湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第20節(2007年8月15日、水曜日)

 

早野監督は良い仕事をしている(フロンターレ対マリノス、1-2)・・またガンバ対レッズ(0-1)についてもショートコメント

 

レビュー
 
 「それは・・我々は器用ではないということですね・・」

 フロンターレ対マリノス。試合後の記者会見で、マリノス早野監督にこんな質問をぶつけてみました。「まだ日本が涼しかった頃・・早野さんは、これから暑い季節がやってくる・・そこで、どこまで我々のサッカーコンセプトを維持できるか・・運動量と自然条件をどのようにバランスさせていくのか・・その対策へのイメージ作りにアタマを悩ませていると言っていた・・そして今、その暑い季節がやってきた・・そこでのマリノスは、この試合のように、非常にクレバーにエネルギーを使っているように思う・・もちろん一生懸命に走るというイメージベースはそのままに・・そこでの、早野さんにとってのキーワードは何だろうか・・」。

 そして出てきたキーワードが、「我々は器用ではない」というものだったというわけです。

 彼が、そのキーワードに込めたのは、こんな意味合いだったのかもしれません。「器用ではないから、真面目にチャレンジをつづけなければならない・・我々がやろうとしていることを、妥協せずにギリギリまで追求していかなければならない・・その姿勢がなくなれば、我々はダメになる(我々がチャレンジしていることの価値が地に落ちる!)・・とにかく、倒れるまでチャレンジをつづける・・そうすれば、9月になって涼しくなれば、もっと走れるようになる・・」

 なかなか良いじゃありませんか。早野監督の言動からは、優れた指先のフィーリング(パーソナリティー)を感じますよ。もちろん、たまに飛び出すダジャレは別にしてネ。あははっ・・。

 この試合でのマリノスは、本当に素晴らしいサッカーを展開しました。涼しい頃は、強烈な運動量をベースに、ガンガンと前から協力プレスを仕掛けるという攻撃サッカーを展開していた。ただ、猛暑のいまは、高い守備意識をベースに、チェイス&チェックだけは忠実に仕掛けつづけるなかで、アグレッシブな協力プレスではなく、互いのポジショニングバランスを基盤にしたクレバーな「追い込みとパスコース制限」で対処するのですよ。

 なかなか優れたディフェンスの機能性でした。そしてボールを奪い返したら、ズバッと最前線へボールを回し、例によっての後方からの「厚い」バックアップを基盤にして仕掛けていく。要は、ボールがないところでの押し上げが素晴らしいから、効果的な組織コンビネーションを仕掛けていくのに必要な「人数」を常に確保できているということです。だからこそ、うまくスペースを使える。だからこそ、うまくフロンターレ守備ブロックのウラを突いていける。

 もちろん攻撃に人数をかけることは、次の守備へしっかりと戻らなければならないことを意味する。そこで、マリノス選手たちの高い守備意識がモノを言うというわけです。言葉を換えれば、マリノス選手たちは、攻守にわたってしっかりと走りつづけているということです。彼らのチャレンジャブルなサッカーには、本当に「強い意志」が内包されていると思いますよ。意志さえあれば、おのずと道が見えてくる・・。早野さんは、本当に良い仕事をしている。

 対するフロンターレ。前半は、好調時の我那覇やマギヌンの「穴」が目立ちに目立っていました。前戦でしっかりとボールが「おさまる」ポイントを演出できないから(まあジュニーニョは別だけれど・・)うまく仕掛けられない。

 中村憲剛だけが、前へ行ったり後方で守備をリードしたりと大車輪の「仕事量」だったけれど、それも、うまく実効プレーに結びつかないから気の毒だった。まあ前半は、憲剛のイラつきが目に見えるようだったね。そんなこともあったんだろうね、前半43分のカウンターシーンでは(右サイドの森に素晴らしいタテパスが出たシーン)、センターサークルにいた中村憲剛が、まさに鬼神の勢いで全力ダッシュし、味方フォワードを全員追い抜いてニアポストスペースへ飛び出していった。怒りの爆発ダッシュ!? それは、それは感動的な「意志のほとばしり」シーンでした。

 アジアカップでも、憲剛の後方からの飛び出しは、日本代表の仕掛けプロセスを牽引していた。それがなければ、日本の攻撃は、もっと矮小なモノになっていたはずです。私は、前半43分に憲剛が魅せた飛び出しフリーランニングを見ながら、ハノイでのエキサイティングな日々を懐かしく思い出したモノでした。

