湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第13節(2009年5月24日、日曜日)

 

やはり「動き」には、チーム全体の統一感が必要なんだよな・・だから一人でも停滞したら・・(アルディージャvsレッズ, 1-1)

 

レビュー
 
 「たしかにボールはよく動くけれど、最前線の動きがないからな〜〜・・」

 ハーフタイムに、プレスルームで(実はトイレのなかで)ジャーナリスト仲間のそんな会話が耳に入ってきました。彼らが言うように、レッズは、アルディージャ守備ブロックのウラに広がる決定的スペースをうまく攻略できなかったわけだけれど、その背景要因として、彼らの会話に出てきた「ボールがないところでの動きが少ない」というポイントは的を射ていると感じた。

 「アルディージャは、カチッと守備ブロックを組織してきた・・そこでは、スペースを見つけること自体が難しい・・そのように守備を固めた相手を崩していくのは、そう簡単な作業じゃないんだ・・」

 フォルカー・フィンケが、そう言っていた。またアルディージャの張外龍監督も、こんな言い回しでフォルカー・フィンケの発言にシンクロしていた。

 「アルディージャの特長は、しっかりとディフェンスを組織し、そこから素早い(カウンター気味の!?)攻めを繰り出していくことだ・・その意味では、ある程度プラン通りのゲーム運びができたと思っている・・」

 ・・たしかにアルディージャは(全体的には)ゲームの流れを支配されていたけれど、守備ブロックのウラスペースを突かれるといった「破綻シーン」は数えるほどしか与えなかった・・逆に、忠実でダイナミックな守備(有利なタイミングとゾーンにおけるボール奪取)を基盤に、鋭く(素早く)効果的な「蜂の一刺しカウンター」から何度も決定的チャンスを作り出した・・

 ・・そんなカウンターの流れに乗って上がっていくアルディージャ選手たちの「走り抜ける勢い」は、まさに本物(パク・ウォンジェの先制ゴールは、まさにその賜物!)・・彼らの脳裏には明確なチャンスのイメージが「描写」できていたということ・・もちろんそれは、張外龍監督が良い仕事をしていることの証明だった・・

 ということで、そんな強力ディフェンスブロックと対峙することになったレッズ。冒頭のジャーナリスト仲間の発言が示唆していたように、レッズの仕掛けは、たしかにボールは動くけれど、ボールがないところでの動きが十分ではないことで、うまく「突き抜けられなかった」ことも確かな事実でした。

 そんな、ちょっと「勝ち切れない」という雰囲気が支配していた展開のなかで、チームの精神的な支柱でもあるトゥーリオが途中リタイアということになってしまうのですよ。そのときは暗澹たる気持ちになったものです。何せ、『動く=攻守にわたって主体的&積極的に仕事を探すプレー姿勢=』というテーマで大きな課題を抱えている「三人」のそろい踏みということになったわけだからね。高原直泰、セルヒオ、そしてトゥーリオと交替したアレックス。さて・・

 中盤の構成については、阿部勇樹が最終ラインに下がってからも、サイドバックから中盤(守備的ハーフ)に入った細貝萌が展開した攻守にわたるダイナミックプレー(=抜群の集中力で仕事を探しつづけるプレー姿勢)によって、チームの中盤ダイナミズムが減退することはなかった。細貝萌は、中盤でも、期待した通りの優れたパフォーマンスを提示してくれたということです。

 そう、チーム全体の「動きを活性化する刺激プレイヤー」として・・(このテーマについては、堀孝史について書いた『このコラム』を参照してください)・・

 とはいっても、やはり前戦が・・。エジミウソンと原口元気は、(素早く忠実な攻撃から守備への切り替えをベースに!)チェイス&チェックに代表される守備でも、また攻撃におけるボールがないところでのプレーの量と質でも、例によって(いつものように!)高く評価できるコンテンツを発揮してくれたと思います。

 また高原直泰のパフォーマンスからも、久しぶりにポジティブな印象を受けた。さすがに本場で揉まれたプレーイメージ。守備でも、攻撃でも、ココゾ!の勝負所でのプレー内容には、様々な意味を内包する「極限の意地」をも感じることができたのですよ。

