萌、まだまだ弱気の原口元気、(交替出場し期待通りのパフォーマンスを魅せてくれた)期待の山田直輝などなど、いろいろとあるけれど、まあ・・次の機会にしよう。

 最後も、フォルカー・フィンケの言葉で締めます。

 まあ、ニュアンスベースだけれど、彼はこんなことも言っていた。「前戦の選手だけではなく、トゥーリオや鈴木啓太といった後方の選手たちも、チャンスを見計らった攻撃参加でゴールを奪うことは、我々が志向するサッカーの意味合いに含まれる・・」

 そういえば、イビツァ・オシムさんも、こんなことを言ったことがあったっけ。「我々は、(フィールドプレイヤー)10人で守り、8人で攻めるようなサッカー」を志向する。要は、全員守備、全員攻撃の「トータルフットボール」。

 とにかく、目標は「高いところ」に設定されなければならないのですよ。さて、これからレッズナビです。では・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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