湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第16節(2008年7月13日、日曜日)

 

意志という課題(トリニータ対レッズ、2-0)・・強い、強い!(アントラーズ対FC東京、4-1)

 

レビュー
 
 またまたフラストレーションがたまる・・一体、何を考えているんだろう・・もっと引いた映像アングルにしなければ、ボール周りのプレーをブツ切りでつなげるような中途半端なテレビ中継になってしまうじゃないか・・

 トリニータ対レッズ戦のテレビ中継のことです。こちらは「ボールがないところでのドラマ」まで観察したいのに、カメラアングルがボール周辺に寄りすぎなのです(それでも、少しは良くなる傾向にあるのかな・・??)。

 ボールに絡む選手の名前はアナウンサーが「追って」いけばいいんですよ。テレビ画面で顔なんて確認できないしね(デジタルだと出来るの??)。とにかく「寄りと引きのカメラワーク」が中途半端に過ぎる。先日スイスとオーストリアで行われたヨーロッパ選手権でのカメラワークなんて、まったく参考にしていないんだろうね。フ〜〜

 そんなだから、テレビ中継をレポートするのは限られた放送局の(限られたカメラマンとディレクターによる!?)映像だけという方針だったけれど、まあこの試合だけは、ポイントだけはピックアップしておこうとキーボードに向かった次第。フ〜〜

 大分トリニータは、順当に勝ち点3をゲットしたと思います。彼らは、明らかにレッズよりも多く走り、闘った。守備においても、攻撃においても。だから、順当。

 たしかに、個のチカラを単純総計したチカラという考え方ではレッズの方が(少しは)上かもしれないけれど、それにしても、攻守にわたって、個のチカラが「組織」としてうまく機能しないのでは優れたチーム総合力につながるわけがない。

 特に攻撃での「個人勝負プレーの突出」は、ちょっと目に余った。要は、組織的な仕掛けが少なすぎたということだけれど、もちろんそれは、攻撃に絡んでくる人数が「足りない」ことが原因です。

 いや、ある程度の人数はいるけれど、その彼らが、ボールがないところでの「スペース狙いプレー」を忠実にやっていないという表現の方が正確かもしれない。要は、三人目、四人目のパスレシーブの動きが連動していないということです。だから、個人勝負(要は、ゴリ押しの単独ドリブル勝負)ばかりが目立ち過ぎてしまうということです。

 たしかに田中達也や永井雄一郎、はたまた、後半から入った梅崎司にしても、しっかりと動こうとはしているけれど、いかんせん、肝心なところで足を止めてしまうといったシーンが多すぎる。またそこには、後方からのサポートが十分ではないという別の要因もある。

 例えば、後方のトゥーリオが、パスを受けようと最前線から戻ってくる田中達也の足許へタテパスを出すというシーン。そんな仕掛けのチャンスであるにもかかわらず、トゥーリオがタテパスを出す直前に(パスレシーバーの)田中達也へ向けてサポートの寄りを見せる選手がいないだけではなく、トゥーリオにしてもタテパスを出しただけで足を止めてしまう。また、パスを受けた達也から「遠いゾーン」で、タテに空いたスペースへ飛び出していこうとする後方からのオーバーラップもいない・・。

 あまりにも様子見(ボールウォッチャー)が多すぎるのですよ。もちろん、永井雄一郎にしても梅崎司にしても、はたまたエスクデロにしても、タテのスペースへ抜け出せば「必ず」パスが送られてくるという状況では、全力のフリーランニングを敢行しますよ。でも、「その次に狙うべきスペースはここだ!」といった、三人目、四人目の『クリエイティブなムダ走り』の量と質については明確な課題を抱えているのです。

 それでは、トリニータの守備ブロックを崩し切るところまでいけるはずがない(スペースを突いていけるはずがない!)。もちろん、トリニータ守備の戻りが素早いだけではなく、彼らのディフェンスがハイレベルに組織的&効果的という事実はあるにしてもですよ。

 前半の立ち上がりや、トリニータに先制ゴールを入れられてからの10数分間に魅せたダイナミックな攻撃が明確に示しているとおり、レッズは、組織的にトリニータ守備ブロックを振り回せるだけのチーム総合力を持ち合わせているはずだからね。そんな優れたサッカーが徐々に減退していったことは、自らの意志の「内容」を見つめ直すという意味合いも含め、重要な課題だと思うわけです。

 それにしてもトリニータは、中盤ダイナミズムの原動力であるホベルトとエジミウソンの守備的ハーフコンビを中心に、攻守にわたって素晴らしい連動性を魅せつづけた。強固な意志を絶対的な基盤にした、効果的な運動の量と質。優れたセルフモティベーション能力(自己動機付け能力)!? とにかく、イケメンのプロ監督シャムスカさんに拍手するしかない。本当に彼は、優れたプロコーチだと思いますよ。

 最後に・・。鈴木啓太の順調な回復ぶりを確認できたことは、この試合での数少ないポジティブポイントだったことを付け加えます。攻守にわたるアクションの量と質、そしてそのメリハリ。啓太は良くなっています。

 この試合については、こんなところです。所用が重なっているため、スタジアム観戦はできないけれど、「BS-1」で中継されるアントラーズ対FC東京戦はしっかりとレポートする(このコラムに追記する)つもりです。それでは・・

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 はいっ! ということで、アントラーズ対FC東京。

 まず何といっても優れたカメラワークから。とにかく「BS-1」の中継が(映像作りの発想が!?)段違いにハイレベルなのですよ。たしかに、カシマスタジアム特有の濃い霧のため、アングルを思い切り「引く」わけにはいかなくなったけれど(後半には、もう思いっきり寄るしかなかった!)それでもカメラマンの方は(ディレクター!?)明確に『次の勝負所』をイメージして映像を作っていると感じました。

 要は、次の勝負パスをイメージし、その勝負所で繰り広げられている、ボールがないところでの(攻守の)せめぎ合いまでも、しっかりと映像に捉えてくれているということです(捉えようとする意図を明確に感じる=カメラマンも、そのシーンを観たいと思っている!?)。ズームを引いたり、スッとカメラを振ったりして、次の勝負所を捉えつづけてくれるカメラワーク。心地よいことこの上ありません。ホントに。感謝!!

