湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第3節(2004年4月4日、日曜日)

 

エメルソン退場までは互角だったけれど(ジュビロ対レッズ、3-1)・・両方とも規制先行だから、観ていて方が凝ってしまった(アントラーズ対グランパス、3-2)

 

レビュー

 

 どうも皆さん、ちょいと所用が重なったこともあって日曜日の帰国ということになってしまいました。まず、ビデオ収録を頼んでおいたジュビロ対レッズをみはじめたところです(日曜日の早朝に成田到着だったのですが、帰宅した早々に宅配ビデオも到着)。

 ギド・ブッフヴァルト&ゲルト・エンゲルスのコンビは、なかなか面白いゲーム戦術(ジュビロ戦における選手たちの基本的なポジショニング&役割イメージ!)で試合に臨んできました。私はそれを、ベンチのポジティブなリスクチャレンジだと捉えています。

 そこではまず、左右サイドバックに、それまでサイドハーフ(攻撃的ハーフ)というイメージでプレーしていたアレックスと永井雄一郎を配置しました(平川は、室井の代わりにストッパーへ!)。これは面白い。特にディフェンスが不安定だった永井に右サイド守備を任せたことが意義深い。現代サッカーでは、「わたし攻める人・・」なんていう姿勢では、自ら発展の可能性にフタをしてしまうことと同じですからネ。たしかに、何度か服部にフリーで上がられたり、守備のポジショニングがずれたりしていましたが(もちろん山田がうまくカバーリング!)、以前のような「そこにいるだけのアリバイ守備」は皆無で、まだうまくボールを奪い返せないまでも、ねばり強くマークしつづけるという姿勢が発展を予感させてくれましたよ。そんな「ホンモノの守備意識」に支えられていたからこそ(それが自信ソースになったからこそ)攻撃にも勢いを乗せることができた・・だからこそ、同点ゴール場面での素晴らしい突破ドリブルを仕掛けていけた・・わたしはそう思います。

 さて他の選手たちですが、右サイドの山田暢久は、鈴木啓太と守備的ハーフコンビを組むことになりました。これもまた良い結果をもたらしたと思います。山田と鈴木による、交互の上がりが、殊の外、レッズの仕掛けにとって効果的だったのです。もちろん長谷部との攻守コンビネーションもいい(長谷部のブレイク傾向の基盤は、なんといっても、やらされるのではない、自分主体のクリエイティブな守備意識!)。

 とはいっても、このメンバーによって、これまで素晴らしい汗かきクリエイティブ守備プレーをつづけていた酒井、そしてストッパーとして定着していた室井はベンチスタートということになりました。さて、不満と緊張感という心理要素マネージメントも含め、本当の意味でのチーム作りがはじまった・・。もちろんわたしは、そのことをポジティブに捉えています。ギドとゲルトは、闘うチームには、ある程度の不満が常に存在していなければならないことと、その背景にある意義(適度な向上心・緊張感の維持と、チームが闘い抜くグループへと発展していくための心理的なリソース!)を深く理解しているでしょうからね。

 そんな、ギドとゲルトのゲーム戦術が功を奏し、この試合でのレッズの立ち上がりは、マリノス戦での良いサッカー内容を彷彿させてくれましたよ(前節セレッソ戦での鈍いサッカー内容を払拭させてくれた?!)。

 攻守にわたって、プレーイメージ的にジュビロに「振り回される」シーンが目立たないのです。昨シーズンだったら、勝負には勝ったとはいえ、試合内容では完全に凌駕されていましたからね。マンマークイメージが強すぎることによって(要は、受け身で消極的ディフェンスイメージが前面に押し出され過ぎることによって!)ウラを突かれてしまうシーンが多かったという印象だったというわけです。

 要は、ジュビロが展開する有機的なイメージ連鎖(人とボールの動き!)が活発だから、どうしてもマークがずれてしまう・・それを互いにうまくカバーできない・・という現象がつづいたということです(まあこの試合でも、ボールのないところでウラに張り込まれるシーンもありましたが・・要は程度の問題・・)。だから守備ブロックが翻弄されてしまう。それがこのゲーム立ち上がりでの「サッカー内容」は、決してレッズが、サッカーのイメージの質でジュビロに凌駕されてているわけではないという「ダイナミックな四つ相撲」という内容なのですよ。そんなゲーム展開だから、前半の立ち上がり20分間での「1-1」というスコアは、グラウンド上で展開されている現象のコノテーション(=言外に含蓄される意味)を正確に反映していると思っていた湯浅なのです。

