湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2008年3月9日、日曜日)

 

魅力あふれるフロンターレのスリートップ・・でもまだ「組織」という課題が山積み・・(フロンターレ対ヴェルディ、1-1)

 

レビュー
 
 「ピンチはあったけれど、コースはしっかりと抑えられていた・・相手にもしっかりと寄せていたから(身体を寄せることで相手の動作を抑制できていたから)、完全にフリーでシュートさせたわけではない・・」

 「先ほど監督は、フロンターレの強力スリートップを最後まで抑え切れたことが、この引き分けの最も大きな要因だったと言われたが、その言葉に反して、後半には、そのスリートップによって少なくとも四度は決定的ピンチに陥った・・それでも、フロンターレのスリートップを抑え切れたという表現でいいのか?」という私の質問に対して、柱谷監督が、冒頭のように胸を張って明快に答えていました。確信という心理バックボーンをピリピリと感じさせる立派な受け答えだったと思います。なかなか「骨」のあるパーソナリティーだね・・。

 ということで、この試合でのテーマは、何といっても、フロンターレの強力スリートップということになるでしょう。

 彼ら(ジュニーニョ、フッキ、そしてチョン・テセ)は、ポジショニング的に具体的なタスクを与えられていたわけではないようです。誰でも、その時々の状況に応じ、サイドハーフになったりセンターへ入ったり。たしかに試合では、この三人が「横方向」へ、頻繁にポジションチェンジしていた。そして両サイドゾーンを、森勇介と山岸智がオーバーラップしていくというイメージ。でも・・

 「もちろん我々は、組織的な仕掛けも具体的にイメージしている・・ただこの試合では、中村憲剛のパス展開がうまく機能しなかった・・そこが、これからの課題だと思う・・繰り返すが、我々は、組織プレーを(も!?)基盤にして仕掛けていくことを標榜している・・」

 フロンターレ関塚監督の弁です。ただ、その言葉とは裏腹に、このゲームでのスリートップは、個人勝負を前面に押し出し「過ぎて」いた。そこには、後方からのサポートの動きを入れた複合的コンビネーションが機能するような雰囲気が薄かったことは否めない事実だったと思うのですよ。

 たしかに、スリートップの「内輪」では、ワンツー・コンビネーションや、タテパスからの(ポストプレー)からの落としをシュートというシーンなど何度もあった。また、スリートップの一人が、ドリブルでサイドを攻略して決定的クロス(グラウンダーのトラバース・クロスなど)を送り込む・・なんていう決定的シーンも作り出した。

 それでも、まだまだ「個のニュアンス」が強調されすぎているというのは事実です。関塚監督も、もちろん「そのこと」をしっかりと意識しているはず。それが、前述の答弁になったということです。そうでなければ、対戦相手のディフェンスにとっては(この日のヴェルディのように!?)やることが明確で、逆にやりやすいということなってしまう。

 スリートップをコアに、そこに、両サイドや後方からのサポートが絡むコンビネーション。それを機能させるには、もちろん、スリートップと守備的ハーフコンビ(中村憲剛と谷口博之)による、縦横無尽のポジションチェンジが出てこなければいけません。

 チョン・テセが、ガンと下がってタテパスを受け、そこで空いた前戦のスペースへ中村憲剛が飛び出していく・・そしてチョン・テセからの(リターンの)タテパスを受け、ジュニーニョとフッキをうまく使って最終勝負コンビネーションを仕掛けていく・・そのチョン・テセの役割を、ジュニーニョやフッキがやってもいい・・

 そんな「縦横無尽のポジションチェンジ」が出るようになって初めて、強力スリートップが、本当の意味で怖い存在になるのですよ。そのための大前提は、もちろんスリートップの「優れた守備意識」。それがなければ、決して組織プレーは機能しない。

 仕掛けていく途中で相手にボールを奪われた・・そこで、そのボールを失ったミスとは全く関係なかったフッキが、爆発的な「攻守の切り替え」から、全力ダッシュで、オーバーラップする相手選手を追いかけていく(危急状況での苦しいマーキング・・この試合では何度か、フッキが最前線から、フリーランニングする相手を追いかけるシーンがあった!)・・また同じように、ジュニーニョも、味方の守備ブロックを追い越すくらいの勢いで、ボールがないところで全力オーバーラップを魅せる相手選手を、最後の最後までマークしつづける・・

 そんな「本物の守備意識」という絶対的ベースさえあれば、まったく心配ない。自然に、組織プレーと個人勝負プレーが高みでバランスするようになっていくに違いありません。ただ逆に、最前線からの守備姿勢が「お座なり」だった場合(スリートップの能力が高いからこそ!?)問題は極大化していくだろうけれどネ。例によって、「才能という諸刃の剣」というテーマ・・。

 私は、関塚監督のウデを信じています。近いうちに、スリートップと中村憲剛、そして谷口博之と両サイドバックのどちらかが「入り乱れるようにポジションチェンジ」を繰り返すなかで(谷口博之と両サイドバックの自由度は、その基本タスクの性格上、ある程度は制限される!)爆発的な仕掛けコンビネーションが繰り出されていくような、鳥肌が立つ攻撃サッカーを魅せてくるはずです。

 とにかくフロンターレの「課題」は明確だし、そのテーマでチームの発展プロセスを「追いかける」だけでも入場料にお釣りが来るっちゅうもんじゃありませんか。その意味じゃ、フロンターレのファンの方々は恵まれていますよ。

 さて、2008年シーズン。実力チームのなかでは、唯一、アントラーズが手堅く「勝ち点3」をゲットしました(こう書いたら、トリニータとマリノスファンの方々からブーイングされるのは承知・・)。

 オリヴェイラ監督が、昨シーズンから忍耐強く作り上げた質実剛健アントラーズ。その手堅い戦術コンセプトには少しのブレもありません。ゼロックスや開幕戦で魅せたキッチリとまとまったサッカー内容にも、勝負強さという視点で素晴らしいものがあった。

 レッズ、フロンターレ、ガンバ・・。選手個々の能力が、チーム総合力へと相乗的にまとまる(収斂していく)までには、まだまだ紆余曲折がありそうです。ということは、ダントツの安定感を魅せつづけているアントラーズが、リーグ序盤からガンガンとリードを広げてしまう可能性だってある!?

 そりゃ・・良くないよ。オリヴェイラ監督には、ちょっとリラックスして、チームの次の(戦術的)発展ステージをイメージした「創造的チャレンジ」にもトライしてもらいましょうよ。えっ!?・・あのオリヴェイラ監督が、そんな「遊び」に興じるはずがないって!? そうか〜〜・・それじゃ、とにかく周りが頑張るしかないよな〜・・。

 とにかく今は、リーグを盛り上げるためにも、全チームが「対アントラーズ」を意識すべきだと思っている筆者なのです。ホントに、このままじゃ、詰まらないシーズン展開になっちゃうかもしれないよ。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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