湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第15節(2009年6月27日、土曜日)

 

厳しい日本の夏を乗り切る「メリハリサッカー」・・(レッズvsヴィッセル, 2-0)

 

レビュー
 
 「なんだヨ〜・・もっと動けヨ〜〜!」

 記者席の横の一般席から、そんな声が聞こえてきました。まあ・・ね、確かにこの試合では(この試合でも!?)、何度か、動きの少ない停滞気味のサッカーが展開される時間帯があった。もちろん、両チームともにネ。

 ということで、この試合からピックアップするテーマは、先週の「つづき」ということになります。そう、蒸し暑い日本の夏という厳しい気候条件下でのサッカー。

 たしかに、この試合のレッズも、ヴィッセル同様、全体的な動きは「大きく」なかった。とはいっても、選手の意志(プレーイメージ)には、前節のマリノス戦とは比べものにならないほど「高い」モノがあった。

 「マリノス戦の内容は、こちらもビックリするほど良くないモノだった・・もちろん先週は、その原因を探ったわけだが、そこでは正確で(厳しい!?)分析もしたし、選手たちにも、歯に衣を着せずに(誠実に!?)クリティック(批評)を投げかけた・・そして、全てのポジションと役割について、再確認した・・」

 わたしが投げた、「マリノス戦でのショッキングなほど悪いサッカーに比べ、今日は、かなり改善されたように感じる・・先週は、このテーマについて、どのような改善のための仕事をこなしたのか?」という質問に対し、フォルカー・フィンケが、そう答えていた。フムフム・・

 まず大前提から。

 日本の夏は、確実に全体的な活動量は減退します。そこで、冬場と同じようなダイナミックサッカーをやろうものなら、時間の経過とともに想像以上に体力を消耗し、結果としてサッカーがボロボロになってしまう。

 とはいっても(ここが一番大事なところなのだけれど・・)マネージメントが、安易に気候的な厳しさを強調し過ぎたら、確実に、選手の闘うマインドは大幅に緩んでしまうでしょう。マネージメントの姿勢(監督やコーチによる雰囲気作り)は、より「極端に」選手のマインドに影響を与えるものなのです。

 例えば、マネージメント(監督やコーチ)がリラックスすれば、選手は、それに輪を掛けて「緩んで」しまうことが多いし、逆に、締め付ければ、「過ぎたる緊張状態」に陥ってしまったりする。だからこそ、マネージメントには、優れた心理マネージャーとしてのウデが求められるというわけです。

 ということで、日本の夏という厳しい気候条件において、どのようなイメージでサッカーをするべきかというテーマについて、先週、フォルカー・フィンケは、多分こんな心理マネージメントに精を出していたのではないだろうか・・

 ・・たしかに日本の夏は厳しい・・ただそれを、走らない(走れない)ことの言い訳にしてはならない・・とはいっても「やり過ぎた」ら物理的に参ってしまうのも事実・・だからこそ、メリハリのあるサッカーを目指す・・互いのポジショニングバランスを取りながらボールをしっかりと動かしながらタイミングを見計らい、「行く」ときは、いつものように出来る限り多くの人数を掛けて組織的に仕掛けていく・・逆に「ベースを落とす(休む)ところ」では、しっかりと守備ブロックを組織することをベースに、落ち着いたサッカーを展開する・・

 もちろん「そんなこと」を言ったかどうかなんて知らないよ。でも、今日の試合を観ていて、そう確信していたのですよ。今日のゲームで目立っていたプレー姿勢は、何といっても、攻守にわたって「落ち着いたところ」と「仕掛けていくところ」のメリハリが付いていたことだったからね。

 厳しい気候条件だから、なるべく(動きを節約する)効率的なサッカーをやろう・・。マネージメントがそんな姿勢だったら、選手は、マネージメントが意図する以上に「緩んで」しまうでしょうし、そのことを「自分自身の弱さのアリバイ」にも使ってしまうことでしょう。

 だからこそ、「もっと、もっと走らなければならない・・」ということを大前提にしながらも、「仕方なく」ギリギリの妥協をするのです(選手が、それをギリギリの妥協だと明確に体感することが決定的に重要な意味をもつ!)。そんなチーム戦術イメージを徹底させることが出来れば、落ち着いたボールの動きのなかから爆発的な仕掛けのスタートを狙いつづけるような、メリハリの効いたサッカーを展開できるはずです。

