湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第4節(2005年4月10日、日曜日)

 

シンプルというキーワードで上昇機運のFC東京・・ボールなしの動きが減退したことでサッカー内容が落ち込み気味のジュビロ・・(FC東京対ジュビロ、1-0)

 

レビュー
 
 「調子がいいジュビロだったら、チンチンにボールを回されてしまうことだってある・・そんな強いジュビロに対して、とにかく私が就任して初めて(?!・・ホントに??)勝てたことが、それもホームで勝てたことが嬉しい・・」。試合後の記者会見でFC東京の原監督がエモーションを振りまいていました。

 たしかに後半のジュビロのサッカーは、交代した中山が最前線で「動きの起点」になることで大きく改善されました(チームメイトたちが、中山の動きだしタイミングをしっかりとイメージシェアできている!)。とはいっても、そのサッカー内容自体は最盛期の比ではないのも確かなこと。(勝負所での)ボールがないところでの動きの量と質が大幅に減退していると感じるのですよ。攻守にわたる局面勝負のコンテンツなど、個人のチカラは相変わらず良いものがあるけれど、ボールの動きが相手守備の脅威になっていない。もちろんそれは、人の動きが十分ではないからです。だからボールの動きが、FC東京ディフェンスブロックの視野とイメージの範囲に収まってしまっている。

 人の動きですが、最盛期のジュビロだったら、一瞬でもボールを「見過ぎて」しまったら(一瞬でもボールウォッチャーになったら)最後、自分がマークする選手が「スッと消えて」しまい、気が付いたら決定的スペースでスルーパスを受けたりという、人とボールの活発でクリエイティブな動きを駆使した崩しシーンがてんこ盛りでした。でもいまのジュビロのサッカーからは、そんな怖さがかき消えてしまった・・。そう感じているのは私だけではないに違いありません。要は、ボールがないところでの動きの量と質に大きな課題があるということです。

 「優れた走るサッカー」を標ぼうするイビチャ・オシムさん(ジェフ監督)。そこには、8人で攻め10人で守るトータルサッカー・・なんていうキーワードもあります。やはりサッカーは「走るボールゲーム」。監督の仕事でもっとも重要なモノの一つは、走ることに対する選手たちの心理・精神的な負担を軽減させること(手練手管を駆使した、走ることに対するモティベーションアップ!)なんてことまで言えちゃったりする?!

 ジュビロの山本監督は、「もっとフィールドをコンパクトに保てなければ・・」と言います。その通り。要は、走るにしても、距離が長すぎたら(そう選手たちが感じてしまったら!)、走るためのモティベーションがダウンし、走りの勢いが殺がれてしまいますからね。だからこそ、アクティブプレーゾーンをしっかりとコンパクトに保つことで、守備でのプレスの輪をより効果的にするだけではなく、ボールを奪い返した後の攻撃でも、人とボールの動きを活発にするということです。ただ実際には・・。

 新しい選手が加入してきたことも含め、山本監督のサッカー戦術イメージを選手たちに移植する作業や、選手たちの(攻守にわたるボールのないところでのプレーに対する)意識アップ作業(人間の弱さとの闘い!)などにまだまだ時間がかかりそう・・。

 FC東京は、例によって、クリエイティブで忠実な堅牢ディフェンスブロックを基盤に、シンプルにサイドを突いた攻撃を仕掛けていきます。特に後半はジュビロが押し気味の時間帯が多かったため、カウンター的な状況での仕掛けが増えました。もちろんそれはFC東京のオハコ。なかなか効果的な仕掛けを魅せつづけてくれました。

 「シンプルなサイド攻撃・・シンプルこそベスト・・」。原監督は、シンプルというキーワードを強調していましたよ。まあ、そういうことでしょう。選手全員が同じような仕掛けイメージをシェアしていれば、次にパスが送られてくる可能性のある選手もより鮮明に展開イメージを描くことができ、その準備に取りかかれる・・右サイドの石川にしても、左サイドの戸田にしても、しっかりとしたポジショニングを取っているし、必要ならば、ズバッとスペースへフリーランニングを仕掛けていましたからね。

 仕掛けプロセスへの明確なイメージ(仕掛けのカタチ)を持っているFC東京と、そのイメージに陰りが出はじめているジュビロ。この試合では、そのポイントが明暗を分けたということでしょうかネ。まあ実質的な内容では、引き分けが順当な結果だとは思うけれどネ・・。

 それにしてもFC東京の今野泰幸はスゴイやっちゃな〜〜。守備での汗かきプレー(実効あるディフェンスの起点プレー!)だけじゃなく、インターセプトや相手トラップの瞬間を狙ったアタックなど、ボール奪取勝負でも非凡な才能を魅せつづけるし、チャンスを見計らった攻撃参加でも決定的な仕事をこなしちゃう(決勝ゴールのアシストは今野だぜ!)。前半の、ちょっと中だるみしていた時間帯には、ジュビロがバックパスをつなぐしかなくなるほどの勢いで相手のボールを追いかけ回すことでチームの守備意識(積極プレーに対する意識!)を鼓舞しましたよ。そんなプレーに対して、スタンドのサポーターから「コンノ!! コンノ!!」の大合唱。グラウンド上のプレーとスタンドが一体なった本格的なサッカースタジアムの雰囲気。まさにそれはフットボールネーション。いや、大したものだ。もちろん今野泰幸とスタンドのことです。

 今野泰幸ですが、日本代表が最終予選を突破したアカツキには、必ずやジーコも代表チームに招集するでしょう。彼が入れば、中盤のクリエイティブ系プレイヤーたちの才能も、これまで以上に実効あるカタチで表現されるかもしれないし、もちろん福西や遠藤、はたまた稲本にとっても素晴らしい刺激になる・・。その節には、是非レッズの鈴木啓太にも声をかけてもらいたいですね。とにかく、まだまだ世界二流の日本代表では、そのタイプの選手が重要なカギになるのですよ。

 



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