 ということでゲームだけれど、素晴らしくハイレベルな闘いになりました。

 両チームともに、忠実でクリエイティブな守備を絶対的なベースに、ボールを奪い返した次の瞬間には、組織プレーと個人勝負プレーを上手くバランスさせた高質な仕掛けを繰り出していくのです。とはいっても、やはり(優れた個の才能に恵まれている)アントラーズの(攻めの)危険度の方が上回っている・・。

 マルキーニョスと田代有三で組むツートップ。その後方のサイドには本山雅志と野沢拓也。小笠原満男と、最近になって大きく発展した青木剛で組む守備的ハーフコンビ。そして、内田篤人と新井場徹の両サイドバック。その8人が(まあイメージ的にだけれど・・)縦横無尽にポジションチェンジを繰り返しながら攻め上がっていくのですよ(たまには最終ラインの岩政大樹までもが流れのなかで上がっていくシーンさえあった!)。

 そんな「変化を演出するイメージ」をベースに、後方からどんどん選手が追い越していくアントラーズ。それでも、ポジションチェンジと決定的スペースの使い方(要は三人目、四人目の追い越しフリーランニングなど!)に関する明確なイメージが浸透しているから、次の守備で前後左右の(人数とポジショニングの)バランスの崩れることがない。フムフム・・

 ただFC東京も、そんな強いアントラーズに対して立派な闘いを展開した。たしかに「最終勝負の量と質」ではアントラーズに一日の長があるけれど、それでも徐々にペースアップした東京は、これまた「組織と個がうまくバランスした」攻めを展開するのです。

 カボレのワントップに、平山相太、羽生直剛、エメルソンが二列目トリオとしてポジションをチェンジしながらうまく絡みつづけるだけではなく、後方からは、梶山洋平と今野泰幸もどんどんと押し上げてくる。特に梶山陽平のゲームメイカー振りもまた反町ジャパンにとって頼もしいモノだったに違いありません。

 そこでは(ビックリすることに!?)平山相太が、素晴らしいチャンスメイカーぶりを発揮した。先日のレッズ戦でも、攻守にわたって(まあ守備についてはまだまだ・・)クオリティーの高いプレーを披露したけれど、この試合でのプレーコンテンツも、そんなポジティブな流れの延長線上にあると感じさせてくれました。

 中盤でしっかりと動き回りながら、後方からのパスターゲットになり、そこでしっかりとボールキープすることで、味方のサポートをモティベートする平山相太。

 もちろん、自由度の高いシャドーストライカーとして、パス&ムーブで間髪を入れずに全力ダッシュするとか、もっとゴール前に顔を出さなければならないなど課題は山積みだけれど(パス出しだけで『イメージが終わっている』シーンが多かったのはいただけない=自分の良いプレーに「酔って」いた!?)今までの効果レベルからすれば、まさに雲泥の差のプレーコンテンツであることも確かな事実でした。

 そんなFC東京が、後半になってどんどんベースアップし、先制ゴールまで叩き込んでしまうのです。これは・・と思っていたところで、アントラーズの勝負師、オズワルド・オリヴェイラ監督が、満を持して勝負に出たというわけです。

 ダニーロと興梠慎三を(野沢拓也と田代有三に代えて)投入したのだけれど、その直後に、この二人がマルキーニョスの同点ゴールを演出してしまうのですよ。勝負師オリヴェイラの面目躍如といったところではありました。

 そしてその後は、「勝ち点3という夢」を一度は手にしかけたことで、過度にモティベートされた(ゲームの流れを感じて自分たちのプレーをコントロールする冷静さを失った!?)FC東京がどんどんと攻め上がり、結局は、アントラーズの蜂の一刺しカウンターに(彼らの勝負強さに!!)撃沈されてしまうということになった次第。

 そのアントラーズの蜂の一刺しだけれど、同点ゴールシーンでも、二点目や三点目シーンでも、アントラーズの攻めでは、本当に個人のチカラが「組織的に」にうまく活用されていると感じていました。

 勝ち越しゴールシーンでは、小笠原からの素晴らしいサイドチェンジパスによって全くフリーになったマルキーニョスが、相手の必死のタックルを(遅れたタイミングで飛び込んだらマルキーニョスの思うつぼ!)ボールをフワッと浮かす「カット」で置き去りにして本山のスライディングゴールを演出し、三点目シーンでも、同じようなカタチで右サイドを突破したマルキーニョスが、興梠慎三の三点目を演出してしまうのですよ。

 しっかりと組織的にボールを動かしつづけ、相手ディフェンスの「薄いゾーン」にボールを運んで「個の才能」が勝負を仕掛けていく・・。その「薄いゾーン」で、アントラーズの個の才能を代表するマルキーニョスがフリーでボールを持つシーンを演出してしまうという現象こそが、アントラーズの勝負強さの本質を示していたりして。要は、チーム全体が、個の才能に『なるべく効果的に』勝負させるシーンをイメージして組織的に機能しつづけているという意味合いです。フムフム・・

 それにしてもアントラーズは強いね。この、「組織と個のプレーイメージ」がハイレベルにバランスしているからこその勝負強さは、たぶんリーグ随一だろうね。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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