湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第11節(2004年10月30日、土曜日)

 

復調チーム同士のエキサイティングマッチ(ヴェルディー対ジュビロ、1-2)・・確かに負ける気がしないレッズ(セレッソ対レッズ、0-2)

 

レビュー

 

 アリャリャッ、知らないうちに(実はフォローしていたけれど・・)ヴェルディーが大変身を遂げてしまった。もちろんポジティブな発展。攻守にわたって、それは、それはダイナミックな積極サッカーを展開してくれたヴェルディー。まあ勝負ではツキに恵まれなかったけれど、内容では素晴らしい存在感を誇示していました。

 やはりネガティブなクリティックよりもポジティブな評価を書いているほうが楽しいし健康的。小野伸二や中村俊輔にしても、単なる「斜に構えたボールプレイヤー」から本物の(クリエイティブ系の)良い選手へと脱皮していることで、こちらも観戦やレポートが楽しくて仕方ありません。それに中田英寿も本調子ベクトル上に乗りつつありますしね。

 同じようにヴェルディーについても、久しぶりにポジティブ評価のレポートが書けることがハッピーでした。何せ監督さんは、オジー・アルディレスですからネ。現役プレイヤー当時の素晴らしいリーダーシップや労を惜しまないクリエイティブな組織プレー等々、実はわたしは彼の大ファンなのです。私にとってオジーは、心から尊敬できるサッカーマン。軽く書きますが、今でも、彼が所属するイングランドのトットナムが遠征したアウェーゲームで、オジーが、フォークランド紛争にもかかわらず両チームのサポーターからスタンディングオベーションでグラウンドへ迎え入れられた光景が目に焼き付いていますよ。それは本当にすごい出来事だったし、彼のサッカーマンとしての質の高さと人間性の素晴らしさの証でした。

 もちろん、それと、私のニュートラル・ジャーナリストとしての評価は別。これまでに何度も、オジーに対して厳しい(アイロニカルな)質問をしたり、ヴェルディーのサッカーに対してクリティカルなレポートを書いたりしましたからね。それもこれも、サッカーを愛して止まない一介のサッカーコーチが心に秘めている誠実さの証だとご理解ください。

 「セカンドステージで調子が悪かった頃は、ヴェルディーのサッカーを、老人のようなサッカーをしているからちょっと心配だと、まるで人ごとのように言っていましたが(笑)、それが、この試合のような素晴らしいサッカーに大変身・・その背景にはオジーさんのウデもあるんでしょうが、それ以外の大きな要因を教えてください・・」。そんな私の質問に、「その質問ですが、もう一度聞かせて欲しいな・・」と冗談を言うオジー。久しぶりのユーモアで笑わせてくれるオジー。そうそう、これだよ、この雰囲気だよネ。

 「いま我々は良いサッカーが出来ているけれど、そのもっもと重要な背景は、やはり若手が伸びていることだね・・小林大悟とか相馬崇人とか、またこの試合ではちょっと調子が悪かったけれど、平本一樹も発展しているし、森本も良くなっているしネ・・」。私の質問に対する具体的な答えでした。まあ、そういうことなんでしょう。もちろん私は、その背景ファクターとしての「オジーのウデ」も見ていましたよ。

 オジーのウデでもっとも重要なポイントは、林と小林の基本ポジションを下げ、彼らに、後方からの「シンプルパスの供給」を徹底させていること。これまで若手の選手たちは、林や小林に遠慮がちにプレーしていましたからね。「リンリン・コンビによる呪縛からの解放」というわけです。たしかにこの二人は、素晴らしい才能に恵まれたテクニカル系の選手たち・・ただ、自分たちの技術に溺れ、ドメスティックなレベルから前向きに発展しようとする姿勢をみせることがなかった・・。彼らのプレーで、攻守にわたって全力を振り絞るアクションはみたことがない・・。

 ボールを持っても、こねくり回しが多く、そこから素早いタイミングのシンプルパスが出ることは希。また、パス&ムーブにしても、絶対的なチャンスになる場面でしかダッシュをしません。要は、ボールがないところでのクリエイティブなムダ走りをあまりにも軽視している(ムダなプレーはバカらしいと思っている?!)ということです。これでは、より高いレベルのサッカーなど望むべくもない・・。

 私は、そんな二人の「若手中心の仕掛けグループ」への影響力が、オジーによってかなり抑制されていると見ているわけですが、どうでしょうか・・。林と小林は、この試合でも、シンプルに展開パスを回したりタテへのリスキーパスを送り込むことを意識していたと感じました。そのクリエイティブなパス能力は流石です。だから前方の若手連中も、活発に動きまわることで、リスキーなタテパスを積極的に「呼び込もう」とする。攻めがうまく機能するのも道理だと感じていました。

