湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2008年10月27日、月曜日)

 

三試合のポイントをピックアップしました・・(GRvsJU, FCTvsA, ALvsR)

 

レビュー
 
 どうもこの頃、ゲームを観戦した後に所用が重なるというケースが多く、ジックリと落ち着いてコラムを仕上げることが叶わないでいます。まあ、とはいっても、鉄は熱いうちに打て・・と、ポイントを絞り込んで素早くコラムを仕上げるのが常だけれどネ。

 ということで、今節も所用が重なってしまったから、ここではテレビ観戦も含め、二試合のポイントだけを簡単にまとめることにしました。まず最初は、10月25日の土曜日に行われたグランパス対ジュビロ。

 言うまでもなく、両チームにとってのサバイバルマッチ。一方は優勝争いでの生き残りを懸け、他方は「降格リーグ」での生き残りを模索する。

 これからの「J」は、「上」も「下」も勝ち点が混み合っていることで、ほとんど全てのゲームが「生き残りマッチ」ということになるから目が離せない。わたしも、自身の学習機会として、ポイントを絞り込んで観戦する(そして大いに楽しむ)つもりです。

 ところで、『サッカーは究極の心理ゲーム・・』というテーマ。だから、タテマエとは関係なく、やはり「状況」によって緊張感や集中力が違ってきてしまう。

 もちろん、目標が明確な「これからのJリーグ戦」では、誰もが(状況に駆り立てられるように!?)最高の緊張感をもって試合に臨むでしょうが、シーズンの中盤戦などでは「まったり」とした雰囲気になってしまうことも多い。そんな心理環境のなかで最高の緊張感をかもし出すのは、「心理マネージャー」である監督にとっても、そう簡単なことじゃない。だから監督は、様々な刺激(手練手管!?)を駆使し、メリハリのない「ルーチンマッチ」を「極限の勝負マッチ」へと昇華させようと(様々な目的イメージを演出しようと)工夫を凝らすわけです。

 そんな「工夫のコンテンツ」こそが、それぞれのプロコーチにとっての「企業秘密」。人は、それを経験と呼ぶわけだけれど、もちろんそれには、優れたパーソナリティーとか優れた「指先のフィーリング」なんて表現される心理マネージメント要素も内包されるわけです。私の学習プロセスも「そこ」に集中することは言うまでもありません。

 あっと・・またまた「前段」が長くなってしまった。さてグランパス対ジュビロ。

 全体的には、ホームのグランパスがゲームを支配しつづけ、チャンスの量と質でも凌駕した。それでも勝ち切ることはできなかった。ここは、ジュビロ守備の集中力(サバイバル・モティベーション!?)に拍手するしかありません。

 とにかく、極限の最終勝負シーンでのジュビロ選手たちの主体的な「実行力」がすばらしかったのですよ。誰もが、決して足を止めず「まずオレが危ないスポットへ行く!」という意識を前面に押し出していた。グランパスのシュート場面では、何人ものジュビロ選手がコースに身体を投げ出すというシーンのオンパレードだったのですよ。それはそれで見所満載でした。

 グランパスの「攻撃イメージ」だけれど、例によって、サイドゾーンからの仕掛けを「より強く」意識する選手を二人配置していました。サイドバックとサイドハーフのコンビ。右サイドでは、竹内彬と杉本恵太、左サイドでは、阿部翔平と小川佳純。とにかくグランパスの場合は「サイドから仕掛けていくプロセスイメージ」を全員がシェアしているから、サイド攻撃が殊の外うまく機能するのですよ。そう、サッカーは、有機的な(イメージ)プレー連鎖の集合体・・

 そしてグランパスは、何度か、サイドからの仕掛けから(アーリークロスも含む)チャンスを作り出した。特に後半のヨンセンのフリーヘディングシーンは決定的でした。それでも決めることが出来なかった。

 対するジュビロだけれど、決して守ってばかりというわけじゃなかったですよ。後半には、カウンターの流れから、駒野友一がつづけざまにチャンスを作り出した。一つは自身がシュートまでいき、もう一つは決定的なアシストを送り込んだ。両方とも、ゴールになってもおかしくないというチャンスだったわけだけれど、シュートの数ではグランパスに凌駕されてしまったジュビロだったけれど(14本対6本)実質的な勝負シーンの「質」では意外とグランパスに肉薄していたのかもしれない。

