湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第34節(2008年12月6日、土曜日)

 

ジェフ千葉ミラー監督にとっても10年は寿命が縮まるドラマだった!?・・(ジェフvsFC東京, 4-2)

 

レビュー
 
 正直、信じられませんでした。

 私は、入れ替え戦も含め、ジェフが「残る」と思っていたし、自身の学習機会としても大いに期待していたからこそジェフ対FC東京の勝負マッチを選びました。これは事実です。でも、後半に二点リードを許したところで、そんな期待も完全に萎えてしまったことも本当のところでした。

 たしかにジェフは、全身全霊でゲームに入っていった。そのことは、チェイス&チェックや忠実マーキングなど、ボールがないところでの汗かきディフェンスの量と質に如実に現れていたし、それによって全体的なゲームの流れも掌握できていた。期待が高まる・・

 それでも、カボレの一発ヘディングシュート(セットプレー)で先制ゴールを奪われてしまっただけではなく、後半の立ち上がりには、長友佑都の一発ミドルで追加ゴールまで奪われて2点のリードを許してしまう。そんなジリ貧の展開になってしまったから、最高レベルまで活性化していた「スピリチュアル・エネルギー」が減退していくのも自然の成り行きだったのかもしれない。

 そうなったら(汗かきプレッシングの勢いが少しでも減退したら)地力の差が先鋭化していくのも当たり前だよネ。そりゃ、個のチカラじゃ、明らかにFC東京の方に分がある。長友佑都、徳永悠平、今野泰幸、羽生直剛、カボレ・・。そうそうたるメンバーじゃありませんか。

 ジェフは、その「差」をディフェンスの勢いで消し去っていたわけだけれど、セットプレーから先制ゴールを奪われ、そして後半の8分には長友佑都のスーパーミドル追加ゴールで突き放されたことで、意志のチカラが見るからに減退し、ボールを追い回す「勢い」にも明かな陰りが感じられはじめたのですよ。

 ただミラー監督は、そんなタイミングを見計らって効果的に動く。長友佑都の追加ゴールから3分後には、ミシェウの代わりに新居辰基を投入し、7分後には、深井正樹に代えて谷沢達也をグラウンドに送り出したのです。最初の新居辰基が登場するまでの2-3分間に、明確に「勢いの減退傾向」が見て取れたから、ミラー監督の素早い「決断」は的確だと思われた。

 ただ私の目には、その交替によってゲーム展開が大きく「逆流」したとは思えなかった。ジェフのボール奪取エネルギー(プレッシング)が、最高潮のレベルまで回復したとは思えなかったのですよ。でも・・

 結局、4点のうち3点を決めたのは、交替出場した谷沢達也(2ゴール)と新居辰基(1点)だったわけだからね、結果としては実効ある「采配だった」ということになるのかな。たしかに、この二人が効果的に絡んだ素晴らしいカウンターが面白いように決まったわけだから、ミラー監督の判断が的確だったことは確かな事実だろうけれど・・

 もちろん、FC東京の城福浩監督は「自分たちを主体にして」分析する。

 「我々は(心理的なスキが出てくる!?)2-0の怖さを思い知らされた・・最後の時間帯では(攻守の組織プレーが!?)崩れはじめる流れに歯止めが効かなくなった・・それは、自分たちの弱さを象徴する現象だった・・別な表現をすれば、課題が失点につながったとも言える・・2-1にされたときに踏ん張れなかった・・」

 城福監督は、そんなニュアンスのことを言っていたわけだけれど、まあ、そういう側面も確かにあったと思う。カウンターの流れをタイミングよく「抑制」できなかった・・決定的なパスを送り出したジェフのボールホルダーを抑え切れていなかった・・走り抜けるジェフ選手を忠実にマークできていなかった・・など。

 もちろん、ミラー監督が意図したはずの(選手交代による)フレッシュで素早いリズムのカウンターがうまくはまったことは言うに及ばず、FC東京の城福浩監督が指摘していたように、「いつでも三点目が取れるという(イージーな)心理がチームに蔓延したことで、忠実なディフェンス姿勢のレベルが(無意識下で!?)減退しはじめていたという事実もあったはず。そんな「必然的な要素」が、この大逆転ドラマのバックボーンに少なからずあったことを否定するものじゃない。でもネ・・

 要は、私は、この大逆転ドラマが、サッカー的なロジカルファクター(必然的な要素)ではなく、どちらかといったら「偶然ファクター」に、より強くリードされていたと思っているわけです。

 サッカーは、情緒的な人間が主役の、偶然と必然がせめぎ合うボールゲーム(究極の心理ゲーム)。だから、どんな現象にも必然的なロジカルバックボーンがある・・なんていう考え方はバカげているのですよ。すべての現象が、偶然要素と必然要素が入り乱れる「グレー」だからこそ、さまざまな「現象」の背景メカニズムを説き明かす(自分自身の納得を探る)作業ほど魅力的な「知的プロセス」はない・・

 それにしても、タイムアップの後に、フクアリの会見室でネットにアクセスして驚いた(会見ルームと記者控え室には無線LANが完備されている!)。何せ、降格リーグのライバルだったヴェルディとジュビロが、両チームとも、それもホームで敗北を喫してしまったんだからネ。驚き、ちょっと暗い気持ちにもなった。

 私は、ジェフの試合に、学習機会としての「ポジティブなドラマの臭い」を感じたからこそフクアリを選んだのですよ。もちろん、ポジティブなドラマは、「反力」としてのネガティブドラマがなければ成立しない。まあ仕方ないし、そんな上下リーグの入れ替わりというシリアスな現象が、プロサッカーの「本格感」を高揚させ、サッカーそのもののレベルとサッカー文化を引き上げるわけだからね。

 それにしても、ものすごくドラマチックな結末になった。だからミラー監督に質問してみた。「この結果は、単に、ドラマという表現では足りないように思う・・ミラー監督の経験をもとに、もっと違う(もっと本質的な!?)表現をしてくれないだろうか?」

 「エッ!?・・ドラマはドラマさ・・とにかく、そんなドラマチックな結果に至るまでには、レギュラーと考えられていた何人かの選手を入れ替えたり、例えばカボレの止め方など、詳細な相手選手の分析に基づいた効果的ゲーム戦術を練るといった様々な作業の積み重ねがあった・・」などなど、長々としたマネージメントのハナシになってしまった。

 それでも最後には、私に対して、「アンタの質問に対する十分な答えにはならなかったかもしれないけれど、そんな様々な仕事が、このドラマチックな結末の背景にあったんだよ・・」と語っていた。

 また別のジャーナリストの質問に対して(来シーズンのプランについて・・)「こんな、10年は寿命が縮まる思いをした後だから、そのコトはゆっくりと考えるよ・・」と言っていた。そうそう、オレの質問に対する答えとしても「10年も寿命が縮まるようなドラマ」っちゅう表現がいいね。

 とにかく、ジェフ選手が前面に押し出しつづけた強烈な意志が、「残留という果実」を熟成させたことは(幸運を呼び込んだことは)確かな事実だったと「アンロジカル」に思っている筆者なのでした。

 それにしても、こんなに興奮させられたのは久しぶり。やっぱり、イレギュラーするボールを足で扱うサッカーほどドラマチックなスポーツは他にない(限りなく自由であるからこそのエキサイティングドラマ!?)。

 最後に・・連覇を果たしたアントラーズとオズワルド・オリヴェイラ監督に対して心からの祝福を・・。本当におめでとうございました。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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