湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第19節(2007年8月11日、土曜日)

 

組織プレーこそが個人勝負プレーの絶対的ベース・・(レッズ対レイソル、1-1)

 

レビュー
 
 「高い位置からプレッシャーをかけつづける積極守備ができたと思う・・ただ、ボールは奪えるけれど、次の攻撃では、ミスで簡単にボールを失ってしまうようなシーンがつづいた・・それは今後の課題ということだ・・」

 レイソルの石崎監督が、淡々と胸を張っていました。まさにおっしゃるとおり。この試合でのレイソルは、最後の最後まで「自分たちのサッカー」をやり通したということです。

 ボールへの忠実なチェイス&チェックを基盤に、次のパスレシーバーへのプレッシャーをシステマティックに掛けつづけるレイソル。本当に、立派な「守備意識」でした。それは意志の問題だから、やはり石崎監督の、心理マネージャーとしてのウデに拍手をおくるべきでしょう。

 ただ、石崎さんが言うように、次の攻撃での仕掛けがうまく機能したかといったら、たしかに課題の方が先行していた。シュートの(チャンスメイクの)量と質では、確実にレッズに軍配が上がりますからね(シュート数では、レッズの20本に対し、レイソルが放ったのは10本)。

 そんなことを書いたら、冒頭でレイソルの守備を高く評価したことと矛盾する!? たしかにそうかもしれないけれど、この試合でのレッズは、どちらかといったら、個の勝負に頼る場面が多かったと思うのですよ。要は、レイソルの積極守備が、レッズの組織的な仕掛けを機能させなかったということです。だからレッズは、うまくスペースを使うことが出来ず、結局は(相手にマークされた状態からの)個の勝負をベースにしたゴリ押しの仕掛けに終始してしまったということです。

 それにしてもレッズの攻めには効果的な(組織プレーベースの!)変化が乏しかった。たまにトゥーリオが前戦に顔を出したときくらいですかね、レイソル守備ブロックが、ちょっと対応にアタフタしていたのは(まあ希だけれど、長谷部や鈴木啓太も前戦に顔を見せる場面もあった・・)。

 ところで、そのトゥーリオのオーバーラップ。かなり効果的になってきていると思いますよ。この試合でも、後半15分には、そのトゥーリオが、セットプレーではなく流れのなかでの見事なコンビネーションと勝負ドリブルで抜け出して先制ゴールを決めた。とにかく、以前よりも確実にオーバーラップの「質」が向上しているのは確かです。トゥーリオのオーバーラップが、ここまでの効果レベルに達しているのだったら、彼をバックアップする鈴木啓太も、カバーのやり甲斐があるだろうね。

 ちょっとハナシがずれた。組織プレーベースの変化に乏しかったレッズの攻めだったけれど、後半には組織プレーの勢いが出はじめた時間帯もありました。それは、相馬に代わって平川が出てきてからと言えるだろうね。このことは、大住良之さんとも話していたんだけれど、平川の場合は、動きながらスペースでパスを受けるような(組織)プレーもうまいからね。それに対して相馬崇人は、どちらかといったら、足許パスを受けてからドリブル勝負を仕掛けていくというイメージに固執している。

 とにかく、平川という「刺激」によって、たしかにレッズの攻撃に「組織プレーの勢い」が乗りはじめたのは確かだったと思いますよ。だから、その「組織コンビネーション」の流れに乗ったトゥーリオがうまく抜け出して先制ゴールを決めたという見方もできるというわけです。

 でも結局は、その良い流れも長くはつづかなかった。再びレイソルの「気力」が充実してきたからね。そのキッカケもまた選手交代でした。トゥーリオの先制ゴールの数分後に、一挙に二人のフレッシュマン(ドゥンビアと佐藤由紀彦)をグラウンドに送り出したのですよ。石崎監督が魅せた、なかなかの采配でした。

 そしてその後は、レッズの攻めから、レイソル守備ブロックを突き破れるような「危険なニオイ」が薄れていくことになる。まあ、後半28分に、鋭いコンビネーションを連続させた鈴木啓太が、決定的スペースへ抜け出してタテパスを受けたシーンや(シュートまで行ったけれど、結局最後は相手の必死のタックルで防がれてしまった)、長谷部のミドルシュート、ポンテやトゥーリオの惜しいシュート等もあったけれどね・・。

 ということで、前述したように、全体としては「攻撃の変化」に乏しかったという評価になるわけです。それにしても、タテのポジションチェンジが少な過ぎたよね。それが出てくれば、スペースもよりうまく活用できるようになったはず。要は、ボールがないところでの動きが少なすぎたし、タテのポジションチェンジの演出家もいなかったということだろうね。

 両サイドと長谷部誠だけではなく、鈴木啓太やトゥーリオも含め、どんどんと後方からオーバーラップしてくれば、確実に人とボールの動きは活性化するはず。そんな組織プレーベースの「変化」が出てくれば、うまくスペースを攻略できるようになるだろうし、「そこ」である程度フリーでボールを持てば、より効果的な個のドリブル勝負も仕掛けていけるというわけです。でも、この試合でのレッズは・・。

 結局は、ボールがないところでの動きの量と質が、組織プレーと個人プレーのバランス状態を決めてしまうということですかね。レイソルのような素晴らしい組織ディフェンスと対峙しても、強い意志をベースに、それを上回る「機動力」を発揮する・・。それがうまく機能すれば、パスやドリブル、はたまた「タメ」といったプレーの選択肢が増えるから、相手ディフェンスも狙いを絞り込めず、結局は様子見になって足が止まり気味になっていく・・というわけです。

 最後にもう一度だけ大原則を確認しておきましょう。個の勝負プレーは、人とボールがよく動く組織プレーがうまく機能し、そのことでスペースを効果的に活用できるようになってはじめて、最高の実効レベルを発揮できる・・。

 サッカーでは、あくまでも「組織プレー」が主体なのですよ。その機能性を高めながら、同時に、いかに機能的に「個」を絡ませていくのかというテーマにも取り組まなければならないのです。「組織プレー」と「個人勝負プレー」の高度なバランスこそが、サッカーでのもっとも重要なテーマ・・というわけです。

===========

 しつこくて申し訳ありませんが、拙著(日本人はなぜシュートを打たないのか?・・アスキー新書)の告知をつづけさせてください。本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」を参照してください。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]