湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第11節(2008年5月6日、火曜日)

 

主力の不在が「チームの競争環境」を活性化する!・・(レッズ対ジェフ、3-0)

 

レビュー
 
 「まあ、ゲームは後半に動くことの方が多いよね・・それは、世界のサッカーでも数字的に証明されている・・特に、強いチームと弱いチームが対戦する場合、ゲーム最後の20分間で勝負が決まるケースが多いんだよ・・弱いとはいっても、前半はまだまだ元気だから、そう簡単にはチャンスを作り出せないからね・・」と、ゲルト・エンゲルス監督。

 それは、私の質問に対する反応でした。「ハーフタイムに、もう少しアグレッシブにパススピードを上げていこう・・とか、全体的なスピードを上げていこう・・といった指示をされたわけだが、観ているこちらも、前半のちょっと沈滞気味のサッカーにはフラストレーションを感じていた・・これまでのレッズの試合では、スロースタートの傾向が強かったと思うのだが、それについてはどのように考えるか?」

 記者会見での、私とゲルト・エンゲルス監督の対話。とはいっても、前半のゲーム展開は(これまでのゲームの前半に見られた、足が止まった消極サッカーから比べれば!?)そんなに悪い流れじゃなかったし、何度かチャンスを作り出したのも確かな事実だった。それでも(敢えて)もっともっと出来る・・もっと仕掛けていくべきだ・・という印象「も」あったことを指摘することには価値があると思ったのですよ。

 そうです、理想マイナス現実イコール「課題の発見」という公式のことです。うまくいっている時こそ、そんなクリティカルな眼でゲームを評価するべきなのです。

 もっと出来る・・。フットボールネーションのコーチ仲間は、そのことについて、「アイツらは(選手は)もっと足が伸びるはずだゾ・・」なんていう表現を使う。要は、まだまだ全力で攻守の目的を達成しようとしていない・・まだまだプレーに甘さがある・・なんていうニュアンスのことです。

 攻守にわたる、ボールがないところも含めた現象について、例えば、チャンスなのに、どうしてもっと詰めていかないんだ・・とか、ボール奪取アタックのチャンスなのに結局は様子見になってしまった・・というふうに、よりクリティカルな眼で(理想ベースの批判的な眼で)プレー内容を評価していくのです。それがなければ、チームを発展ベクトルに維持することは難しくなるからね。

 とはいっても、たしかにチーム全体としては鈍重な(もっともっと出来る!)ゲーム展開だったとはいえ、選手個々やグループについては(個人戦術的&グループ戦術的には)着実に発展している傾向も見えてきています。

 そして、またまた「トゥーリオ」というテーマに入っていくわけです。この試合でのトゥーリオのプレーについては、「メリハリ」というキーワードが当てはまりそうです。

 前半の基本的なポジションは守備的ハーフ・・ただし、ゲームメイクやチャンスメイクへ「しゃしゃり出て」いくのではなく、あくまでも「前気味のリベロ」として、最終ラインの前を基本ポジションにプレーする・・そして、相方の守備的ハーフを務めた山田暢久を、攻撃のサポートに前戦へ送り出したりする・・まあ前半は、守備的ハーフによる攻撃サポートは薄かったけれど・・

 ・・守備では、より積極的に汗かきのチェイス&チェックにも精を出すことで、しっかりと守備の起点「も」演出できるようになっているし、もちろんボール奪取チャンスとなったら、例によっての大いなる存在感を魅せつける・・

 ・・また攻撃となったら、後方でバックアップの起点(組み立てパスの出所)として着実にプレーしながら、タイミングを見計らって最終勝負の流れに「も」乗っていく・・それは、まさに「メリハリ攻撃プレー」・・もっといえば「クレバーな消えるプレー」とも言える・・相手守備にとっては「見慣れない顔」だから、彼らも対応に苦慮する・・ということで、トゥーリオが絡むチャンスが増えるのも道理・・

 ・・また、味方を前線へ送り出すマネージメントも効果的だった・・後半は二列目に入ったわけだけれど、そこでの「人の操り方」は特にインプレッシブだった・・組み立ての流れの中心になろうとするのではなく、あくまでも「裏方」として、人とボールの動きを活性化するための潤滑油になろうとする・・

 ・・そして自分が下がり、山田暢久や(後半から登場した)細貝萌を、どんどんと前戦へ送り出すだけではなく、例によって、チャンスを見計らった「消えるプレー」で勝負シーンに顔を出したりする・・そんな効果的なプレーを展開するのだから、1ゴール&1アシストという結果は、まさに自ら奪い取ったトロフィーだった・・ホント、なかなかいいね・・

 私は、トゥーリオが「前で」プレーしながら様々なネガティブ現象を体感し、改善策に知恵をめぐらせたからこそ、自分にとって(自分のプレースタイル&能力にとって)もっとも効果的と思われるプレーイメージを明確に描写できるようになったと思っています。だからこそ、自分の持ち味を存分に発揮できるようになった。

 この成長プロセスには、非常に重要なファクターが内包されています。レッズにとっても、日本代表にとっても。それについては、このところの「Jリーグコラム」を参照してください。

 また、トゥーリオだけではなく、主力がケガや病気で離脱している間に、細貝萌、永井雄一郎、梅崎司、堤俊輔といった「チーム競争環境を活性化する演出家」連中も大きく発展した。

 細貝萌は、攻守にわたって積極的に仕事を探しつづけるというプレー姿勢で(また実際のプレー内容でも)大きく伸びたと思う。彼は、鈴木啓太の良きパートナー(長谷部誠の後継者!?)になるでしょう。

 また、存在感が大きくアップした永井雄一郎については以前のコラムを参照していただくとして、ここでは、守備でもしっかりとした「主体的パフォーマンス」を魅せられるようになった梅崎司もピックアップしたい。とにかく、ビックリするくらい走り回れるようになったし、守備でも(汗かきのチェイス&チェックでも)しっかりと役割を果たせるようになっている。以前のような「アリバイ守備プレー」は、かなり払拭された。これだったら、チームメイトにも認められるはずです。

 それ以外でも、「やっと」エジミウソンが本領を発揮しはじめたことも特筆。後は、リーグ中断中の「不摂生」に注意するだけだね。とにかく、体重1キロオーバーには「100万円」の罰金を課してもいいでしょう。ここでもマネージメントの手腕が問われます。ただ高原直泰についてだけは、まだまだ・・。

 最後に・・。そんなポジティブなポイントもあるけれど、前述したように、私は、原則的にはクリティカルな眼で(理想イメージを基盤に)レッズのパフォーマンスを観察していることは付け加えておきます。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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