湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2007年8月18日、土曜日)

 

ヴァンフォーレ大木監督は、良い(チャレンジャブルな)仕事をしている・・(ヴァンフォーレ対レッズ、1-4)

 

レビュー
 
 「名前を言ってもいいですよ・・藤田です・・」

 ヴァンフォーレ対レッズ。試合後の監督会見で、ヴァンフォーレ大木監督が、サボッていたと、中盤のエース、藤田の名前を挙げたのです。さすがに、なかなかのパーソナリティーだね、大木監督。

 わたしは、サッカーはミスの積み重ねだと表現します。また、(GKを除いて)ポジションなしのサッカーが理想型だけれど、やはり個々の能力やタイプという限界があるから、妥協の産物として基本ポジショニング(基本的な役割分担)というチーム戦術的な発想が出てくるという表現も使います。要は、理想と現実の相克。だからこそ、監督には優れたバランス感覚が求められる。

 ただ大木さんの口からは、決して妥協を許さないというストイックなニュアンスの表現がポンポンと飛び出してくるのですよ。

 究極の組織プレー・・?? 会見後の「かこみ」で、そんなキーワードはどうかと質問してみたのですが(わたしは、かこみ取材にはほとんど加わりませんが、大木さんにだけは興味があったから近づいて質問したというわけです)、そこでニヤッと笑った大木さんは「何とでも表現してください・・」と言う。そして再び、「藤田は、行かなければならいなスペースへ入り込まなかったり、戻らなければならない状況でも、しっかりと守備に参加しなかったりと、首尾一貫性に欠けていた・・それは許されないこと・・ウチにはスターなどいらない・・」などなど、厳しいコメントを出しつづけていた。たぶんそれは、藤田の「意志」に対する批判なんでしょう。いいね・・ホント。共感しますよ。

 そこで私が質問した「(攻守にわたる)究極の組織プレー・・」という表現だけれど、そのニュアンスは、一人の例外もなく、攻守にわたって常に(バランスの取れた)効果的な仕事を探しつづけ、それを躊躇なく全力で実行していく・・というもの。ちょっと舌っ足らずだけれど、そんな姿勢(イメージ)と実行力(意志)が高みで安定すれば、少しくらいの個のチカラの差などは完璧に埋め合わせることが出来るはず。もちろん、理想型のハナシだけれど・・。

 甲府で行われたヴァンフォーレ対アントラーズ戦も、ビデオで観ています(1-3でアントラーズが勝利したゲーム)。目的は、アントラーズに復帰した小笠原のプレーコンテンツの観察だったけれど、その試合で心を惹かれたのは、ヴァンフォーレのプレー姿勢でした。

 決して引くことなく、あくまでも前で勝負する。もちろん絶対的なベースは守備にあり。その、高い守備意識に支えられた有機的なディフェンスプレー連鎖には、優れたサッカーの原風景を感じましたよ。素晴らしい守備での積極エネルギー。それが、次の攻撃へポジティブに波及しないはずがない。人とボールが動きつづける素晴らしい組織コンビネーション(パス&ムーブのダイナミックな積み重ね!?)。

 ヴァンフォーレが展開する、逃げの横パス姿勢など微塵も感じられない仕掛け(組織)パスサッカーには、明らかに「感動リソース」が内包されていました。全員守備、全員攻撃のトータルサッカー。だからこそ大木監督は、結果としてのミスではなく、「意志」を欠いたサボリに対して我慢ならなかったということなんでしょう。

 たしかに「1-4」で破れはしたけれど、とにかくヴァンフォーレは、この試合でも、「勝つために(大木さんの弁)」素晴らしくチャレンジャブルで魅力的なサッカーを展開し、観ている者に感動を与えてくれました。

 そんなヴァンフォーレと対峙したレッズだけれど、前半6分に、鈴木啓太から送り出された素晴らしいスルーパスを受けた田中達也がダイレクトで先制ゴールを叩き込んでから、徐々にペースを失っていった(ヴァンフォーレの組織プレーにタジタジになっていった!?)。

 立ち上がりの数分は、前節ガンバ戦で素晴らしい機能性を魅せた中盤のダイナミック・クインテット(山田、鈴木、長谷部、ポンテ、平川)が縦横無尽のポジションチェンジを繰り返すなど、爆発的なエネルギーを放散していたけれど、その後は、徐々にヴァンフォーレの勢いに押され気味になっていったのですよ。

 とはいっても、そこは強力な守備ブロックを擁するレッズ。ヴァンフォーレが仕掛けてくる組織パスコンビネーションを「忠実」にはね返しながら、危険なカウンターを繰り出していくのですよ。

 その前半の時間帯については、全体的なサッカー内容では確実にヴァンフォーレに軍配が上がるけれど、実質的なチャンスの量と質ではレッズが上回るといった皮肉な内容だったなんて表現できそうだね。

 そして前半39分、カウンターから平川がドリブルで突破し、ゴール前でフリーで待ち構えていた永井雄一郎にピタリと合う戻り気味パスを決める(永井のゴッツァンゴール!)。また直後の前半42分には、右サイドからのドリブル突破からの最終勝負でこぼれたボールを、鈴木啓太がボレーシュートを決め、ヴァンフォーレを「3-0」と突き放してしまう。

 どうだろうね・・。そこまでの展開(ゴールという結果)については、個のチカラの差という表現がふさわしいかもしれないね。とにかくヴァンフォーレ守備(素晴らしく有機的に連鎖しつづける組織ディフェンス)は、レッズの全体的な攻撃の流れだけは効果的に抑制できていたからね。それでも、平川や田中達也のドリブル勝負など、ここぞの「局面個人勝負」にやられてしまった。フムフム・・。

 そして後半は、互いに決定機を作り出すなど、見所豊富なシーソーマッチへとゲームが発展していく。そこでは、なかなか興味深いコンテンツが山積みでした。そして終わってみれば、ヴァンフォーレの方がシュート数で大きくレッズを上回るということになった(ヴァンフォーレの17本に対し、レッズは12本)。フムフム・・。

 レッズのサッカーが再び「良いベクトル」に乗りはじめたことは確かだけれど、この試合でのヴァンフォーレのサッカーを観ていると、(選手の意識と意志の高揚など)まだまだレッズも多くの課題を抱えていると思えてくる(彼らの個人的な能力からすれば、もっともっとサッカー内容を進化させられるはず!)。その意味で、ヴァンフォーレほどの刺激ジェネレーター(相手をポジティブに刺激できるチーム)はいないよね。

 とにかく、良い仕事をしているプロコーチ(ナイスパーソナリティーの)大木監督に大拍手の湯浅でした。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知もつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」を参照してください。

 



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