湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第22節(2005年9月3日、土曜日)

 

脅威と機会は表裏一体・・(アントラーズ対レッズ、2-2)

 

レビュー
 
 どうせ混むからと、プレスセンターが閉鎖される2300時までカシマスタジアムで原稿を書いてから東京へ向かってスタートしました。でもネ・・もう道路も空いているだろうと思ったら、甘い、甘い。まだまだ大渋滞なのですよ。もちろんこちらはオートバイだから問題ないけれど、浦和から応援に来た人たちは、これからまだ大変な思いをしながら帰宅ということになるのか・・なんて、クルマの間をすり抜けながらそんなことを思ったものですが、でもすぐに、「いやいや、すべてのクルマのなかでは、この試合でレッズが魅せた立派な闘いを肴に盛り上がっているに違いない・・彼らは幸せな人たちなんだ・・」なんて思い返した次第。

 さて・・こんな「機会」は、そうそう巡ってくるモノじゃない・・レッズ選手たちは、その機会を存分に活用した・・そこで得た体感は、常に反芻されるに違いない・・ってな内容のコラムのはじまり、はじまり〜〜。

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 「前半と後半じゃ、まったく違ったゲームになってしまった・・数的優位を活用するように攻め込むのではなく、逆に選手たちの足が止まってしまい、最後まで回復しなかった・・」。試合後のトニーニョ・セレーゾ監督が、自嘲的に分析していました。

 その言葉どおり、レッズが魅せた後半の闘争コンテンツは、選手たちにとって貴重なポジティブ体感(自信と呼ばれる心理パワーリソース)になったことでしょう。それも、トゥーリオが退場になってから一層パワーアップしちゃったのだから尚更。もちろん引き分けに持ち込めたという(勝ち越すチャンスもあった!)結果が伴ってきたからこその「実効ある体感」ですけれどね。それは、状況が厳しくなればなるほど自動的に反芻されてくるような「パワフルな体感」として選手たちの記憶の引き出しに残ることでしょうし、これからまだまだつづくギリギリの闘いをスピリチュアルにサポートするに違いありません。ちょっとでもダレたら、「あのときの闘うマインドを思い出せ!」という合言葉がチーム内で共鳴する・・とかね。

 特に、同点ゴールが決まった後の、攻守にわたるプレー姿勢が秀逸でした。危なげのないディフェンスと、吹っ切れた攻撃。いつ勝ち越しゴールが決まってもおかしくないといったゲームコンテンツでしたよ。アントラーズが一人多いにもかかわらずネ・・。まあ感動モノだったよね。

 それにしても、トニーニョ・セレーゾ監督が言うように、このゲームは、前半と後半のコンテンツに、本当に大きな落差がありましたね。それこそ、サッカーが「ホンモノの心理ゲーム」であることの証左ってなところです。

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 アントラーズに先制のPKを決められるまで、レッズのサッカーに勢いがなく、ピリッとしないと感じていました。その「勢い」の絶対的なリソースは、言わずと知れた中盤ディフェンス。それがうまく機能していなかったのですよ。アナタ任せの受け身マインドが背景にあるディフェンス姿勢・・。これでは、ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイス&チェックアクションが後手後手に回ってしまうだけではなく、インターセプトや、相手トラップの瞬間にアタックを仕掛ける狙いすましたディフェンス姿勢も活性化するはずがありません。パスレシーバーに対するボール奪取勝負がうまく機能しないのも道理といったところ。要は、前からボール奪取勝負を仕掛けるのではなく、下がりながら対応するといった消極的なディフェンスシーンの方が目立っていたということです。(高い守備意識をベースに!)もっと積極的にボールを奪いにいく「リズム」が出てこなければ、レッズ本来の攻撃サッカーなど展開できるはずがありません。

 そんな展開のなかで、唐突に生まれたPK。テレビを観ていた友人が、「堀之内は明確に鈴木隆行を引っ張っていましたよ・・」と報告してくれました。堀之内にしても内舘にしても、大きな発展を遂げた選手たちです。それでも、ココゾ!の瞬間での集中力には、まだまだ課題があります。もっと自分主体で、次の最終勝負シーン(最終勝負ゾーン)を脳裏に描写できなければいけません。それが十分に出来ていないから、ギリギリの最終勝負場面で、相手にウラを取られてしまう(要は、先に決定的スペースへ入り込まれてしまったりする)のですよ。

 あっと・・ということでPKによる先制失点。私は、その刺激がレッズ選手たちを覚醒するに違いないと思っていました。そして案の定、汗かきディフェンスから実質的なボール奪取勝負まで、ボールを奪い返すまでのプロセス勝負イメージが有機的に連鎖しはじめるのです。この、ボール奪取に至るプロセスでのアクションですが、そこで少しでも躊躇した場合、それぞれの選手たちの不安ファクター(心理的な不安定要素)が増幅するというネガティブな心理揺動によって、確実に、全体的なボール奪取エネルギーが減退するものなのです。優れたディフェンスは、有機的なプレー連鎖の集合体・・。これは私が考案した「表現」ですが、まさに、ほんのちょっとした消極プレーによって、その連鎖が断ち切られてしまうのものなのですよ。ディフェンスは協力作業。だからこそ、互いの信頼が絶対的なベースなのです。

 あっと・・またまたハナシが長くなってしまった。さて、先制失点という「刺激」を受けたレッズ選手たち。そこからの彼らは、徐々に本来のリズムを取り戻していきます。でもね、「よしよし・・さて、これからだな・・」なんて思っていた矢先に、交通事故のような追加ゴールを決められてしまうのですよ(アントラーズにとっては、オハコのゴールシーン!?)。もちろんそのゴールによって、後半にかけてのレッズの勢いがより大きくふくれ上がったことは言うまでもありませんが、追い打ちをかけるように、後半15分にはトゥーリオが退場になってしまう・・。ただ、そんな逆境によって吹っ切れたからこそ、レッズのサッカーがダイナミックなスーパーサッカー変身したというわけです。そんなレッズを観ながら、まさに「脅威と機会は表裏一体」だよな・・なんてことを思っていた次第。

 それにしてもアントラーズは、トニーニョ・セレーゾ監督が言うように、最後まで立ち直れませんでしたね。まさに典型的な「悪魔のサイクル」にはまってしまったアントラーズ選手たち・・ってな具合。

 私は、「足が止まって守備のダイナミズムが失われたけれど、そんな悪い現象を逆流させられるようなリーダーがいない・・」なんてことを考えていました。あのような状況に陥ってしまったら、とにかく、相手ブレイヤーを全員タイトにマンマークすることで、ガンガンと守備ブレッしゃーをかけつづけるしかありません。そのことで、相手の心理パワーも萎えてしまうものなのですよ。そして今度は、相手選手たちの足が止まってくる・・。そうなったらしめたものなのですがネ・・。でもこの日のアントラーズは、最後の最後まで、心理エネルギーを高揚させることができなかった。それも、フィールドプレイヤーが一人多かったにもかかわらず・・。ちょっと立ち直るのに時間がかかるイヤなゲーム展開になってしまいましたね。トニーニョ・セレーゾ監督の手腕に期待しましょう。

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 さてこれで、優勝戦線に(順位に)やっと動きが出てきました。まだまだ一波乱も二波乱もありますよ。楽しみで仕方ありません。お互い、とことんサッカーを楽しみましょう。

 



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