湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第19節(2006年8月23日、水曜日)

 

個人事業主たちの相互信頼メカニズム・・(レッズ対アルビレックス、3-1)

 

レビュー
 
 「トゥーリオや、交代出場した内舘までがどんどんオーバーラップしていった・・レッズの、オーバーラップに関するチーム内の決まり事とはどのようなものなのですか?」。

 記者会見で、そんな質問が出ました。それに対してギド・ブッフヴァルト監督が、待ってましたとばかりの勢いで話しはじめたことは言うまでもありません。何せ、その質問への回答こそが、攻撃的なプレッシングサッカーという、彼が標榜するサッカーイメージのエッセンスそのものですからね。

 「もちろん基本的な守備のやり方に関するコンセプトはある。ただし、前方への攻撃参加(オーバーラップ)については、基本的に、それぞれの選手の柔軟な判断に任せている。前にスペースが空いているのに、そこへ飛び出していかないのは不自然だからね。レッズでは、誰でも、チャンスに恵まれた者は常に前へ飛び出していっていいというベーシックなアイデアが浸透しているんだ。とはいっても、次の守備への対応もあるから、それぞれの選手が自主的な判断でバランスを取る。攻めの流れに乗り遅れた選手が残って守備ブロックを組織するとかね。例えばトゥーリオが上がったら鈴木啓太が下がっているとか。とにかく鈴木啓太は、本当に重要な役割を担っているんだよ」。

 飛び出していかないのは不自然・・。その言葉の背景にあるコンセプトは、こういうことでしょう。「楽しまなければ(楽しめなければ)決して発展することはない・・」。もちろん、主体的にとことんサッカーを楽しむべきということだけれど、逆に、全員が快楽「だけ」を追求しちゃったらチームは崩壊してしまう。だからこそ、そのアイデアの底流には、個人事業主による「紳士協定」がなければならないということです。

 「使い・使われるというメカニズム」に対する深い理解をベースにした相互信頼・・、まず自分が汗をかくという基本的なプレー姿勢・・それこそがトータルサッカーのベース・・等々。それがうまく機能しているからこそ、レッズでは、ごく自然に、効果的なタテのポジションチェンジが機能するのですよ。また、だからこそイビツァ・オシムさんもレッズ選手たちを信頼して代表チームに招集するのです。

 もちろんそこには、ギド・ブッフヴァルト監督の選手に対する信頼もある。まあ、現実的には、鈴木啓太と長谷部誠に対する信頼が最も強いだろうけれどね。だからこそ彼らが、チームの重心とも言うべき守備的ハーフコンビを組んでいるのですよ。

 とはいっても、レッズのなかに「使われる(汗かき)」という役割を十分に果たしていない選手がいることも事実。要は、次の守備にしっかりと参加しなかったり(だから、味方が攻撃に思い切り専念できない!)、タテのポジションチェンジの流れを阻害したりするようなプレーのことです。それもあって、どうもレッズの仕掛けが単調になっているとも感じるのです。

 いや・・、確かにこの試合でも、素晴らしい「質」のサイドチェンジパスを何度も成功させるなど、サイドからしっかりとチャンスを作りつづけていたから、このコメントは「微妙なニュアンス」ということになってしまうけれど、どうも湯浅は、レッズ本来の「吹っ切れた仕掛けの勢い」から比べたらまだまだだと感じているわけなのです。

 理想的に機能しているとは言い難い仕掛けのコンテンツ(フロー)・・。そこで、同じようなニュアンスの質問が後藤健生さんから出たのですが、それに対してギド・ブッフヴァルト監督は、「もちろん、ラストパスの精度や最終勝負コンビネーションの内容など、まだまだ多くの課題を抱えている・・これからもトレーニングを積み重ねていかなければならない・・たしかに代表が抜けることは厳しいけれど、それでも、地道なトレーニングを積み重ねて精度を上げていかなければならない・・我々には、最終勝負を仕掛けていく段階での、強いパスなど、リスクへチャレンジしていく強い意志がある(だからこそ、精度や内容を高揚させるトレーニングの効果が大いに期待できる!?)・・まあ、ちょっとオフサイドが多すぎることは問題かも・・ビデオを使って、オフサイドの状況をスタディーしよう・・」と、答えていました。

 まあ、そういうことなんだろうね。まだまだ、仕掛けを繰り出していくタイミングやリズム、はたまたスピードなどで、個々の選手のイメージが食い違っている場面も多いからね。とはいっても、前述した「使い・使われるメカニズム」に対する理解や、それを実践していくことに対する意志に違いがあるのだったら、それは大きな問題。それによって、(個人事業主たちの)相互信頼が崩れてしまうわけだからね。さて・・

 



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