 「0対0」の引き分けに終わったけれど、グランパスが展開した「イメージが統一された」実効あるサイド攻撃や、ジュビロが展開した「リスクを冒さず守備を固め、チャンスとなったら後ろ髪を引かれることなく蜂の一刺しカウンターを仕掛けていく」という徹底プレーなど、サッカーの内容では、非常に興味深いゲームではありました。

 ところで「サイドでのせめぎ合い」。今シーズン最高のエキサイティングマッチといっても過言ではなかった「FC東京vsアントラーズ」戦でも、そのテーマがクローズアップされました。

 結局は「徹底度」というポイントでFC東京に軍配が上がることになったわけですが、私も、最初から「サイドでのせめぎ合い」というテーマで観戦していたから、非常に面白かったですよ。

 FC東京の城福監督は、「二連敗という、目標を失いかけるような状況から、サポーターの強いバックアップもあって、しっかりと立ち直ることが出来た・・チーム一丸となってアントラーズと対等に闘うという強い意志をもってゲームに臨んだ・・アントラーズは、両サイドバックの攻撃が強力な武器になっている・・その両サイドでのせめぎ合いを有利に展開するところに勝機があると考えていた・・」と言っていた。

 また、「ただ、サイドでのせめぎ合いを有利に展開するためには、相手をセンターゾーンへ絞らせる必要がある・・(我々のサイド攻撃がうまく機能したのは)梶山、今野が繋いで、羽生もしっかり絡んだ中で、相手を(センターゾーンへ)絞らせ、タイミングよくサイドへ展開できたからだと思う・・満足はしていないが、比較的その部分はうまく機能したと思っている・・」といったニュアンスの発言もしていた。フムフム・・

 FC東京が描いていたゲーム戦術イメージは、こんな感じだったですかね・・。

 ワントップに平山相太を置き、右サイドに石川直宏、左サイドにカボレを配置するというスリートップ気味のポジショニングバランス・・要は、右サイドバックの徳永悠平と左サイドバックの長友佑都との「タテのコンビ」を組むことで、サイドを意識する選手を「二組」配置するということ(グランパスと同じ発想)で試合に臨むことで、アントラーズの強力なサイド攻撃を封じてしまおうというイメージ・・攻撃は最大の防御なり・・また、今野泰幸、梶山陽平、羽生直剛の三人は「トリプル守備的ハーフ」というタスク(戦術的な役割)イメージでプレーすることで、サイドでの「タテのポジションチェンジ」を強力にバックアップする・・

 この試合でのFC東京では、そんなプレーイメージが本当に「徹底」していました。そう、アントラーズ以上にネ。

 対するアントラーズだけど、興梠慎三、マルキーニョス、ダニーロ、そして本山雅志が「自由」に、そして縦横にポジションを入れ替えながら、守備的ハーフコンビの青木剛と中後雅喜のバックアップに支えられ、変化に富んだ攻撃を展開する。この6人は、守備でも、縦横無尽のダイナミックな動きのなかで、素晴らしく積極的な組織ディフェンス(ボール奪取勝負)を魅せつづけていた。まさにそれは、1974年ドイツワールドカップでオランダ代表が展開した「ボール狩り」そのものだった。

 その「ボール狩り」の勢いはすさまじく、ゲームが立ち上がった最初の15分間は、FC東京を完全に押し込んでいましたよ。でも、普段だったらポジティブに機能しつづけるアントラーズのダイナミックな組織サッカーが、この日はちょっと違っていた。徐々にFC東京が盛り返し、逆にペースを握られてしまったのですよ。

 アントラーズの「自由さ」が、逆に災いしてしまった!? 私の目には、自由なポジションチェンジによって、サイドバックに対する「攻守にわたる安定したサポート」が上手く機能しなくなっていったと映りました。要は、何度も、アントラーズのサイドバック(内田篤人と新井場透)が、攻守にわたって(前述した)FC東京の「徹底したサイド・コンビ」によって劣勢に立たされていたということです。

 アントラーズが展開するクリエイティブなポジションチェンジ。「ポジション無しのサッカーが理想型・・」と言ってはばからない筆者にとっては、本当に魅力的なサッカーなのですが、この試合に限っては、その「自由さ」が、うまく噛み合わなかったということなのかもしれません。だから、内田篤人と新井場透のサイドバックが孤立し、FC東京のサイド・コンビと不利なカタチで対峙するハメに陥った!? フムフム・・