 左では、左サイドバックの相馬と平野、右では、右サイドバックの山田と小林大悟・・この、どんどんとポジションチェンジをくり返すサイドペアの機能性も抜群・・山田にしても相馬にしても、一度タテへ仕掛けはじめたら、確実に最後まで行くだけではなく、そのまま逆サイドまで進出して決定的な仕事をこなしてしまうことだってある・・そんなオーバーラップによって空いてしまう後方スペースは、ペアになったパートナーやスリーバックの一角がしっかりとカバーする・・またトップの桜井や平本も、攻守にわたり、まさに縦横無尽のダイナミックプレーを披露する・・だからこそ、相馬、山田、小林、平野、桜井、平本というメンバーで構成する「仕掛けグループ」では、人とボールが素早く、広く動きつづける・・そのリスクチャレンジマインドたるや、まさに世界・・だからこそ魅力的な仕掛けが展開できる・・。

 斜に構えたボールプレイヤー(ベテランや中堅)たちのプレーイメージの拡散が抑制されたことによる若手選手たちの発展。ヴェルディーの「ストーリー」も新たな展開をみせています。興味深いことこの上ありません。

 ジュビロについてですが、前節のレポートを参照してください。彼らもまた、一時期の低迷がウソのように良くなっていますよ。ヴェルディーのダイナミックな仕掛けをしっかりと受け止めながら(素晴らしく堅牢な守備ブロック!)、蜂の一刺しというカウンターを仕掛けていくジュビロ。オジーは、「決して彼らに引けをとっていたは思わないけれど、まあ、経験の差が結果に現れたということかな・・」と述べていました。まあ・・そういうことかな・・。

 レッズは、この二チームがどん底の時に対戦したわけで、大変ついていたとすることが出来そうです。いまのジュビロやヴェルディーと対戦したらどうなることやら・・。あっと、レッズですが、これからビデオを観ることにします。気付いたことがあれば、後でレポートを「付け足し」ますので・・。

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 それでは、軽く、レッズもレポートしておきます。

 前半は、ちょっと鈍重だったレッズ選手たちのプレーイメージ。その現象面ですが、もちろんそれはディフェンスの甘さとして現れてきます。守備を固めるセレッソが人数をかけて攻め上がってこないことで、また立ち上がりの13分に田中の先制ゴールが決まったことで、ちょっと気が弛んだ?! ソコが危険な落とし穴なのですよ。

 いつも書いているように、ディフェンスでは、選手たちのプレーイメージがしっかりと有機的に連鎖しつづけなければなりません。それが、チェイス&チェックや、次のパスコースでのマークが甘くなったりすると、とたんに全体的な機能性のタガが外れてしまう・・。要は、それほどディフェンスでのイメージ連鎖という現象が微妙なバランスの上に成り立っているということです。味方の次の勝負プレーに期待して汗かきアクションをつづけたのに、その努力が、期待していた味方選手の気抜けプレーで台無しになる・・そして、そんな「無為なムダ」がつづく・・。そんなことがくり返されはじめると、全体的なイメージ連鎖が崩壊の危機に立たされてしまいます。そして本当にその連鎖が崩れたら、その立て直しには大変な時間と労力を要することになる。そう、ジュビロのように・・。

 だから、ちょっと心配していたのですが、後半は持ち直しました。一点リードしていることもあって、両サイド(山田とアレックス)や守備的ハーフコンビ(鈴木啓太と長谷部)だけではなく、最後尾のトゥーリオやネネまでも、タイミングを見計らったオーバーラップで攻め上がってくるのですよ。もちろんタテのポジションチェンジが基調だし、攻守の切り換えが素早く、選手たちの戻りアクションも鋭いから(それこそ高い守備意識の証!)次のディフェンスにおいて、ポジショニングバランスや人数バランスが大きく崩れることは滅多にありません。縦横無尽のポジションチェンジがくり返されているのに、次のディフェンス組織のバランスが崩れない・・。それこそ、選手たちの「負ける気がしない」という発言のバックボーンなのです。

 基本的なポジショニングですが、この試合でも、エメルソンのワントップに、田中と永井のダブル・セカンドストライカーというイメージでした。そのプレーイメージは、前節同様に、まず守備から入る(まず守備のタスクをこなしながら攻める)というもの。この二人がディフェンスにも参加してくることで(特に永井の実効レベルが高いことで)、後方選手たちの上がっていこうとする(リスクにチャレンジしようとする)意志の勢いも加速するというわけです。

 終わってみたら、シュート数で、セレッソの6本に対してレッズは「19本」という圧勝でした。次は、FC東京とのナビスコ決勝。セカンドステージ唯一の敗戦を喫した相手だけれど、あのときは、アレックスの二列目というミスキャストでしたからね(そのレポートはこちら)。それに対して今のレッズは、あの試合での苦い経験を通じて進化したアレックスも含め、チーム全体がダイナミックにバランスしている。さて、お互い、とことんナビスコ決勝を楽しもうじゃありませんか。

 



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