 そんなエキサイティングでクリエイティブなゲーム展開だったのに、前半23分のエメルソンの退場劇(二枚目イエロー)と、その一分後のジュビロの勝ち越しゴールによって・・。レフェリーのジャッジは仕方ない・・彼らの質を嘆いても仕方ない・・と、「瞬間的に!」割り切れなければ、結局は自分「だけ」がソンをする・・。そのメカニズムに対する理解が、必要なときに、瞬間的に思考を支配し、それによって瞬間的に言動がコントロールできるようにならなければいけないということです。私も、その「瞬間コントロール」ができず、ドイツでも、何度もワリを食っちゃいましたからね。中には、アジア人がドイツでサッカーをすること自体が気にくわないと、私だけを目の敵にして笛を吹いたレフェリーもいましたよ。まあ、すごい世界なわけです。もちろんだからこそ逆に、サッカーにはまだまだ人間性が息づいているし、レフェリーのミスジャッジもドラマのうち・・なんてことも言えるわけですからネ。

 あっと「その後」のゲーム展開ですが、やはりレッズは、内容的により厳しい状態に置かれることになりましたよ。一人退場になっても、人数の足りない方が押し込んでいく・・なんていう現象も多々あるわけですが、それは、相手の「意識の質」によります。やはりジュビロは一流のチームなのですよ。だから、相手のハンディーを、うまく、効率的に、とことん活用してしまうということです。

 またこんな視点もあります。人とポールを動かすような組織的サッカーを展開するジュビロだから、一人であっても、数的に優位な状況を本当に効果的に活用できてしまう・・。要は、人とボールがしっかりと動かしつづける選手たちにとっては、それまでのプレーイメージが、相手が一人足りなくなったことでは、まったく変わらないということです。それまでとおりのイメージでサッカーをつづける・・でも、それまで以上にうまく人とボールを動かして相手守備ブロックの「薄い部分」を突いていける・・ってな具合なのですよ。だからこの試合では、エメルソンの退場がすべてだった・・。

 すべてだった・・と、そんな書き方をしたら、その後のレッズのプレー内容が悪かったとい誤解されそうが、フィールド9人のレッズ選手たちは、交代出場した山瀬や三上も含め、全員が立派なサッカーを展開していましたよ。最後の最後まで諦めずに相手ゴールへと迫りつづけていたし、チャンスも作り出した。でもまあ、相手がジュビロですからね。後半23分に西のだめ押しゴールが決まったところで勝負も決着してしまったということになりました。

 まあ、こんなこともあるさ。それでも、彼らがやろうとしている方向は、とにかく正しい。選手たちの自主性やホンモノの守備意識をベースに、美しさ、楽しさを志向しつづけながら、勝負強さ(勝者メンタリティー)も追求していくレッズ。ガチガチの戦術規制サッカーではなく、あくまでも解放マインド(選手たちの自主性尊重)を基調にしたリスクチャレンジ追求の姿勢も十分にあるから、ジュビロ、ジェフとともに、発展プロセスを追う意味がある・・。とにかくそのプロセスの証人になることは楽しい作業ですよ。

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 さて次はアントラーズ対グランパス。

 ホント・・両チームとも同じイメージのサッカーだな・・。見はじめたときの印象です。何せ、両チームともにまず守備ブロックありきということで、前後のバランスを絶対に崩さずに攻撃でのチャンスを探るのですからね。

 この表現、聞こえはいいけれど、言葉を換えれば、自分たちが攻撃しているときでも守備ブロックを崩さない・・当然、協力プレスなどの守備での組織的なリスクチャレンジが出てこない・・また攻撃でも、タテのポジションチェンジなど、リスクを冒して(人数をかけて)仕掛けていこうとするのではなく、あくまでも次の守備を意識し、できるかぎりディフェンスブロックのバランスを崩さずない・・従って、両チームともに、攻撃から仕掛けへのプロセスは、個の勝負プレーを「つないでいく」っちゅう、どちらかといえば、勝負に勝つことを優先し過ぎるサッカーと言えなくもない?!。当然の帰結として、見ていて楽しいサッカー(美しさ)ではない。どこかで見た前後分断サッカー?!フムフム。

 ということで、彼らのパスは、どちらかといえば、勝負ゾーンの移動という意味合いの方が先行しているわけです。ジュビロやジェフ、はたまた良いときのレッズのように、人数をかけ、組織的に「変化」を演出しながら最終勝負を仕掛けていく・・という雰囲気は、あまり感じられないのですよ。だから、観ている方も、次はここだ・・とか、パスの行方が読めてしまう・・。

 グランパスの場合、徹底した守備ブロックイメージの強化をベースに、なるべく高い位置でのボール奪取と直線的カウンターをイメージターゲットにディフェンスを仕掛け、ボールを奪い返したら、(カウンター的に)ウェズレイ、マルケス、中村直志が、「個」を前面に押し出す最終勝負を仕掛けていくという基本的なイメージでしょう(この三人による素早いコンビネーションも効果的ですが・・)。もちろんアントラーズの全体ブロックが下がり気味になっている状況では、空いたスペースを使うために、サイドバックの海本や滝澤たちもどんどん上がってきますけれどね・・。

