湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第13節(2007年5月26日、土曜日)

 

ダイナミズムの活性化にフタをする二人!?(FC東京対グランパス、0-1)・・こんなネガティブな連鎖は経験したことがない!?(ジェフ対ガンバ、1-2)

 

レビュー
 
 このゲームについては、二つのテーマをピックすることにしました。一つは、前半の東京が陥った倦怠サッカーの元凶だったタテのセンターゾーンコンビ。そしてもう一つが、フェルフォーセン監督が志向する「バランス・オリエンテッド」チーム戦術。

 とにかく前半は、溜まったフランストレーションが暴発するかと思いましたよ。元凶は、ワンチョペと福西。とにかく何もしない。まあ福西については、局面ではサスガの強さと上手さは発揮するけれど、彼に期待されるのは、それだけじゃないからネ。

 これまで数試合ワンチョペを見てきたけれど、チームの良い結果とは裏腹に、彼自身のパフォーマンスは決して良いものじゃなかった。ただ周りのプレーがうまく機能していたから、彼のマイナスが目立たなかっただけ(周りも、ワンチョペは動かないという暗黙の了解があり、逆にそのイメージをうまく活用できていた!?)。とにかくワンチョペは、まったくプレーをしていないとしか言いようがありません。

 タテパスを受けるにしても、動きが鈍重だから、相手に完璧なタイミングのボール奪取勝負を仕掛けられて簡単にボールを失ってしまう。もちろん、スペースへの抜け出しフリーランニングなんて、まったく出てこない。ボールを持って勝負アクションに入っても、相手をかわせないし、パスのタイミングも遅い、遅い(曲芸パスはあるけどネ)。もちろん守備なんていう発想にしても、はなっから脳内の引出には入っていない。

 原因は分からないけれど、とにかくワールドカップでのパフォーマンスからすれば、まさに雲泥の差です。これで、まったく火の気のないところでも唐突にゴールを決めちゃうような驚きプレーで存在感を発揮できるのだったら、「最前線の諸刃の剣」なんていう形容詞も使えるけれど、いまのワンチョペを形容するポジティブな表現なんて、まったく見当たらないよね。

 この試合でのFC東京は、まあ前半だけだけれど、後述するフェルフォーセンさん主導のバランスオリエンテッド戦術に完璧にはまってしまいました。攻撃での仕掛けの流れを完全に封じ込められてしまったのですよ。そんなこともあって、ワンチョペと福西の動きの鈍重さばかりが目立ってしまったということなんだろうね。

 フィールド中央ゾーンの前と後ろに陣取る二人なのだから、そこが中心になってダイナミズム(活力・力強さ)を再生しなければいけなかったのに・・。でも結局は、攻守にわたって、まさに「そこにいるだけ」といったプレーに終始していた。暑かったこともあった!? それは全員にイコールのコンディションだから、まったく言い訳になんてならない。

 そして、ジリ貧だった前半のサッカー内容を受け、原監督が動きます。後半のスタートからワンチョペを外し、そして後半18分には福西も交代させたのです。私は、その交代に、ちょっと溜飲を下げていました。原さんも、しっかりと判断し、決断している。ただし、監督会見での言い回しには、明快さが欠けていたけれどね。ワンチョペって叩かれ弱いのかネ。もっとアグレッシブに、「ワンチョペのプレーは最低だった・・」とか、「福西には攻守のリーダーシップを期待しているのに、この試合での彼はまさしく大きなブレーキだった・・」とか、うまくメディアを利用して刺激を与えればいいのに・・。

 とにかく、その交代の甲斐あって、やっとFC東京本来のダイナミックサッカーが蘇ってきたのです。3-4本はあったですかね、同点チャンス。でも結局は決め切れずに悔しい敗戦ということになりました。それにしても、前半と後半のサッカー内容がガラッと変わったことは誰の目にも明らかだったし、その要因についても・・。このことが良い学習機会になればいいのだけれど・・。

 さて、フェルフォーセンさんが志向する、バランスオリエンテッドなチーム戦術。まあ色々な言い方があるけれど、彼の場合は、選手を型にはめるサッカーという表現が適当かもしれないね。要は、最後の勝負の瞬間まで、互いのポジショニングバランスを取りつづけるというイメージ。

