湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第20節(2008年8月9日、土曜日)

 

バランスが崩れた個の才能というテーマも含め、なかなか興味深い勝負マッチだった・・(レッズ対レイソル、2-2)

 

レビュー
 
 「とにかく、フランサの考えるプレーをチームメイトがしっかりと感じていないという問題点がある・・フランサは、周りを使いながら自分も活きるというタイプの選手・・もっと『フランサを感じられるような!』トレーニングを(辛抱強く)つづけていくしかない・・一番いいのは、フランサを理解する良き相棒を入れることなんだろうが・・とはいっても、レイソルにはレイソルのサッカーがある・・フランサの素晴らしい能力をチームにうまく組み込んでいくのが私の仕事だ・・」

 サスガに石崎監督。インテリジェンスあふれる素晴らしい答えを聞かせてくれましたよ。『フランサ』を感じるトレーニングね〜〜

 それは、私のこんな質問に対する回答でした。「レイソルには素晴らしい能力を備えた選手がいる・・ただその選手が全力で闘っているとは思えない・・石崎監督は、彼が出来ることと『やらないこと』を天秤に掛けているのだと思う・・フットボールネーションのトップクラブだったら、すぐにでもライバルを買ってきちゃうんでしょうが、レイソルじゃ、そんなことはできない相談でしょうからね・・そんな才能を、どのように良い方向へマネージしていけるのだろうか?・・あっと、もちろんフランサのことですよ・・」

 それに対して石崎監督が、冒頭のような創造性あふれる反応を魅せてくれた。そして発言の最後には、「とはいっても、皆さん見られたとおり、あのゴール以外、まったく仕事はしていませんでしたがネ・・」と我々を笑わせてくれるのですよ。

 いいね・・。まさにファイン・パーソナリティーじゃありませんか。この試合でも、その石崎監督の手腕が光り輝きます。特に「全力で闘う姿勢」も含め、前半のレイソルの出来は素晴らしかった。

 相手ボールホルダーへの全力の「寄せ」や「チェイス&チェック」・・そんな汗かき仕事をベースに、協力プレスからどんどんとボールを奪い返してしまう・・そしてそこから、クリエイティブなムダ走りを積み重ねることで、スムーズでリスクチャレンジあふれる危険な攻撃を仕掛けていく・・とにかく、攻守にわたるボールがないところでのアクションの量と質でレッズを凌駕するレイソルなのです・・「それぞれの意志が連鎖爆発」しつづけるレイソル・・フムフム、素晴らしい。

 とはいっても、やっぱり「最終勝負のアイデア」という視点じゃ、かなり物足りないことも確かな事実。だからこそ「フランサ感覚」が必要なんだろうね。

 さて、レッズ。

 エンゲルス監督は、「ついに」エジミウソンを先発から外すという「英断」を下したナ、よしよし・・。メンバー表を見ながら、ちょっとワクワクしたモノです。

 高原直泰のプレー姿勢も好転しているし、田中達也も順調に発展していると聞いている・・また「二列目の自由人」としての権利を与えられた永井雄一郎も(強力なライバルが多いことで)意識高くプレーするに違いない・・これで、自然と、前戦での攻守にわたるダイナミズムもアップしていくに違いない・・

 でも、そんな期待も肩透かし・・。結局、田中達也のケガが十分に回復しなかったということで、ゲーム直前になってエジミウソンを先発させることでメンバーが変更になったのですよ。そしてエジミウソンは、例によって、チンタラプレーと部分的な『彼にしか出来ない』素晴らしい仕掛けプレーの混在ってな具合。フ〜〜

 これまでエンゲルス監督は、エジミウソンが出来ることと「やらないこと」を天秤に掛けたうえで使いつづけていたんでしょうね。私も、彼のストライカーとしての高い能力を買っているから、まだまだ我慢・・と思っていた。とはいっても、たしかにこのところ「チンタラ」が鼻につくようになっていたことも確かな事実だった。だからこそ、この試合の先発メンバー表を見て、期待に胸がふくらんだわけです。でも結局は・・

 立ち上がりは良いペースではあったけれど、徐々に、石崎監督率いるレイソルのダイナミックな協力プレス守備が存在感を高めていくのです。うまく効果的な仕掛けを繰り出していけないレッズ。それに対して、難しいことをしようとするのではなく、あくまでもシンプルにボールを動かすなかで、危険なミドルシュートやクロスへの飛び込みなどを駆使して挑んでくるレイソル。

 前半は、完全にレイソルがペースを握るという展開になっていきました。そしてレイソルが、順当な先制ゴールを叩き込む。ただその後はレッズも盛り返し、阿部勇樹が同点ミドル『キャノン』シュートを叩き込む。

