湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第18節(2006年8月19日、土曜日)

 

両チームが展開するサッカーのタイプについて・・それにしてもレッズはよく追いついた・・(アントラーズ対レッズ、2-2)

 

レビュー
 
 記者会見でギド・ブッフヴァルト監督も言っていたけれど、立ち上がり20分「だけ」のサッカーコンテンツを比べたら、その「質」で、レッズに一日以上の長があるのは明白でした。

 積極的なプレッシング(有機的に連鎖しつづける複数の守備アクション!・・互いに使い、使われるメカニズムが最高の状態で回りつづけている!)をベースに、人とボールを活発に動かしつづけるレッズ。そのなかで、ボールホルダーと、ボールがないところで動く選手が、躊躇せず、流れるようににタテへ仕掛けていくのですよ。まさに、チーム一丸となったリスクチャレンジサッカー。だからこそチャンスの「量と質」でアントラーズを圧倒できていたというわけです。まあ、前半20分あたりまでだったけれど・・。

 そんな、『攻守にわたる組織プレーをハイレベルに機能させるために、積極的な個人プレーを積み重ねていく!』という発想のレッズに対し、アントラーズは、局面での小さなコンビネーションも含む個人勝負を仕掛けていくために、安全パスでポールを確実にキープするという組み立てイメージが基本。要は、安定指向のポゼッションサッカーっちゅうわけです。

 そして、相手ディフェンスブロックの薄い部分(人数が足りないゾーン)にボールを運び込めたら、後ろ髪を引かれない危険なドリブル最終勝負を仕掛けていったり、急激なテンポアップを基盤にコンビネーションを仕掛けていったりするのです。そこでは、足許サッカーに終始していた選手が、弾かれたような全力ダッシュで仕掛けに参加して行くといったシーンを何度も目撃しましたよ。そんな、アントラーズ的なイメージのツボにはまった仕掛けで魅せる(ボール絡みとボールがないところでの)イメージシンクロプレーは流石だと感じていた湯浅でした。

 もちろん、コーナーキックからアレックス・ミネイロがニアポスト勝負した先制ゴールなど、カウンターとセットプレー勝負の危険度がリーグトップクラスにあることは言うまでありません。アウトゥオリ監督は良い仕事をしています。

 ところで、ここで触れたかったテーマは、両チームの「仕掛けイメージ」が大きく異なるということ。まあ、グラウンド上の現象を見れば、アントラーズのチーム戦術イメージが「確実性指向タイプ」であることは言うまでもありませんよね。守備ブロックの「人数とポジショニングのバランス」を極力崩さず、しっかりとボールをキープするなかで、チャンスを逃さず相手守備ブロックの穴を突いていく。イタリア「的」な発想を基盤にしたサッカーってなことが言えるかもネ。

 さてゲーム。前半20分過ぎあたりから、レッズの勢いが徐々に「落ち着いて」いったわけだけれど、その「変化」に乗じてアントラーズの攻守にわたる勢いが加速していきました。もちろんその「落ち着き」の意味は、レッズ選手たちのボール奪取勝負を仕掛けていく勢いが減退傾向に入ったということだけれど、ゲームの流れを敏感に読み取り、それを逆手にとって自分たちのペースにしていくといった点で、なるほどアントラーズは試合巧者だなと感心していた湯浅でした。

 また、ゲームの流れを五分に戻しただけではなく、得意の「ココゾの集中力」で先制ゴールを挙げ、後半には、前への仕掛けエネルギーが高じていたレッズの逆を取ったカウンターから追加ゴールまで挙げてしまうのですよ(柳沢の素晴らしい爆発ワンツーと技巧シュートには鳥肌が立った!)。

 逆に、柳沢に追加ゴールを入れられるまでのレッズの攻めだけれど、確かに攻め上がってはいるけれど、どうもうまく最終勝負の勢いを乗せ切れない。二列目センターで「高い自由度」を与えられた小野伸二にしても、仕掛けの流れを(勝負ドリブルや勝負コンビネーションなどで)自ら引っ張っていくリーダーというわけじゃないからね。

 彼は、ボールの安全キープと(バックパスが目立ちすぎ!)、ツボにはまったときの勝負ダイレクトパス、そしてサイドへのボールの「散らし」を主にイメージしているんだろうけれど、それだけじゃ、もちろんアントラーズ守備ブロックのウラを突いていけるはずがない。もちろん、決定的なカタチでは、三人目として、最前線スペースへ走り上がりはしていたけれど(それがレッズ一点目につながった!)、逆に、前へボールを送り出したら、その流れに乗るのではなく足を止めてしまうシーンも多かったからね。だから小野伸二には、長谷部を前へ送り出すという役割(タテのポジションチェンジ)も期待されていたのだけれど・・。

 そんな寸詰まり状態のレッズだったけれど、そこで仕掛けを牽引したのは、アレックスと平川の両サイドバックでした。とはいっても、後方からのサポートが十分ではない状態じゃ難しい。相手の厳しいプレッシャーをかいくぐってクロスを上げるのでは、どうしても正確性が制限されるからね、チャンスを作りにくいというわけです。また、長谷部と交代した山田にしても、三列目で「つなぎプレー」をするばかりで、思い切って前線へ飛び出して行くような攻撃的な姿勢がみられない。そんなジリ貧の雰囲気のなかで柳沢に追加ゴールを入れられてしまったというわけです。フムフム・・

 でもそこからレッズが「意地」を魅せました。この同点ドラマについては、まさに「意地」という表現がふさわしいと思うのですよ。何せ、決定機を作り出せるという雰囲気がまったくないなかで、「もぎ取るように」挙げたゴールでしたからね。両ゴールとも右からのクロスがキッカケでした。最初は、田中達也の(自ら余裕を演出しての)クロスがワシントンの頭に合ったことで、小野へのピタリのヘディングアシストが成功し、二つめは、永井のドリブル勝負からのクロスが、トゥーリオのヘディングとワシントンのこぼれ球シュートにつながったという次第。

 そこには、ゴールを奪うことに対する「意地の勢い」があった!? まあ、私にはそう感じられたということです。この二つのゴールには、そんな粘り強い気合いが込められていたと感じたわけです。それこそが勝者メンタリティーを形づくる心の基盤になるはず。その視点でも、この二つのゴールが入るまでの「心理的なプロセス」を、しっかりと頭のなかにたたき込んでおいて欲しいと思います。

 ところで、アントラーズのアウトゥオリ監督。記者会見では、興味深い「キーワード」を連発していましたよ。

 素晴らしいサッカーだった・・両チームの勇気があったからこそ素晴らしいサッカーになった・・二点目を取りに行ったアントラーズも勇気を魅せた・・またレッズも最後まで諦めなかった・・勇気がなければ、あのような同点劇は生まれなかった・・そこには勇気の決断があった・・などなど。

 勇気。アウトゥオリさんも、不確実な要素が満載されたサッカーだからこそ、リスクへのチャレンジのないところに進歩なしという普遍的なコンセプトの本質を洞察しているのでしょう。まあ、だからこそ、アントラーズの「才能たち」に対する不満もあるに違いない!? ミスを恐れない勇気・・次の守備への多大なエネルギー消費を知っていながらも攻め上がる勇気・・ギリギリの勝負にも臆せず飛び込んでいく勇気・・などなど。

 そのキーワードは私の質問に対して発せられたものだったのですが、すぐさま、「その勇気の意味やバックボーンを教えてください・・」なんていう質問が続けざまに出掛かったものです(まあ、そのときは別な方の質問に移ってしまったけれど・・)。ちょっと、アウトゥオリ監督に対する興味が出てきた湯浅でした。

 



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