湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2006年11月11日、土曜日)

 

個人事業主たちの闘うグループ・・そんなチーム体質に拍手!・・そして、「追伸:アレックス」と健全なディベート体質・・(レッズ対マリノス、1-0)

 

レビュー
 
 前半は、まさに、ダイナミック(動的)とは正反対のスタティック(静的)な膠着状態がつづきました。動きのない(もちろんチャンスもピンチもない)退屈なゲーム展開。両チームともに守備が強いから、仕掛けの流れがうまく抑えられてしまう。そんな展開のなかでリスクを冒して(ボールがないところで)仕掛けてくための積極マインドを高揚させるのは難しかったということなんでしょう。

 そんな展開のなかで、前半20分に「唐突」に飛び出した、レッズ永井雄一郎の右サイドからの危険な(素晴らしい!)クロスボール。そのシーンに、ハッと目が覚めた湯浅でした。あ〜そうか・・目の前でやられているのはサッカーだったんだっけ・・ってな具合。チャンスのニオイという意味では、そのクロスボールが、この試合でまったく初めての、最終勝負につながるプレーでしたからね。そのとき、ちょっとゲームが活性化する気配を感じ取っていた湯浅でした。

 ただ結局は、そのチャンスが「ゲームを活性化する刺激」になることなく、再びスタティックな膠着状態へと戻ってしまうのです。そんな展開のなか、これまた「唐突」に先制ゴールが生まれます。前半33分。それを演出したのは、これまた永井雄一郎でした。永井の浮き球のタテパスが、中沢のアタマを越え、それを拾ったポンテからの(ポンテの動き出しは見事だった!)、「ピタリッ!」なんて音がするくらい正確な「戻り気味」のグラウンダークロスが、これまた素晴らしい動き出しから走り込んだ山田に(意図通り)ピタリと合ったという次第。右足、一閃。

 やはりゴールに優る「刺激」はない。その後は、両チームのサッカーが何十倍も活性化していくのですよ。両チームの攻めに絡む人数が、少なくとも50パーセントは増大したという印象。攻め上がるマリノス。その攻めを余裕をもって受け止め、カウンター気味の鋭い攻めを繰り出していくレッズ。そこでは、チャンスの量と質で、明らかにレッズに一日の長がありました。

 後半になっても、レッズの危険度が高揚する傾向がつづきます。サイドからの仕掛けを中心に、後方からのサポートの量と質も格段にアップするレッズ。そして、長谷部の決定的ヘディングチャンス、永井のフリーシュートチャンス、ワシントンのチャンス、ポンテのフリーシュートチャンス、山田のフリーシュートチャンス等々、次々とチャンスを作り出すのです。それでも決められない。そしてゲーム大詰めのエキサイティングな時間帯に突入していく・・。

 「一点入れてリードしてからは、やっとサッカーが活性化し、そのなかで多くのチャンスを作り出した・・でも二点目を入れることができない・・そのようなゲームの流れの場合、最後の最後で「罰を受ける」ことも多い・・そんなゲーム展開は、世界中で繰り返されているし、私自身も、何度も経験している・・だから、震えた・・」。ギド・ブッフヴァルト監督の弁でした。

 マリノスだけれど、相変わらずディフェンスは力強く、安定している。それでも攻撃の勢いがまったく感じられない。まあ、レッズの守備「も」、力強く、忠実で安定していたということもあるけれど、水沼監督は、そのことについて、「この試合にはチャレンジという意味があった・・修正ポイントや課題はたくさんある・・待ち構えるのではなく、自分たちから仕掛けていくサッカーをやらなければならない・・攻撃に絡む人数を多くしなければならない・・攻めているとき、後方の人数が余っているという現象を何度も確認した・・もっと人が(攻撃へ)出て行かなければならない・・勇気がキーワード・・勇気をもって相手ペナルティエリアに入っていけるサッカーを目指す・・等々」と述べていました。

 とはいっても、後半30分あたりから次々に登場した、田中隼磨、久保竜彦、坂田大輔によって、マリノスの攻撃が格段に危険なものになったことは確かな事実でした。本当に素晴らしい迫力でした。ただ結局最後まで、レッズの守備ブロックが不安定に振り回されるようなシーンはなかったけれどね・・。

 このゲームでレッズ守備ブロックが、本当の意味でピンチに陥ったのは2回ほど。前半27分と、後半40分。この二つのケースで、私の目には、アレックスがチームメイトから責められていたように映りました。前半ではトゥーリオから、後半では数人のチームメイトたちに文句を言われていたように見えた(後半のシーンでは、トゥーリオが、なだめ役に回っていたのかもしれないけれど・・)!? たしかに私の脳裏にも、そのシーンでは、彼のイージーなプレーがピンチを招いた大きな要因だったという印象が残っています。これについてはビデオで確認してみます(後で加筆するかもしれません)。

 ここで言いたかったことは、アレックスのミス(!?)のことではなく、そこで、チーム全体の「意識」を活性化するような、膨大なエネルギーを放散する「心理ストラグル」があったということです。要は、互いに文句を言い合った・・互いに、自己主張をぶつけ合った・・パーソナリティーの衝突があった・・等といった現象のことです。

 私は、そのぶつかり合いを、もの凄くポジティブな現象だと思っているのですよ。たぶん、ハーフタイムでは、トゥーリオとアレックスが、互いにネガティブエネルギーをぶつけ合ったからこその「深いディベート」をやったことでしょう。そして互いにより深く信頼し合うようになる。それなんですよ、チームの心理パワーを活性化する本当の意味での「エネルギー源」は。