 もちろん、互いのポジショニングバランスを取りながら、正確に足許パスを回す「落ち着いたボールの動き」では、相手守備ブロックの眼前でボールが動くわけだから、相手守備を崩していけるはずがない。

 だからこそ、唐突な全力フリーランニングとか、急激なワンツーコンビネーションとか、「どこかで」爆発的にテンポアップすることで、相手守備のウラスペースを攻略するような最終勝負を仕掛けていかなければならないのですよ。

 「落ち着き」と「爆発」がバランスよく交錯するメリハリあるサッカー!? まあ、そういうことですかネ。ということで、選手は、その「爆発イメージ」をしっかりと共有できていなければならないのです。

 今日のゲームでのキーワードだけれど、フォルカー・フィンケが出してくれないから、こんな表現を考えてみた。

 嵐の前の静けさ・・とか、『次の爆発』をイメージした、バランスの取れたボールの動き・・とか、はたまた、『爆発』のタイミングを狙いつづける「静かなる」猛禽類のマインド・・とかネ。いかが!?

 『爆発』だけれど、それは、急激なテンポアップで仕掛けていく最終勝負のことですよ(アレ・・繰り返し!?)。そこでは、ワンツーとか勝負ドリブルといった「派手な勝負プレー」がキッカケになることが多い。そして、少なくとも3-4人の味方が、その最終勝負の流れに乗って相手守備ブロックのウラスペースへ仕掛けていくというわけです。もちろん、勝負ドリブルから、最後のシュートまで行ってもいいしネ。

 私にとって、この試合でレッズが魅せた「落ち着き」と「爆発」がバランスよく交錯したメリハリサッカーは秀逸だったのですよ。決定的なチャンスの量と質では、明確にヴィッセルを凌駕したわけだしね。とにかく、この気候条件で成功を収めるための最大の要件は、『爆発への共通の意志』を常に最高レベルに維持するということだろうね。

 ということで、ここからは、選手にスポットを当てることにしよう。

 この試合でレッズが魅せた「効果的なメリハリサッカー」の立役者は、何といっても細貝萌だったと思います。フォルカー・フィンケも誉めていたように、この試合での細貝萌は、攻守にわたって(守備的ハーフとして・・またリンクマンや、二列目から最前線スペースへ飛び出していく、爆発のキッカケプレイヤーとして!?)まさに「解放」されたダイナミックプレーを披露しました。

 日本代表が帰ってきた前節のマリノス戦では、守備的ハーフのポジションを阿部勇樹に「戻した」けれど、この試合では、ケガの坪井のポジションに阿部勇樹が下がったことで、再び細貝萌が守備的ハーフのポジションに就き、そして、まさに「水を得た魚」になった。本当に、攻守にわたって素晴らしいダイナミックプレーを披露した。

 山田直輝とともに、細貝萌も、繰り返し『爆発のキッカケプレイヤー』になっていたのですよ。もちろんエジミウソンや高原直泰、原口元気や鈴木啓太、はたまた両サイドバック(山田暢久と永田拓也)やトゥーリオも、ケースバイケースで「キッカケプレー」を披露したり、「爆発」の流れに効果的に乗っていくプレーは魅せていたけれどネ・・。

 日本の夏は、「落ち着き」と「爆発」が効果的に交錯するメリハリサッカーに、舌鼓を打つことにしましょう。

 今日は、レッズ対ヴィッセル戦の後、FC東京対エスパルスのエキサイティングマッチにも馳せ参じた。面白かったけれど、疲れた。

 FC東京対エスパルス戦については、機会をみてレポートしようとは思うけれど、それにしても、シーズン当初は最悪のスタートを切ったFC東京が、城福浩監督に率いられ、着実に良くなっている。

 特に、平山相太と石川直宏が、チームの好調さを牽引しているという印象が残りましたネ。平山は、気抜けプレーが消え、本来彼に期待されていた力強いサッカーが見られるようになってきていると思う。また石川直宏については、何といってもシュートが格段に良くなっている。素晴らしいよ、ホントに。ビックリした。

 彼らについても、レポートしたいネ。でも今日は、ここまでにしておきます。ではまた明日。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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