湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第26節(2005年10月1日、土曜日)

 

守備コンテンツの違いにスポットを当てました・・(ヴェルディ対ジュビロ、4-4、アントラーズ対ジェフ、2-2)

 

レビュー
 

いや、本当に退屈なゲームでしたよ、先制ゴールが決まるまでの展開・・。でも、ヴェルディの先制ゴールによって、試合のダイナミズムが何倍にも増幅していくのです。やっぱりゴールほどの刺激はない・・なんてね。まあ、当ったり前のハナシなんだけれど、とにかく私の深〜い眠気を吹っ飛ばしてくれたこともあるから、「ゴール(失点)という比類なき刺激」という地味なコンセプトを反芻しておこうという気になったわけです。何せ、後半のドラマがあまりにも派手だったからね。

 「あの、ロスタイムに入った最後のフリーキックの場面だけれど、絶対にまだ何かあるって思っていたよ・・何せ、山田が退場になってゴンがPKを外したんだからね・・」。「そうそう、ボクも同じように感じていたよ・・」。試合後の監督会見場で、後藤健生さんとそんなやりとりをしていました。最後の瞬間にコトが起きて勝負の行方が変わったらドラマチックで面白いのに・・とかいう野次馬的なレベルのハナシではなく、場数をこなした体感というか、絶対にこのままじゃ終わらないという確信めいたものが脳裏をよぎっていたのです。そして・・。

 ホントにドラマチックなエンディングになりましたよね。バドン監督は、今シーズンのベストゲームの一つだ(もちろん観ている方にとってネ・・)なんていうことを、眉根にシワ寄せる雰囲気で言っていたし、山本監督は、ゴンのシュートが外れていれば、そのままタイムアップのホイッスルから吹かれたのにと、ジュビロのツキのなさに触れていました。両監督にとってこの試合は、天国と地獄の間を何度も行ったり来たりした内容だったということなんだろうね。

 この試合では、前半36分にヴェルディの先制ゴール(ワシントンの、これぞストライカーといった、落ち着いたトラップからのスーパー正確シュート!)が決まってからの前半残り10分が面白かった。そこでの分析コンテンツは二つあります。まずジュビロが、「往年のダイナミックな仕掛け」を魅せてくれたこと、そして二つ目が、ヴェルディのディフェンスが、ジュビロの攻めにキリキリ舞いさせられたことです。

 ジュビロが展開した、人とボールがよく動くダイナミックな組織コンビネーション。私は、それを観ながら、やっぱり本質は「パスを呼び込む」ボールがないところでの動きだ・・なんて再認識していました。「それ」があるからこそ(その動きに乗るように)、ボールの動きのコンテンツも高揚していく。要は、ボールが、素早く、そして広く動き始めたことで、タテ方向へのボールの動き(仕掛け勝負パス)の量と質も格段に向上したということです。「往年のジュビロサッカー」のイメージがフツフツと沸き立ち、ちょっと鳥肌が立ちましたね。山本監督は良い仕事をしている・・。

 そしてもう一つが、ヴェルディの守備(守備の基本的なプレー姿勢や発想)が、例によって「怠慢」だというポイント。とにかく、楽をして最大の成果を得ようとする姿勢では、特にサッカーの場合は、二兎を追う者は一兎をも得ず・・なんてことになってしまうということです。要は、最後の勝負の場面では、必ず人を見なければならない(タイトにマークしたり、最後の瞬間にしっかりと身体を寄せられるような忠実なポジショニング!)のに、彼らの場合は、単にスペースを埋めるだけというディフェンス姿勢が目立つということです。たしかに、ボールウォッチャーになってしまうという「勝負イメージの描写ミス」もありますが、彼らの場合は、基本的なプレー姿勢にも問題があると思うのですよ。

 たしかに、最終勝負プロセスにおいて、フリーな選手へ正確なラストパスが通るというシーンはそんなに多くはないでしょう。でも、だからといって、ボールがないところでの効果的マークなどの忠実な守備プレーではなく、パスコースに入る方を優先するなど、効率的なボール奪取ばかりを志向するのは、明らかに邪道なのですよ。要は、守備の目標は、あくまでも、忠実なディフェンス(最後の瞬間での忠実マンマーク!)でなければならないということです。決して「どうせ相手はパスを失敗するのだからバランスを取っていた方が効率的だ・・」というものじゃないのです。

