湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第6節(2004年4月18日、日曜日)

 

残り二試合のレポートです・・(ジェフ対アルビレックス、2-1)(レッズ対トリニータ、4-1)

 

レビュー

 

 「ジェフは、走るサッカーだと言われているけれど、彼らの場合は、走りの内容とか、走りの質が高いといった方がいいよね・・オレたちも、それを目指すサッカーのイメージしているんだよ・・」。試合後の監督会見で、アルビレックスの反町監督が、上手い表現でジェフサッカーを高く評価していましたよ。

 まあ、考えるサッカーという表現が適正でしょう。決してジェフは、闇雲に走り回っているわけじゃないのですよ。しっかりとした状況把握・状況判断がなければ、効果的に次のアクションを起こすことなど望むべくもないということです。彼らは、攻守にわたって絶対に必要なボールなしのアクションを積み重ねるなかで状況を判断しつづけ、その内容に基づいて、プラスアルファーで動くから凄いのです。そこまで選手たちの意志の力を増幅させたオシム監督に大拍手なのですよ。

 まさにクリエイティブなムダ走りを積み重ねるジェフなのですが、ちょいとここのところ、そのプレー姿勢に微妙な変化の兆しが・・。

 走りながら考えるという行動プロセスは、徐々に、最高の効率を突き詰めるというプレー姿勢に収斂されていくのが自然な流れです。とはいってもサッカーでは、多くの場面で、とにかくしゃにむにディフェンスに戻ったり、しゃにむに前方スペースへオーバーラップする等、ロジックな判断バックボーンを超えるような積極的なボールなしアクションも重要な意味をもってきます。

 考えながら効果的・効率的に走る・・。もしジェフの選手たちが、全力での「しゃにむな走り」よりも、効率的な走りの方を重点的に考えはじめたら、確実に無為な様子見が増えることでクリエイティブなムダ走りの量と質が低落し、彼らのサッカーのクオリティーも大きく減退してしまうに違いありません。

 だからこそ選手たちは、結果としてのムダにも取り組むために、モティベーションが必要になるのです。人間の思考回路は、より楽に効果・成果を挙げられる方法を探るように作られていますからね。それが技術を進歩させるわけですが、イレギュラーする球形のボールを身体のなかで比較的ニブい足で扱うという不確実性要素がてんこ盛りのサッカーでは(また、人的要素の占める割合が大きなビジネスでも?!)事情はかなり違ってくるというわけです。

 難しいテーマなのですが、「結果としてのムダ」という現象に対するバランス感覚(ロジックとアンロジックに対するバランス感覚?!)をいかに発展させていくのかも、監督に課せられたミッションなのです。

 中田英寿は、そのバランス感覚という視点でも、理想に近い存在かもしれません。何度も何度も、結果としてのムダ走りを繰り返す中田・・それでも、次のボールなしのアクションの勢いが殺がれることはない・・彼の場合は、常に自分が、攻守の目的(攻撃=シュート、守備=ボール奪取)を達成するためにアクションしつづけるというイメージなのかもしれない・・。そのセルフモティベーション能力に脱帽です。

 たしかに状況を的確に把握・判断し、できる限り効率的・効果的に走ることができれば、それに越したことはないけれど、そこには、サッカーの本質である「不確実要素」もありますからね、「走りの質」へ傾倒していったら、サッカーのダイナミズムは確実に減退していくのですよ。

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 「微妙な変化の兆し」が出てきたジェフの前半は、まさに効率・効果に対する意識の方が先行した、ダイナミズムが減退した(型にはまった)サッカーになってしまっていた?!

