湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2008年8月17日、日曜日)

 

ものすごく魅力的な仕掛け合いになった・・ということで両チームの攻撃ニュアンスをちょっと探ってみよう・・(フロンターレvsジュビロ、2-2)

 

レビュー
 
 素晴らしくエキサイティングな「攻め合い」になりました。フロンターレ対ジュビロ。

 攻め合いとはいっても、全体的に押し気味だったのはフロンターレ。そのことは、フロンターレが二倍以上のシュート数を放っていることからも分かります。

 もちろんシュート数が内包する意味合いは微妙だけれど、この試合では、最終勝負とシュートチャレンジへの吹っ切れた意志が両チーム互角だったから、シュート数は、かなり正確に「ゲーム支配の傾向」を表現していると思います。

 ということでゲームのイニシアチブを握ったフロンターレ。それは、それは魅力的な攻撃を繰り出していきました。スマートでスピーディーな組織プレーのプロセスに、中村憲剛、ジュニーニョ、チョン・テセ、ヴィトール・ジュニオール、そして交替出場した大橋正博やレナチーニョといった個の才能が、状況に合わせ、タイミングよく個人勝負をミックスしていくのですよ。

 「組織」と「個」が高い次元でバランスした攻撃・・。まあ、そんな表現も当てはまるだろうけれど、フロンターレの場合、その「バランス」のニュアンスが、より「個」に偏る傾向にあるのも確かなことです。

 まるでブルドーザーのようにパワフルなチョン・テセ・・超速ドリブルで相手を震え上がらせるジュニーニョ・・軽業師然と、軽快な「牛若丸プレー」を魅せつける中村憲剛・・などなど。そんな個の才能を備えたフロンターレの攻撃は、たしかに魅力にあふれているし、彼らの仕掛けが、より「個」に偏るのも当然の成り行きなんだろう。やはりサッカーの魅力は「個の才能」に因るところ「も」大きいということなんだろうね。

 とはいっても、最後のシュートまで「組織」で持っていってしまうような仕掛けも、それは、それでとても魅力的。そう、人とボールを素早く、広く動かすことで相手守備ブロックを振り回し、相手ディフェンダーとの身体的な「接触」がまったく無い状態で、ダイレクトのキャノンシュートや豪快なヘディングシュートを決めちゃうような仕掛けのことです。

 もちろん「組織的な仕掛け」でも、局面では個のスキルを駆使していることは論をまたない。逆に、個人勝負プレーを前面に押し出してシュートまで行くようなプロセスでも、同じコトが言える。個人プレーで最終勝負を仕掛けていくまでの、相手ディフェンスの薄い部分にボールを運ぶというプロセスでは、人とボールが動きつづける組織パスプレーが重要なポイントになるからね。

 ということで、「組織だ!」「個だ!」と、仕掛けプロセスを明確に分類するなんてことは出来ないというのが結論なんだけれど、それでも「仕掛けプロセスのニュアンス」として、「個に偏っている」のか「組織に偏っている」のかの『傾向値』は出てくるということです。

 ということで、この試合では、「個のニュアンス」の方が強めのフロンターレに対し、ジュビロの攻めでは、どちらかといったら「組織ニュアンス」の方が仕掛けイメージの基調になっているという見方が出来るわけです。

 そのジュビロの攻撃だけれど、シュート数の比較では、たしかにフロンターレに圧倒されたけれど、実質的な「シュートシーンの危険度」では、決して劣っていたというワケじゃありませんでした。いや、「ホンモノのチャンスの量と質」という意味合いでは、まさに互角だったとするのがフェアな評価だと思うのです。

 そのジュビロの攻めだけれど、前半から、カレン・ロバートが、オリンピックの鬱憤(ウップン)を晴らすかのように、ガンガンと勝負ドリブルを仕掛けていった。また前田遼一も、前が空いたら迷わずにドリブルで突進していった。私は、そんなジュビロツートップの積極的な「個」の仕掛け姿勢によってフロンターレ守備ブロックの「意識のバランス」が乱され、結果としてサイドゾーンでの仕掛けチャンスが広がっていったと感じていました。

 とにかくジュビロのサイド攻撃は、危険そのものでしたよ。前半7分に前田遼一が放った惜しいヘディングシュートにはじまり、その6分後には、村井慎二からのクロスを前田遼一がキチッと先制ゴールを決めた。それだけではなく、フロンターレに押し込まれながらも、カウンター気味に攻め返すシーンでは、(勇気をもって)人数を掛けてサイドから仕掛けていくジュビロだったのです。

 右サイドの駒野友一、左サイドの村井慎二(後半12分からは犬塚友輔)が、ワンツーと勝負ドリブルを駆使してゴールライン付近まで持ち込んで「マイナスのクロス」を送り込む。それだけではなく、ペナルティーエリアの角ゾーンよりも後方から、カーブを掛けたクロスを、正確に、ファーポストスペースへ送り込んだりするのです。

 そんなクロス攻撃が、何度ビッグチャンスにつながったことか。ジュビロは、チャンスに勇気をもって人数を掛けることと、サイドからの、早めのタイミングのアーリー・カーブクロス(!?)という仕掛けイメージを、チーム全体が深く「共有」していると感じます。内山篤監督のウデを感じます。

 ジュビロの仕掛けの「危険度」が確率的に高かったことについては(少ないシュートでも実効ある決定機は互角だった!?)、もちろんケースバイケースだけれど、ある意味で、仕掛けのターゲット(最終勝負へのもっていき方)に対する、チーム内の「意志(イメージ)の統一レベル」ほど重要なテーマはないということを再認識できたなんて感じていた筆者でした。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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