 もちろん「それだけ」が勝因じゃないけれど、とにかくこの試合でのFC東京は、チームに深く浸透した高い守備意識をベースに、全員守備、全員攻撃というトータルフットボールを志向する素晴らしいサッカーを魅せつづけていましたよ。城福監督は良い仕事をしている。

 さてこれで、降格リーグだけじゃなく、優勝戦線も風雲急を告げてきた。アルビレックス対レッズ戦については、明日ビデオを観てから、簡単に印象を「書き足す」ことにします。

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 さて、ということでアルビレックス対レッズ。

 まずテレビ映像について、ちょっとだけ。実は、このゲームは、NHKのBS1で録画するつもりだったのです。でも、MLBのワールドシリーズが長引いたことで、前半しか録画できませんでした(もちろん予約だったからですよ!)。仕方なく、深夜に別のチャンネルで流された放送を録画した。そして、その映像コンテンツの違いに驚かされた。

 要は、様々な分析ができる可能性を内包したNHKの「引きの映像」と、別チャンネルの「中途半端な寄りの映像作り」の違いに愕然としたのですよ。別チャンネルの「それ」は、完全に、観る方の「選択肢を奪う」ものだったのです。

 最近では、「少しは良くなってきたのかな・・」なんて思っていたから、この試合の映像を観ながら、「この映像を作っているディレクターは一体何を考えているんだ!」と、その哲学のない映像コンテンツに嫌悪感さえ感じてしまった。サッカーの醍醐味は、ボールがないところでのせめぎ合いにあるのに。フラストレーションが溜まるけれど、まあ、仕方ない・・

 ということで、試合。FC東京とアントラーズによるエキサイティングな仕掛け合いのイメージが強烈に残っていたから、どうも気持ちが盛り上がらない。そのこともあって、申し訳ありませんが、ここでは、レッズについてのみ簡単にポイントをピックアップするだけにします。

 しっかりと組織的にゲームを作りながら、個の勝負を織り交ぜようとするレッズだけれど、ホームのアルビレックスが展開する忠実でダイナミックなプレッシング守備に、うまく相手ディフェンスブロックを攻略する(守備ブロックのウラスペースを突いていく)ことが出来ない。

 もちろんそれは、仕掛けの流れに乗ってくる人数や(後方からのサポート)ボールがないところでの動きの量と質が足りないからに他ならない。たしかに守備的ハーフコンビの細貝萌と阿部勇樹、また両サイドバックも(そしてもちろんトゥーリオも)タイミングよく最終勝負に絡んでくるシーンは見受けられるけれど、相手守備ブロックを振り回せるだけの「有機的なプレー連鎖」を演出するには、やはり後方からのサポートの絶対量が(そしてボールがないところでのアクションの量と質が!)まだまだ十分ではないと感じるのですよ。

 後方から組織的な組み立てプロセスに絡んでくる人数と、そこでのボール無しのプレーコンテンツが充実していれば、必ず相手守備ブロックのバランスを崩せるはずだし、レッズには、それを実行していくだけのチカラは備わっているはずだからね。そう、意志のパワーがまだまだ足りない・・

 とはいっても、意志のパワーが「十分ではない」だけであって、一時期の、誰も『主体的に』リスクへ積極チャレンジしようとしない「アリバイ・マインド」というネガティブな心理状態に陥っているわけではありません。

 選手も、「やらなければ」結局のそのしっぺ返し(タイトルやサポーターからの信頼を失うだけではなく、来シーズンへのモティベーションリソースも積み上げられない等々)は自分に戻ってくるという「メカニズム」をよく分かっているんでしょうね。

 「周り」は関係ない・・最後は、自分との闘いになる・・とにかく(取り敢えず)主体的なリスクチャレンジや(攻守にわたる)ボール無しの汗かきアクションも含め、全力でプレーしつづけるのだ・・それこそが「自己主張」の絶対的バックボーン・・誰もが不満を抱えているわけだけれど、それを「具体的に口にする」ことが「先行」するのでは、まさに子供じみた姿勢だ・・まず「全力プレー」ありき・・そして、そこから湧き出してくる「自信」をバックボーンに誠実にディベートする・・それこそが真のプロの態度なのだ・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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