 もちろんそこには、厚く敷かれたアルビレックス守備ブロックという現実があったわけですが、それでも、ほとんどタテのポジションチェンジが出てこないなど、選手たちの仕掛けイメージは、完全に「詰まり気味」だったと感じていた湯浅でした。

 人とボールの動きに、タテ方向の揺動も加わるというのがジェフの真骨頂なのに、それが出てこない・・タテ方向に動かないボール・・ディフェンスは、勝負所が、常に自分たちの目の前にあるから、それを余裕をもって予測できる・・ディフェンスは、自分の背後(ウラ)をアクティブプレーゾーンにされてしまうのが一番苦手・・これでは、ジェフの仕掛けが詰まってしまうのも道理・・。

 それでも、そこから今シーズンのジェフが、一皮も二皮もむけたことを体感させられましたよ。相手守備ブロックのウラを突いていけない・・よし、それだったら次の手がある・・と、ロングシュートにトライしたり、巻のアタマを狙った放り込みにトライしたり・・。

 前半28分の茶野のミドルシュートゴールは見事の一言でした。自分がマークすべき相手がいない・・前にスペースがある・・と、ガンガン押し上げる茶野が、前が詰まっていることを的確に判断してミドルシュートを放ったのです。ミドルシュートが出てくれば、それに対応するためにディフェンダーが前へ出てこなければならなくなったりと、相手守備ブロックの組織にも乱れが生ずるでしょう。その発想でトライしたミドルシュートがズバッとゴールになってしまったのですからネ・・ツキにも恵まれたジェフ・・。そしてその3分後に飛び出した、茶野のロングラストパスからの、巻のヘディング一発。

 困ったときの・・頼み?! いやいや、前線が詰まったときに、そんな仕掛けの発想を持てること自体に、ジェフの発展を見ていた湯浅だったのです。

 後半は、アルビレックスか攻め上がってきたこともあって展開が良くなりました。本来のジェフのクリエイティブサッカーが機能しはじめたのです。でもそれもアルビレックスの「追いかけゴール」が決まるまで。2-1とされた後のジェフは、逆に防戦一方になってしまって・・。アルビレックスの、失うものがないという勢いと、ジェフの、守りきらなければという受け身の心理・・。

 この最後の20分間にグラウンド上で繰りひろげられたサッカーは、ジェフが分析すべき反省材料かな? どうでしょうか、オシムさん?

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 とにかく、ジェフのイビチャ・オシム監督は、日本サッカーに対し、かけがえがのない貢献をしてくれていると感じます。走るということの錯綜した本質的意味を、日本サッカー界に再び深く考えさせたのですからネ。それは、ラインコントロールという概念の重要さを再認識(?!)させたフィリップ・トルシエの貢献度をも凌ぐと思っている湯浅なのです。何せサッカーは走る(考える)ボールゲームなのですから・・。

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 さて次は、レッズ対トリニータ。数週間前に行われたナビスコカップの再戦ということになりました。結果は皆さんご存じのとおりです。

 この試合を見はじめてすぐに、ナビスコでの試合内容を思い出していました。とにかくトリニータは、ギリギリのリスクチャレンジ(選手たちの考える姿勢を極限まで追求する!)を積み重ねるというエキサイティングなサッカーをやっている・・常に最終ラインを高く保ちつづけるコンパクトサッカーは本当に見応え十分だ・・グランパス当時のベンゲルサッカーを彷彿させる・・立ち上がりは、レッズも人数をかけて押し込むという場面もあったけれど、時間が経つにつれて、狭い中盤でしっかりとボールを動かして組み立てることがままならないだけではなく決定的スペースも突いていけないことで徐々に足が止まり気味になるなど、完全にトリニータペースにはまっていく・・。

 とにかく終わってみたら、レッズが取られたオフサイドの数が「11本」ですからね(トリニータが取られたのは2本)。決してトリニータは、瞬間的にラインを上げるような危険なオフサイドトラップを仕掛けているわけではないと思いますよ。要は、「最終勝負のラインコントロール」が、うまく機能しつづけているということです(それに対する選手たちの確信レベルが格段に向上にしている!・・ハン・ベルガーのウデを感じる!)。フラットライン守備については、以前に発表した長〜いコラムを参照してください。