 そんな、ちょっとだらしない前半のフロンターレだったけれど、後半は見違えた。もちろん、攻守にわたる組織的なプレーの勢い(絶対的な運動量)が大きく好転したということです。そこにも明確な「闘う意志」があった。だからこそ感動があった。

 でも、そんなフロンターレの「意志」も、マリノスのスーパーカウンターに打ち砕かれてしまうのですよ。左サイドからを「スーパー坂田」が突破してクロスを上げる・・それを、これまた全力ダッシュで中央ゾーンへ詰めていた山瀬功治がボレーで追加ゴールをブチ込んでしまうのですよ。それは、まさに目の覚めるような一撃でした。坂田のスピードと勇気ある勝負。山瀬功治の、強烈な意志が込められた全力フリーランニング。それもまた感動的なシーンではありました。

 ということで、後半は、本当にエキサイティングなゲーム展開になりました。早野監督も言っていたように、それまでのゲームの流れとは関係なく、最後の15分間は、フロンターレが大逆転ドラマを完遂してもおかしくない展開になったのですよ。そこには、神様ドラマの予兆があったのです。でも結局は、マリノスの「意志」が上回り、全体的な内容からすれば、まさに順当といえる勝利を収めたという次第。

 わたしは、そんなエキサイティングマッチを観ながら、サッカーを堪能し、その本質的な魅力の何たるかを反芻していました。やはり、強烈な意志をベースにしたリスクチャレンジこそが、人々の感動を揺り起こす・・。

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 さて、テレビ観戦したガンバ対レッズ。それについても、レッズを中心に(ガンバのファンの皆さんスミマセン)簡単にレポートしておくことにします。

 前節のメンバーから、永井雄一郎と平川忠亮が入れ替わったレッズ。攻守にわたる組織プレーマインドが、格段と呼べるほど向上しました。中盤の鈴木啓太、長谷部誠、山田暢久、平川忠亮、そしてポンテ。まさに、ダイナミック・クインテットじゃありませんか。

 とにかく前後左右にうまくポジションチェンジが機能する・・だから、ガンバ守備ブロックに次のボール奪取の狙いを定めさせない・・だから上手くスペースを使える・・だから組織コンビネーションもうまく機能する・・特に長谷部誠の活動量(攻守にわたる実効レベル)が格段にアップしたと感じた・・やはり、周りのパートナーの守備意識に対する相互信頼こそがダイナミズムの源泉ということか・・などなど。前節とは、まさに見違えるほどのサッカーコンテンツでした。

 やっぱりツートップがいいよね。永井雄一郎も、ガンバとの天王山ということもあって(!?)まあまあ足も動いていた(まあワシントンもあまり動くタイプじゃないからネ・・)。ということで、永井がセンターポスト役で、その周りの衛星ストライカーが田中達也という、チームになじみ深い「最前線の選手タイプ・コンビネーション」ということになりました。

 中盤のダイナミック・クインテットだけれど、それがうまく機能していたからこそ、トゥーリオのオーバーラップにも、より高い実効が伴っていたと感じます。要は、高い守備意識を絶対的なベースにした前後左右のポジションチェンジがうまく機能しているからこそ、ボールがないところでの動きをベースにした組織コンビネーションが上手く機能しつづけたということです。そう、最後方からのオーバーラップをも効果的に「包み込んで」しまうだけのキャパシティーを備えた(次の守備でのカバーリング関係も含めた!)組織コンビネーション。なかなかのモノでしたよ。

 とはいっても、そこはガンバの強力な攻撃力。何度も、組織コンビネーションや個の突破力でレッズ守備を突破しそうになる。その、組織と個がうまくバランスした仕掛けの勢いは、もちろんレッズが一点をリードしてから増幅される。ただ、この試合のレッズは、ガンバの、次、その次の展開をある程度の余裕で予測できていたと感じました。だから、ガンバの攻めが、最後は中距離シュートを打たざるを得ない(決定的スペースの攻略がままならない)というふうに、ちょっと寸詰まりになってしまっていたと感じました。

 もちろんそれは、レッズ守備ブロックがうまく機能していたからに他なりません。その基盤もまた、ダイナミック・クインテットの高い守備意識でした。まあ・・ね、レッズのスリーバックは、トゥーリオ、阿部勇樹、そして坪井慶介だからね。その強力スリーバックと、ダイナミックなクインテットの共演ということだから・・。

 とにかく、攻守にわたる組織マインド(実効ある機能性)が戻ってきたレッズに、ホッと胸をなで下ろしていた筆者なのです。もちろん、「Jリーグ」というエキサイティングドラマの灯が消えなかったことに対してですよ・・。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知もつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」を参照してください。

 



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