 そして後半は、レッズがゲームの流れの主導権を握るという展開になっていくのです。それでも「最後のところ」でレイソル守備ブロックを崩し切れない。サイドからのクロス攻撃にしても、中央からのコンビネーションにしても、なかなかうまく噛み合わないのです。それも、レイソル守備が、ボールがないところも含めて素晴らしく忠実なディフェンスを展開しているからに他ならない。ボールを持ったレッズ選手が、フリーで決定的スペースに顔を出すなんていうシーンは、まさに皆無なのです。

 こうなったら、もうトゥーリオのセットプレー勝負に期待するしかないのかな・・なんて思いはじめたロスタイムのことでした。まさに唐突に「コト」が起きたのです。

 ワンツーで抜け出そうとした永井雄一郎のボールを上手く奪ったレイソルの石井直樹だったけれど、永井雄一郎は、諦めずに身体を寄せ、チョンとつつくことでボールを奪い返してしまったのですよ。そして、アッという間に、レイソルGKと一対一。ここで永井雄一郎が魅せてシュートが秀逸でした。飛び込んでくるレイソルGK菅野孝憲の身体を「フワッ」と越えるシュートを放ったのですよ。まさに、見事なゴールへのパスではありました。

 ただし、誰もがレッズの勝利を信じて疑わなかった最後の瞬間に、またまた唐突にコトが起きてしまうのです。タテ一本のパスを胸でトラップして振り向いた「天才」フランサが、そのまま右足ボレーでシュートを放ったのです。それがレッズゴールの右ポストに当たり、逆の左側のサイドネットに吸い込まれたという次第。あ〜〜、ビックリした。

 まあ順当な結果だと思いますよ。両チームともに一点ずつ多かったけれどネ。

 最後に、トゥーリオと阿部勇樹について短く。

 特にトゥーリオが良かった。どんどん、新しい「前気味リベロ」のプレーイメージを拡大させつつあると感じます。(ドイツ伝説の)フランツ・ベッケンバウアーやマティアス・ザマーに代表される、攻守にわたって広範囲をカバーするモダンフットボールのクリエイティブな(前気味)リベロというイメージ。もちろんそれも、阿部勇樹と鈴木啓太のバックアップがあればこそ・・だけれどネ。

 最終守備ラインを統率するだけではなく、攻撃でも、スッ、スッと、相手守備にとって「見慣れない顔」として最前線ゾーンへ押し上げていくのです(まあトゥーリオのことだから、どんな選手にとっても見慣れない顔のワケがないけれどネ・・あははっ・・)。

 また自分が(最終ラインから前へ飛び出して)ボールを奪い返した状況では、そのまま、勝負コンビネーションのコアとして飛び出していったり、チャンスメイカーとして仕掛けの流れを演出しちゃったりする。たしかに後半最後の勝負所では体力の限界ということで「上下動」がなくなってしまったけれど、トゥーリオのプレーイメージがドンドン拡大していることだけは確かな事実だと思いますよ。まあ、楽しみだ。

 ただ、鈴木啓太と守備的ハーフのコンビを組んだ阿部勇樹については、まだまだ「出来る」という印象の方が強かった。特に守備での(前戦からの)チェイス&チェック。相手のレイソルが素晴らし過ぎたこともあって、そう感じたのかもしれないけれど、彼ほどの能力があるのだから、もっともっと、中盤守備でのイニシアチブを取らなければいけないと思うのです。「オイッ、エジ!! もっと真面目にボールを追えよ・・」とかネ。

 とにかく、もっと動きのあるサッカーを標榜するレッズでは、守備的ハーフの一角が、常に攻撃の流れにも効果的に絡みつづけることが大前提だからね。そう、長谷部誠の機能性・・。

 ところで、先日の(ドイツ・ヴィースバーデンで行われた)ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟が主催した国際会議。そこに、長谷部誠が所属するヴォルフスブルクの監督(元バイエルン・ミュンヘン監督の)フェリックス・マガートも出席していました。ということで早速、レクチャーの合間に立ち話をしました。国際会議については「このコラム」を参照してください。

 「どうだい、長谷部は?」「ハセベは本当に良い選手だぜ・・」「上手いタイプの選手なのに、汗かきもしっかりやるだろ?」「そうそう・・ヤツのお陰でチームは本当に助かっているよ」「そうか・・でも、長谷部を失った浦和レッズというチームは、ちょっと苦しんでいるんだよ・・」「そりゃ、そうだろう・・でも、ハセベがヨーロッパで経験を積めば、必ずそれは日本にフィードバックされていくからな・・」「そう・・まさにそれが、おれ達コーチが期待していることなんだよ」

=============

 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]