 対するアントラーズ。ボールの支配では、彼らが上回っています。それでも、「あの」仕掛けイメージですし、グランパスのネルシーニョ監督もそれを十分に分かっているから、どうしても流れのなかからはチャンスを作り出すことができません。まあ、グランパス同様、高い位置でボールを奪い貸してからの直線的カウンターというイメージもありますが、彼らの場合は、セットプレーからのチャンスメイク(もちろんフェルナンドの左足が、勝負イメージの中心!)の方が、より深くチーム内合意(よりハイレベルなイメージシンクロ状態)がある・・ということでしょうか。

 フェルナンドですが、彼が来日した当時に、かなりネガティブなコメントをくり返した覚えがあります。でも、このところの彼は、まさにアントラーズの中盤の王様におさまっている。そのバックボーンは、彼の左足を駆使した「実効ある後方からのゲームメイク能力」ばかりではなく、その汗かき守備の姿勢もありそうです。この試合でも、何度も、ボールがないところで爆発ダッシュしたウェズレイやマルケス、はたまた中村たちを、タイミングよく(要は、次のパスを読んで)マークし、そして最後まで付きつづけるというシーンを目撃しましたよ。ハイレベルな守備意識じゃありませんか。やはり環境こそが人を育ててる(潜在能力を発揮できるようにする)ということですかね。

 さてアントラーズの仕掛け。もちろん彼らには小笠原がいるから、そこからのスルーパスという最終勝負イメージはあるのでしょうが、頼みの新戦力、ファビオ・ジュニオールが、足許パスを受けてからの個人勝負というイメージが強すぎるから難しい。また彼とツートップコンビを組む深井も、どうも勝負のパスレシーブでは難しい。もちろんイメージは持っているのでしょうが、どうしても、ファビオ・ジュニオールとのコンビネーションがネ・・ちょっと・・。だから、パサーとのイメージもシンクロしないというわけです。

 そんなアントラーズが、前半40分に先制ゴールを挙げます。「もちろん」フリーキック。右からの小笠原のフリーキックが、競り合う二人の選手を越えて直接ゴールへ入ってしまったという先制ゴールでした。

 でもその四分後、グランパスが、これまたチームの仕掛けイメージ(ゲームプラン)そのままに、見事なカウンターを決めてしまうのですよ。右サイドでタテパスを受けた中村・・例によって、フェルナンドが「穴埋めのクリエイティブマーク」を仕掛けてきている・・これはフェルナンドに抑え込まれてしまうな・・なんて思っていたのだけれど、このシーンでは中村が粘りに粘ってボールをキープし、フェルナンドを置き去りにしてしまう・・中村が抜け出したのを確認したマルケスとウェズレイは、もちろん爆発ダッシュで、ニアポストゾーン(マルケス)とファーサイドゾーン(ウェズレイ)へと飛び出していく・・ボールを持ち込んだ中村が選択したのはマルケス・・送り込まれた鋭いグラウンダーのラストクロスが、飛び込んでくるマルケスの「右足」にピタリと合う・・最後の瞬間、マルケスの天賦の才が光り輝く・・右足の内側で、立ち足の左足のウラを通してシュートを決めてしまった・・ってな具合。それにしても見事なカウンターゴールではありました。

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 後半では、アントラーズが勝ち越しゴールを決めたところ(珍しく流れのなかから本山が決めた・・後半8分)から、激しくゲームが動きはじめます。ウェズレイとマルケスを絶対的な中心に攻め上がるグランパス(良いボールが入ったらアントラーズのマークをモノともせずにチャンスメイクまでいってしまう!)。それにしてもウェズレイのパワーは凄い。何本、枠内シュートを放ったことか・・。

 そんな流れのなか、アントラーズが追加ゴールを挙げてしまうのです。後半20分。これまたフリーキック。このシーンでは、前述の本山のゴール同様、グランパスへ移籍した秋田のマークミスが原因でした。忠実さに欠けたら、いくら良いディフェンダーでも、チームを窮地に陥れてしまう・・。

 これで勝負あったかな・・なんて思っていたのですが、ここからまたドラマの予感がよみがえってきました。グランパスの古賀が、二枚目イエローで退場になってしまったのです。グランパスのフリーキックシーン。そこで、壁での押し合いで、古賀と、アントラーズ選手がイエローを受けたというわけです。でも古賀の場合は、その前に一枚イエローを受けていた・・。そして直後のフリーキックを、ウェズレイがうまく決めてしまう。

 もうこうなったらグランパスが「イケイケ・ドンドン状態」になるのも道理。さてアントラーズは、そんな(韓国のような)爆発パワーを御しきれるのだろうか・・。そんな興味でゲームを見つめていたわけですが、結局はそのままタイムアップ。

 たしかにグランパスにもチャンスはあったけれど、アントラーズ最終ラインを突き破るパワーに欠けていた・・またアントラーズ選手たちも心理的な悪魔のサイクルに陥ることはなかった・・。

 どうも、両チームとも「規制先行サッカー」だから、観ている方も肩が凝ってしまいました。まあ、後半のアントラーズは、少しは解放されはしましたがネ・・。

 



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