 ヴェルディの守備では、タテに抜け出した相手へのマークを離し、安易に「行かせてしまう」といった怠慢プレーもてんこ盛りです。一度などは、後方から押し上げた福西が、ヴェルディのペナルティーエリア内で数秒間もまったくフリーになってしまい、そこにパスを通されて決定的シーンに結びつけられてしまうなんてこともありました。まあ、そんな怠慢ディフェンスがここ数試合の結果に如実に現れていると考えるのが正しい評価でしょうね。

 たしかに後半は少しは改善されたけれど、カバーリングの機能性が低いとか(太田に持ち込まれて決められたシーン)、クロスに対処する最後の瞬間でのマークが甘いなど、基本的な発想に課題が見え隠れしていると感じていた湯浅でした。

 それにしても、バドンさんが就任した当時は(1ヶ月ほど前には・・)、このヴェルディだったらリーグ後半戦のベストチームになるゾなんていう大いなる期待を抱いていたのにネ・・。ベスト状態の戸田和幸がいないのも大きいね。彼が中盤ディフェンスに入れば、その忠実でダイナミックなプレー姿勢が、ヴェルディ守備のイメージを引っ張っていきますからね。だからこそ、戸田を中盤守備のリーダーに据えたバドンさんの手腕を高く評価していた湯浅だったのですよ。でも、ちょっとでもタガが外れたら、またまた「楽して金を稼ごう」というマインドが蔓延しはじめる!?

 とにかく今のヴェルディは、数週間前のスタートラインに立ち戻り、しっかりとした忠実ディフェンスと、攻撃ではサイドからの仕掛けに対するイメージトレーニングを積まなければならないと思います。オシムさんも高く評価したように、個の能力ではリーグトップレベルにあるのだから、それを、組織プレーのなかで最大限に活用できれば、必ずリーグトップクラスのサッカーになりますよね。そう、つい2-3週間前まで彼ら自身がデモンストレーションしていたようにね・・。

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 さて次はアントラーズ対ジェフ。ここでも、ジェフの守備にスポットを当てましょう。何せ、前述のヴェルディとは対極にいるようなディフェンスコンテンツ(守備のプレー姿勢)ですから・・。その、忠実きわまりないディフェンス姿勢と、それをベースにした飽くなき攻撃姿勢に乾杯!!

 ジェフが展開しているのはマンツーマンマーク? いやいや、それは、私の表現によれば、「マン・オリエンテッドな守備のチーム戦術」ということになります。決してオールコートマンマークではなく、基本的にはマンマークだけれど、柔軟にマークを受け渡しているということです。ジェフの場合、マークの受け渡しは、まさに忠実に遂行されますよ。それこそが、選手たちの「本物の守備意識」の証です。

 マンマークが主体になった守備の場合、特に中盤にたくさんスペースができますよネ。でも、そこを使わせなければ、「ポジショニングバランス・オリエンテッドな守備システム」と効果は同じというわけです。いや、しっかりと機能すれば、確実性における実効レベルはマンマークの方が優れていますよ。何せ、「迷う部分」が少ないですからね。それがチームのなかで徹底すれば、マークの受け渡しの確実性も高くなるというわけです。まさに今のジェフのようにね。

 この試合でのアントラーズは、流れのなかではほとんどといっていいほどチャンスを作り出すことができませんでした。一点を追い掛ける終盤での猛攻シーンにおいてもです。攻め込んではいるけれど、決してジェフ守備ブロックのウラを突けていたわけじゃありませんからネ。アントラーズは、まさにジェフの思うつぼにはまり、ジェフ守備ブロックの眼前でボールを横方向へ動かすばかりだったのですよ。何せ、タテのスペースへフリーで走り込む選手を演出できないののだから仕方ない・・。

 そんな徹底ディフェンスを基盤に、ボールを奪い返した次の瞬間には、爆発的なカウンターを仕掛けていくジェフ。この試合では、ストヤノフのカウンターが目立ちに目立っていました。その、後ろ髪を引かれない攻撃参加の姿勢こそ、ジェフ選手たちに深く浸透した、次のディフェンスに対する相互信頼の証というわけです。

 あっと・・ジェフは、カウンターだけじゃありません。前半でも、また同点にされてからも、ボールがないところでの全力アクション(全力ダッシュの、クリエイティブなムダ走りの積み重ね!)を基盤にする立派な組織プレーで、繰り返し、アントラーズ守備ブロックをキリキリ舞いさせていました。

 ガチガチの規制をかけているわけじゃない・・とにかく選手たちに、攻守にわたる全力プレーを(全神経を集中した思考を!)要求しつづけるオシムさん・・。この試合でジェフが展開したサッカーには、全員守備、全員攻撃という理想的なトータルフットボールの臭いがプンプンしていましたよ。

 



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