湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2006年4月15日、土曜日)

 

寝ていた前半、ギドの刺激で覚醒した後半・・(レッズ対パープルサンガ、3-0)・・これ以上ないというエキサイティングな仕掛け合い・・(マリノス対ガンバ、3-4)

 

レビュー
 
 どうも皆さん、今日は、埼玉スタジアムと日産スタジアムを「はしご」したので、アップが遅くなってしまいました。それにしてもオートバイでの移動は、よい身体トレーニングになった。何せ、大渋滞の首都高速を端から端まで(新井宿から用賀まで)通り抜け、1時間かけて埼玉から横浜まで移動したんですからネ。

 そこでは、車の間をすり抜けながらの加速とブレーキングの連続。わたしのオートバイは、セパレートハンドルのレーシングタイプですから(ライディングフォームはかなりの前傾姿勢)、ブレーキングの時には、背筋に強烈な負荷がかかるっちゅうわけです。要は、ブレーキングのときは、体重を「両腕」で支えるのではなく、ガソリンタンクを挟み込むように膝で押さえることで支えるということです(それをニーグリップと呼びます)。そのとき、上半身が前へつんのめらないように、背筋で支えるというわけです。両腕(両手)は、ハンドルを突っ張って支えるのではなく、あくまでも「ぶらぶら状態」で、ハンドル操作やブレーキ操作などを行うというわけです。途中で背筋が「つりそう」になったりして・・あははっ・・。

 あっと、またまた蛇足が・・。ではまずレッズ対パープルサンガから。最後は実力どおりの結果に収まったけれど、そこに至るまでには、例によっての紆余曲折がありました。サッカーは、イレギュラーするボールを足で扱うという不確実性要素がてんこ盛りだからこその「ホンモノの心理ゲーム」・・。

 ギド・ブッフヴァルト監督に言わせれば、「プレーのテンポがスローすぎる・・ボールがないところでのプレーが出てこない・・みんな足を止めているから、出てくるのはバックパスや横パスばかり・・」ってな表現になるのですが、彼が言うとおり、前半のレッズは、まさに寝ていたも同然の体たらくでした。「こんな悪いサッカーをみせられたら、ハーフタイムに大声で叱咤するしかなかった・・」。ギドは、そんなことも言っていましたよ。ジャーナリスト仲間の方のハナシでは、更衣室の外にまで聞こえるような「爆発的な刺激」だったそうな。なるほど、ギドもしっかりと仕事をやっているじゃありませんか。そして後半のレッズは、活性化した「覚醒サッカー」を展開し、順当な勝利を収めたというわけです。

 そんなゲームだったけれど、そこからは二つのポイントをピックアップしました。まずリーダーシップ。要は、グラウンド上で気合いを入れるリーダーがいないから、受け身で消極的な「様子見サッカー」という悪い流れを断ち切れないという現象です。

 仲間を叱咤する(強烈な刺激を伴った文句をぶつける?!)ことには「責任」が伴います。また、仲間からの瞬間的なネガティブ感情にも耐えなければなりません。だから、ほとんどの日本チームでは、グラウンド上での「自己主張のぶつかり合い」は起きにくい。何とかしなければとは感じていても、自分から率先して・・という姿勢で攻撃的な言葉や態度による刺激を仲間に与えるような選手は、そう簡単には出てこないということです。でも結局それじゃ、緊張感が高まらない「なあなあ」の雰囲気に終始し、厳しいゲーム展開を「逆流」させられるはずがない。ジーコやイビツァ・オシムさんが異口同音に言っているように、日本の責任回避の体質には根深いものがあるっちゅうことなんでしょうね。もちろん農耕民族という歴史的な社会体質ルーツがね・・。

 ということで、前半のレッズでは、主体的に「刺激を与えることにチャレンジ」するような選手は誰一人として出てきませんでした。そしてチーム全体が、ダレた雰囲気に呑み込まれていく・・。

 でも、ギドから刺激を受けた後半は、徐々に足が動きはじめるのですよ。そして、次々とゴールを決めて順当な勝利を収める。そこで二つ目のテーマ。それは、そこで挙げた3ゴールが、すべて「サイドからの仕掛け」によるモノだったという事実です。

 先制ゴールをたたき込んだのは長谷部。トゥーリオからのスルーバスを受けたアレックスが、「ニアポスト・スペース」へ走り込んできた長谷部へダイレクトでラストパスを送り込んだという、素晴らしい「サイド崩し」のコンビネーションでした。二点目も、アレックスと山田暢久による素晴らしいコンビネーションから、最後はアレックスが上げたクロスをワシントンのゲットしたというゴール。そして三点目も、サイドで勝負したアレックスからのクロス気味のグラウンダーパスを中央で受けたワシントンが、素早いトラップ&シュートで挙げたスーパーゴールでした。