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 攻めあぐむレッズ。何本かシュートは放ったものの、うまく決定的スペースを活用できないことで、フラストレーションをためていたことでしょう。たしかに全体的にはレッズのボールキープ率は高めでしょうが、それで行けるところが、高く押し上げるトリニータ最終ラインのゾーンまでですからね。逆にトリニータに、高い位置でのボール奪取から素早く効果的な攻めを繰り出されたり、セットプレーからチャンスを作り出されたり・・。ということで、ゲームの概観は、まったくの互角・・いや、逆にトリニータペースで試合が進んでいるなんていう印象もあったというわけです。

 そんななかで飛び出した田中達也の先制ゴール(前半24分・・あのフラストレーション展開のなかで、本当によく決めた・・あの落ち着きは、まさに本格感!)とエメルソンのPKゴール。これで2-0ですが、それまでのゲーム内容からも、またゴールに至るプロセス自体からしても、まあ「唐突」という印象はぬぐえない・・。

 とはいってもゴールはゴールですからね。その心理・精神的な波及効果は計り知れないほど大きいのですよ。特に、「あまり経験できないタイプのフラストレーション」に苛まれていたレッズ選手たちですからね。

 とにかくそこから、レッズの仕掛けに落ち着きが出てきたと感じられました。落ち着き・・。それは、しゃにむに、トリニータ最終ラインの背後に広がる太平洋スペースを突いていこうとするのではなく、狭いながらも、しっかりと中盤でボールを動かしながら動的なタメを演出し、より余裕をもって(より勝負イメージを確実にシンクロさせることで)太平洋スペースを突く勝負パスを繰り出していけるようになったということです。そんなポジティブな展開から生まれたのが、エメルソンが飛び出してたたき込んだ三点目だったというわけです。相手最終ラインを崩していく意図が理想的にシンクロしたことで生まれた素晴らしい崩しでした。

 その後は、もちろんゲームの展開も動的に変容していきますよ。トリニータから見てネ・・。レッズのディフェンスは、どうも受け身で消極的なのです。緊張感が欠けはじめていると感じる。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイスやチェックアクションが、「そこにいるだけ」になってしまっている場面が多い・・これでは守備の「起点」として機能しないから、周りの選手たちも次のボール奪取を狙いにくい・・いや、周りの選手たちの守備アクションも、どうも受け身で消極的という感を拭えない・・またボールホルダーへのアタックにしても、まったく粘りがなく、単純なアタックモーションを外されて置き去りになってしまうシーンが続出する・・ってな体たらくなのです。もちろんトリニータが守備ブロックを開いているから、攻めに関しては、前半よりは機能するようになっていますが、それにしても、押し上げが足りないから、人数をかけた組織プレーというよりも、以前のような個人勝負に頼り切り・・。まあ、30分を過ぎたあたりから再びゲームが活性化しましたけれどネ。

 とにかく、そんな緊張感に欠けるディフェンス姿勢にはまったく納得がいかない湯浅でした。減退したディフェンス姿勢だから、攻撃でも勢いを乗せることができない。ディフェンスの姿勢は、すべてのプレーの心理・精神的リソースなのです。

 勝ちはほぼ手中にした・・。だからこそ、その後の時間を、次の発展につながる様々なリスクチャレンジにトライする良い機会と捉えるべきなのに、そんな積極的な姿勢ではなく、無為に時間を過ごすだけというネガティブな印象しか残らないようなプレー姿勢に終始してしまう・・。

 良くないですね。ギド・ブッフヴァルトとゲルト・エンゲルスのコンビは、ビデオなどを駆使して、そんな「意志のないプレー姿勢」を厳しく批判・糾弾しなければいけません。そんな、厳しさと調和がうまくバランスした雰囲気を醸成するのも彼らの大事なミッションというわけです。

 



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