湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2006年4月2日、日曜日)

 

もっと、バランス感覚あふれる仕掛けゾーンの「変化」を・・(レッズ対グランパス、0-0)

 

レビュー
 
 やっぱり、攻撃におけるもっとも重要な発想は「変化とバランス」という言葉に集約されるよね。そして、それこそがこの試合でのキーワードだった・・。

 グランパスのフェルフォーセン監督が、試合後の記者会見で、「レッズは、特にセンターゾーンから仕掛けてくる傾向が強い・・もちろんサイドからクロスを上げるケースもあるけれど、どちらかといえば、まずセンターゾーンを突破しようとする・・だから我々は、吉村をフォアリベロ的に使うことでセンターゾーンを厚くした・・たしかに何度かピンチはあったけれど、レッズの中央突破を抑えられるようになってからは、逆に我々も攻め上がれるようになったし、ビッグチャンスも作り出した・・」と、グランパスのゲーム戦術がうまく機能したことを強調していました。

 ここまで書いたら、もうお分かりですよね。そう、冒頭で書いた「バランス感覚」とは、勝負を仕掛けていくゾーンのことです(もう一つのキーワードである変化については後述)。この試合でのレッズは、あまりにも中央突破にこだわり過ぎたと思っている湯浅なのですよ。

 立ち上がりは、アレックスのタテへの突破&クロスといったサイドからの仕掛けもあったけれど、時間の経過とともに、ポンテ、小野伸二、ワシントンの前線トリオだけではなく、アレックス&山田の両サイドや、後方から押し上げる長谷部誠にしても、ボールとともに「中へ」切れ込んでいくという傾向が強くなっていったのですよ。そしてレッズの仕掛けが、センターゾーンでのコンビネーションに特化していく・・。それって、グランパスのフェルフォーセン監督の思惑どおりじゃありませんか。

 たしかに「前半の」レッズは、美しいコンビネーションベースの中央突破で、小野伸二や山田暢久、またタイミング良く攻め上がったトゥーリオがシュートまでいくなど、何度も決定的チャンスを作り出しました。だから、センターゾーンを仕掛けていく攻撃が多すぎるという批判は当たらないと言われれば、返す言葉に勢いを乗せられないけれど、でもネ・・、ここ数試合の「レッズの仕掛け傾向」が、中央ゾーンでのコンビネーションチャレンジに対する「マインド」が強くなっていること、そしてそれが大きな危険と隣り合わせということは確かな事実だと思うのですよ。

 中央ゾーンは、常に相手ディフェンダーの密度がもっとも高いところ。だから、そこを突破していくのは容易ではない。ここで、「でもオレたちはチャンスを作り出したゼ!・・文句あるのか?」ってな反論をぶつけられるっちゅうわけです。それでも湯浅は頑張って主張します。

 「中央突破コンビネーションが決まったときほど気持ちのいい瞬間はない・・だから、この試合の前半のように、何度か決まりかけたら、選手たちの意識は、確実に中央突破コンビネーションへと引っ張られていくことになる・・その方が相手ゴールへの近道ということもあるし、目的へ向かって急いてしまうのは自然な人間心理だからね・・それが、墓穴を掘るというネガティブな結果につながってしまうことが多いという経験則があるにもかかわらず・・」

 「その、鳥肌が立つほどの快感をむさぼるために、アレックスや山田も、コーナーフラッグゾーンではなく、ゴールへの近道である中央ゾーンへ向かっていく・・急がば回れ・・そんな、近道を選択しつづける選手たちを見ながら、その諺(ことわざ)の含蓄の深さに思いを馳せていた湯浅なのです・・サイドからの効果的なクロス攻撃があるからこそ、中央突破コンビネーションも、より活きてくるのに・・攻撃の絶対的なコンセプトワードは、変化なのだ・・ってか〜〜っ!・・」

 後半になって中央突破コンビネーションが詰まり気味になるなど、時間の経過とともにレッズが攻めあぐんだ背景には、この試合でのワシントンが、グランパスのストッパーコンビ、増川と古賀に抑え込まれたこともありました。ヘディングでも負けるシーンが多かったし、トラップしても、身体で相手を抑え切れていないから、チョン!と、股の間から足を出されてボールを失ってしまう。もちろんそれには、ワシントンが縦パスを受けるゾーンが、常に、相手ディフェンダー密度がもっとも高いところだったということもあります。だから、味方サポートもうまく機能しなかった。

 まあ・・ネ・・、前半では、選手の密度が高いが故のコンビネーションチャンスがあったわけだけれどネ・・。小野伸二とポンテ、それに後方から押し上げる長谷部や両サイドが絡んだ、相手ディフェンダーのイメージを完璧に超越する「素早く人とボールが動きつづけるコンビネーション」は、まさに見事の一言。相手ディフェンダーは、味方の人数が揃っているからこそ、「アクション(&ボール)ウォッチャー」になってしまうっちゅうわけです。そして、そんな棒立ちの相手の間を、スパッとすり抜けていく。そりゃ、鳥肌が立つほどの快感だよね。それは、本当に良く分かる。でもね・・。

 今シーズンのレッズは、自らのチーム戦術を曲げずに、理想イメージのサッカーへ邁進するという立場にいます。逆に、相手チームが、レッズの良さを消すための「ゲーム戦術」を練って試合に臨んでくるというケースが増えてくる。だからこそ「バランスの取れた攻撃の変化」という発想が大事になってくる。

 たしかに、レッズが仕掛ける中央突破コンビネーションの威力はレベルを超えているけれど、それ「だけ」じゃ、必ず限界にブチ当たる。だからこそ、(何度もくり返すけれど・・)様々なオプションを「バランス良く」活用するという発想が重要な意味をもってくる。サッカーの攻撃において、もっとも重要なコンセプトは、「変化」ですからね。そのための「優れたバランス感覚」ということです。

 ちょっとネガティブなコメントになってしまったけれど、レッズが展開するサッカー(その基本的な発想)が優れていることには疑いの余地はありません。素晴らしく実効レベルの高い守備意識・・それをベースにした、前からボール奪取勝負をかけつづけるプレッシングサッカー・・守備意識に対する互いの信頼関係をベースに、チャンスを見いだした誰もが攻撃に参加していく・・そこでは、創造的なタテのポジションチェンジが繰り返されるし、人とボールがよく動くハイレベルな組織プレーを基調に、タイミング良く「個の勝負」も織り交ぜていく・・それこそ、攻守にわたってリスクチャレンジあふれる魅惑サッカー・・等々。

 とにかく、それらのサッカーのファンダメンタルズ(基盤となる発想)については特に問題ないけれど、この試合で明らかになったように、仕掛けゾーンについてだけは、もう少し「バランス感覚」を磨く必要があると感じていたわけです。もちろん、相手守備ブロックの「発想のウラ」を突いていくためにネ。

 小野伸二や長谷部誠に、仕掛けゾーンを「仕切る」リーダーシップを要求しましょうかネ。「ロビー(ポンテの愛称)!・・もっとサイドへ展開してくれ!」とか、「アレックス!・・中へ切れ込むんじゃなく、もっとタテへ勝負しろ!」とかネ。もちろん自分たち自身も、バランス感覚を発揮させなければいけません。もう一度くり返すけれど、攻撃でのもっとも重要なコンセプト発想は、「変化とバランス」なんですよ。あっと・・、バランスは「全ての現象に共通」か・・。

 



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