 もちろん「まだまだ」ではあるけれど、彼のプレーに(特に、ボール奪取勝負シーンと、ボールを持ってからの個の仕掛けシーンなどに)強い『意志』が明確に感じられたことで、ちょっと胸をなで下ろしていた筆者でした。

 でも、セルヒオ・エスクデロのプレー内容は、やはり、まだまだいただけない。守備では、気が向けば、素晴らしいダイナミズムを放散しながら、実効あるボール奪取勝負を魅せてくれるけれど、その「守備参加プレー」が安定しない。そして多くの場面で、気の抜けた「アリバイ守備プレー」に終始したりするのですよ。

 そんな気抜けプレーを見せつけられたら、もちろんチームメイトは怒るでしょう。何せチームメイトは、セルヒオが「行けば」素晴らしい守備ができることを知っているわけだからね。もちろん「フザケルナよ!」なんて罵声は飛ばさないにしても、内心では、セルヒオに対する信頼感はガタ落ちだよね。

 そして攻撃。たしかにボールを持ってからの勝負ドリブルや、彼が中心になったコンビネーションでは、ときには優れたプレーを魅せてくれる。いや、「セルヒオにしか出来ないプレー」で周囲を驚かせ、魅了してしまうと言っても過言じゃない。

 でも「パス&ムーブ」という絶対的なベースプレー(それに対するイメージ)は、あまりにも貧弱。もちろん自分のボールキープをキッカケにした(セルヒオのところからスタートするような)コンビネーションに入ったら走るけれど、味方に「使われる」という状況では、まったくといっていいほど「パス&ムーブ」が出てこないし走らない。

 また、スペースでパスを受けたり、味方にスペースを作り出すといった「使われる」プレーのイメージも「薄い」。

 まあ、止まった状態で足許パスを受け、そこからドリブルに入るというイメージが強すぎるということだけれど、戻ってタテパスを受けてダイレクトで「はたき」、そこからパス&ムーブで、次のタテスペースへ全力スプリントで飛び出していく・・なんていう「本物コンビネーション」のイメージは本当に希薄だと思いますよ。フ〜〜・・

 とにかく、レベルを超えた天賦の才に恵まれたセルヒオだからこそ、互いに「使い・使われる」というメカニズムの「深遠」をしっかりと理解して欲しいのです。攻守にわたる忠実な汗かきプレー(=意志)が足りないことが心配で仕方ない。彼は「マラドーナ」じゃないんだからネ。これまでに「勘違い」して消えていった「才能」を何人目撃しコトか。フムフム・・

 要は、組織的な視点ベースのリスクチャレンジ姿勢(厳しい勝負シチュエーションで主体的に汗かきの仕事を探しつづけられる意志!)の表象としての『走りの量と質』が問われているということです。

 このテーマについては、昨日の「J−コラム」で、イビツァ・オシムさんの言葉もミックスしながら、ゲームレポートの長い前段として書いた。まあ、そちらも参照してください。

 さて、アレックス。たしかにゲームを支配している展開では、まあまあのプレーをするよネ。でも私の目には、例によって「楽をし過ぎ」だと映った。激しい「上下動」を基盤に、もっとリスクにもチャレンジできたはず。また守備でも、もっともっと積極的にボールを奪いに行けたはず。そんな積極プレーで我々にアピールするのではなく、逆に何度か、マークのウラを突かれるような(マークしていた相手にウラの決定的スペースにフリーで走り込まれるような!)決定的ピンチのシーンを目撃した。フ〜〜・・

 田中達也、ポンテ、山田直輝、梅崎司、平川忠亮などなど、不在の主力プレイヤーを挙げたらキリがない。まあ、一ヶ月後のリーグ再開を楽しみにしよう。

 それにしても、エスクデロとアレックスのプレー姿勢に、チャンスを掴もうとする「強烈な意志」を感じなかったことが不安だね・・

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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