 攻撃だったら、相手が全体的に下がってくるまで互いのポジショニングバランスを崩さずにボールを動かし、相手が全体的に下がってきたら(ボールを失ってもすぐには危険なカウンターを仕掛けられない!)勝負を仕掛けていくといったイメージかな。もちろんカウンターを仕掛けたり、タテのロングパス一本で勝負をかけたりもする。まあ、要は、典型的なイタリアサッカー・・。結果は出し易いかもしれないけれど、逆に、選手たちの発展の可能性については制限ファクターの方が大きいかもしれない。

 ここでもう一度、サッカーメカニズムの大原則を反芻しておきましょう。サッカーでは、リスクチャレンジのないところに決して発展もない・・だからこそ、様々なバランスが崩れるのは(意識して崩していくのは)当たり前・・だからこそサッカーには、(次の守備で素早くバランスを取り戻すために!)優れたバランス感覚と高い守備意識が求められる・・云々。さて・・。

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 さて次は、ジェフ対ガンバのエキサイティングマッチについて・・。

 「一ヶ月のあいだに、これほどのネガティブ現象がつづいたことが信じられない・・自殺点、選手のケガ、単純なミスからの失点・・フ〜〜ッ・・ガンバとの試合でも良いゲームができるという確信があったし、実際に内容は悪くなかった・・ただ結果は・・このような試合でもしっかりと結果を残しているからこそガンバは首位にいる・・逆に、結果を残せていないから、いまのジェフの順位になっている・・」。試合後の監督会見でアマル・オシム監督が、ちょっと呆れ気味に語っていました。

 ジェフは、この試合で「も」、内容はよかったのに、最後の最後で、遠藤ヤットのスーパーフリーキックで決勝ゴールを奪われてしまった。そして結局は勝ち点「ゼロ」。もちろんそれには、何度かあった決定機を決めることが出来なかったという自業自得の側面もあったわけだけれどね。

 とはいっても、実質的なサッカー内容は、これまで何度も「もったいない失点」を重ねてきたゲームと比べれば、かなり充実したものだったと言えるでしょう。最後の最後まで途切れなかった素晴らしい集中力や闘う意志。それが、決して諦めない忠実で粘り強い「マン・オリエンテッド」なディフェンスの絶対的バックボーンだったのです。

 個の能力じゃ、もちろんガンバの方が数段上でしょ。ガンバの決定機の多くが、マグノ・アウベスやバレーといった個の才能たちが繰り出す個人勝負から生まれているのは確かな事実だからね。

 まあ、とはいっても、後半に入ってからのガンバは、やっとエンジンが本格的に動き出し、例によって、人とボールが良く動く組織的な仕掛けが出てくるようになりました。組織プレーの機能性がアップしたときのガンバの強さは、まさに日本一だね。この試合では、バレーも、組織プレーにフィットする傾向にあったからね。

 そんな強いガンバを相手にしていたからこそ、この日ジェフが展開した忠実ディフェンスには誰もが共感したはずです。それは、ガンバ攻撃の破壊力をも十分に受け止められるだけの「高い意図と意識」に支えられていたのですよ。

 そこなんですよ、わたしがジェフを高く評価する最大のポイントは。彼らのやる気のポテンシャルは、何があっても、まったく衰えを知らないのです。もちろんそのことは、攻撃では、ボールがないところでのアクションの量と質、また守備では、チェイス&チェックの勢いや、ボールがないところでのマークの内容などに如実に現れてきます。だからこそ、観ている方に感動を与えられる。

 この試合でも、連敗記録が伸びてしまったにもかかわらず、スタンドの観客の方々は、フィールドで挨拶する選手に暖かい拍手をおくっていましたよ。結局、人に感動を与えられるかどうかは、闘う意志のポテンシャルによるということです。

 それにしてもツキに見放されたジェフ。「ネガティブな連鎖だけれど、それがつづいた5月はもうオシマイだから・・」。アマルさんの言葉どおりに、6月に入ったら、新しいポジティブな「波」に恵まれることを祈っていますよ、ホント。

 



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