 これで小野伸二が戻ってきたら、再び「センター崩し」の頻度が増えるでしょう。そこで、この試合で選手たちが体感した「効果的なサイド崩し」もミックスしていくのです。それがあってはじめて、「バランスのとれた仕掛けの変化」を演出することができるのですよ。まあ・・ネ・・、キーワードは、やはり「バランス感覚」っちゅうことですね。

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 さてマリノス対ガンバ。壮絶な「撃ち合い」になった?! まあ、結果として、そんなゲーム展開になったけれど、誰も、こんなエキサイティングな仕掛け合い(点の取り合い)になるとは想像していなかったはずですよ。何せ、守備ブロックがしっかりとした実力チーム同士の対戦だからネ。

 それが、前半16分にマグノ・アウベスが先制ゴールをたたき込んでから、ゲーム内容が、誰にも止められない積極プレーの応酬へと変容していくのです。攻守にわたる積極的な仕掛けプレーのぶつかり合い・・。それまではガンバがペースを握り、そのなかで順当な先制ゴールを奪ったといった展開だったけれど、そのマグノの先制ゴールが、今度はマリノス選手たちの仕掛けマインドに火をつけたというわけです。

 そして、マグノが先制ゴールを挙げた10分後、今度はマリノスが同点ゴールを決めてしまうのです。そのシーンが、それからの積極的な仕掛け合いを象徴していたと思っている湯浅です。何せ、それまでの25分間、加地のオーバーラップをケアーする意識が過剰で(?!)、まったく攻め上がれなかったドゥトラが、瞬間的にオーバーラップし(久保との縦のポジションチェンジを敢行し!)、ラストクロスまで上げたのですからね。それが大島の同点ヘディングゴールにつながった。そこら辺りから、両チームの選手たちが、注意深い安定プレーという「戦術志向」から解放されていったと思うのですよ。そして、両チーム選手たちによる吹っ切れたリスクチャレンジの頻度が、どんどんと高揚しつづけていった・・。

 「7人ものレギュラークラス選手が欠けているなかで、最後までフルに戦ったことを賞賛したい・・ガンバはよいチーム・・でも受けて立つつもりはなかった・・選手たちは最後まで相手ゴールへ向かって突き進んでくれた・・」。岡田監督は、選手たちが魅せつづけた闘う姿勢に満足の表情を浮かべていました。

 ところで、「レギュラークラスの選手」という表現。さすがに岡田監督じゃありませんか。選手たちの心情に対する配慮が深い。マリノスじゃ全員に平等のチャンスがある・・そのことを、監督自らが深く自覚しているし、そのことを、メディアをうまく活用して選手たちに伝える・・。なかなかのメディアマネージメントだね。

 またマリノスでは、サイド(田中隼磨&ドゥトラ)と中盤(吉田孝行&平野孝)のプレーダイナミズムが、後半になってから大きく高揚したことが特に目立っていました。「後半では、まずドゥトラに上がれと言った・・また吉田と平野にも、怖がらずにもっと前へ積極的に仕掛けていけと伝えた」と岡田監督。もちろん少しは戦術ポジショニング的なアドバイスもあったのだろうけれど、基本的には、心理的な部分での刺激がメインだったに違いありません。このゲームは、細かな戦術に関する指示ではなく、あくまでも、選手たちの「気持ちを高揚させることの方が」重要でしたからね。選手たちの気持ちが高揚したら、自然と、攻守にわたる仕事を自らが探すようになるものです。そうすれば、自然と、効果的なポジションに入りつづけることで実効ある仕事をこなしつづけるようになる。まさに「それ」でした。

 それにしてもガンバのチームパフォーマンスは高揚しつづけているよね。「こんなに早くチーム力が高みで安定しはじめるとは思っていなかった・・選手たちは、タフに戦えている・・これから代表チームによる選手たちの出入りも激しくなるだろうから、それが終わってからと思っていたのだけれど・・」。西野監督の弁です。

 「チームの重心」として、攻守にわたって抜群に安定した「起点プレー」を展開しつづける守備的ハーフコンビ(そのうちに明神も戻ってくる!)・・加地と家長による、絶大な実効レベルを誇る両サイドの積極オーバーラップ・・マグノ・アウベス、フェルナンジーニョ、二川孝広という、言わずと知れた攻撃の「個の才能たち」・・彼らは、めまぐるしくポジションを入れ替えつづけ、組織プレーと個人の勝負プレーがうまくバランスした攻撃を仕掛けていく・・それでも、次の守備でバランスが崩れることはない・・それこそが、高い守備意識の証明・・等々。とにかく、ガンバのサッカーは、どんどんと高揚しつづけています。彼らの今後も楽しみじゃありませんか。

 



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