 「チームのなかで、互いに主張し合うことは、非常にポジティブなことだ・・それは、闘う集団にとって欠かせないものだ・・」。ギド・ブッフヴァルト監督の弁です。まさに、その通り。それこそが、闘う意志を支える本物のエネルギーになるのです。パーソナリティーのぶつかり合いがない「仲良しクラブ」では、何も生み出すことは出来ないのです。

 私は、そんなシーンを見ながら、レッズの、チームとしての優れた体質と、闘うグループとしての心理・精神的ポテンシャルの高さを感じたモノでした。

 ハナシ変わって、ポンテ。この試合では、彼も、攻撃だけじゃなく、守備でもしっかりと闘っていた(それもまた、チームメイトからの文句があったからこそ!)。また、山田暢久・長谷部誠・鈴木啓太で組む、ダイナミック・トライアングルも(先制ゴールを奪ってからは!)うまく機能するようになっていった。そのトライアングルの「ダイナミズム」を象徴するワンシーンを描写しましょう。

 ・・後半27分・・コーナーキックからボールを奪い返したマリノスが、鋭いカウンターを仕掛ける・・左サイドから、右サイドのスペースへ展開されるタイミングのよいサイドチェンジパス・・そのスペースへは、吉田孝行が全力疾走で飛び出していく・・ただ、もう一人、全力疾走で吉田を追いかけるレッズ選手がいた・・レッズ山田暢久・・山田は最後の最後まで粘り強くチェイス&チェックを実行し、最後は、相手の「ボールの動きの停滞」を演出した・・それこそが、ダイナミックトライアングルを支える「高い守備意識」を象徴するプレーだった・・だからこそ相互信頼が高まる・・だからこそ、ダイナミズムのポテンシャルを高揚させられる・・。

 最後にもう一度。私は、レッズのチーム内ストラグル(心理的な葛藤)シーンを見ながら、それこそがチーム内の意識の高揚を促す・・それこそが勝者のメンタリティーを増幅させる・・そんなチーム内体質があるからこそ、正しいベクトルに乗って発展しつづられる・・なんてことを思っていました。

 疲れたから、文章チェックはしません。このままアップします。乱筆・乱文・誤字・脱字、ご容赦アレ。またビデオチェックした結果は、この後に付け足します。では・・

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 さて、アレックス絡みのピンチ。

 まず、前半27分のシーンからいきましょうか。そこでは、マリノス大島が仕掛けた決定的スペースへ抜け出す動きに対し、トゥーリオとネネが、「止まる」ことでオフサイドに陥れようとしました。ところが、トゥーリオの位置が基準となるべき「オフサイドライン」を気にせずに、アレックスと鈴木啓太(彼は、タテへ飛び出そうとしていたもう一人のマリノス選手をマーク!)が下がってしまったことで、大島が「オンサイド」になってしまったというわけです。松田から送り込まれたロビングパスに、大島の足が届かなかったから事なきを得たけれど、最終ラインのコントロールをミスしたことから発生してしまった決定的ピンチではありました。

 トゥーリオとしては、自分がリードすべきオフサイドラインが守られなかったことに我慢ならなかったということなんだろうね。まあ、分かる。

 二つめの、後半40分の絶対的ピンチのシーン。ここでは、マリノス田中隼磨が、まったくフリーで、右サイドから決定的クロスを上げたことに対する、レッズ守備陣全体から湧き出したクレーム(文句)だったようです。

 最初の段階では、右サイドでボールをキープする久保竜彦をネネがチェックしています。そこへ、中盤から戻ってきたアレックスが「協力プレス」を掛けようと寄ってくる。でも、その寄り方には、ちょっと覇気がない。次の瞬間、久保が、後方から全くフリーで押し上げてくる田中隼磨へバックパスを戻したというわけです。そして田中が、危険な(正確な)クロスをダイレクトで送り込んだという次第。

 このシーンでのアレックスは、協力プレスの可能性を探るだけではなく、後方から押し上げてくる田中隼磨に対するチェックアクションまでも、しっかりとイメージできていなければならなかった・・というチームメイトたちの不満だったようです。まあ・・それも、分かる。

 たしかにアレックスの一連のアクションには、覇気(明確な意図や闘う意志)がなく、何となく「義務的なアクション」をこなしているっちゅう「気抜け」の雰囲気が漂っていたからね。能力の高いことが逆に災いした「集中切れ」プレー!? アレックスは、一瞬の集中切れという「悪癖」を、絶対に改善しなければいけません。集中力が一瞬でも欠けたら、いくら能力が高くてもどうしようもないというのがサッカーだからね。全体的には、攻守にわたって、彼にしか出来ない素晴らしいプレーを展開しているのに・・。

 とにかく、選手同士でミスを指摘し合うなどチームのなかでしっかりとディベート体質が定着していることを感じ、頼もしく思っていた湯浅でした。

 自分から味方のミスを指摘したら、その発言に対する責任を取らなければならない・・だから、より説得力のある自己主張をするために、より良いプレーをしようという意識が高まる・・そんな心理ベースがバックボーンにあれば、本当の意味の相互信頼(相互レスペクト)体質がより深化する・・そんな健全な自己主張のディベート体質こそが、闘う意志を高揚させる心理の善循環が回りつづける・・。

 



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