湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第10節(2004年5月15日、土曜日)

 

大逆転ドラマあり、ロスタイムでの劇的な同点弾ありと、エキサイティングな試合になりました・・ここでは「まず」レッズに焦点を当ててレポートします・・(レッズ対ジェフ、3-3)

 

レビュー

 

 イレギュラーするボールを身体のなかで比較的ニブイ足で扱うという、不確実な要素がテンコ盛りのボールゲーム・・次の瞬間に何が起きるか分からない・・だから選手たちは、自分主体で考え、状況を判断し、決断して行動しなければならない・・。

 ちょっと堅い書き出しですが、だからこそ選手たちは、互いに使い使われるというメカニズムをしっかりとアタマに入れ、ボール絡みやボールのないところにおいて、自分主体で「仕事を探しつづけ」なければならないのですよ。もちろん攻撃と守備における本当の目的を達成するためにね・・。それこそが、積極的にプレーすることの本質的な意味であり、サッカーにおいて自由を謳歌するための大前提となる「義務プレー」の本質なのです。もう何千回も繰り返し書きつづけてきた「湯浅語」・・。

 えっ・・、それでは攻撃と守備の本当の目的って何かって? またまた繰り返し確認させていただきます・・。それは、攻撃ではシュートを打つことであり、守備では相手からボールを奪い返すことです。ゴールを奪ったり、ゴールを守るというのは、結果としての現象にしか過ぎないというわけです。あっと・・またまた堅くなってしまった。これから書くことがチト重いから、どうしても堅くなってしまうのかも・・。

 そのテーマとは、山田暢久がスターティングラインアップから外されていることです。ケガとかの物理的な原因だとは聞いていませんので・・。

 この数週間におけるレッズのサッカーは着実に良くなっています。そのベースは、何といっても中盤ディフェンスの活性化と実効レベルの向上。もう何度も書いたように、レッズの場合、リーグ開幕のタイミングではうまく機能していたチェイス&チェック&インターセプトアクション&ボールダッシュアタックアクションなどの守備プレー(守備イメージ)が、徐々にうまく連鎖しなくなっていたのです。それが、ヨーロッパ出張から帰ってみたら、見違えるほどに、第一節のマリノス戦で魅せたような積極ディフェンス姿勢に戻っていたというわけです。要は、選手たちの「守備意識」が再び活性化されたということです。

 私は、ナビスコカップも含め、レッズの四試合のビデオ収録を頼んでおきました。そして帰国してから、他クラブのリーグ戦も含めて10-12試合を一気に観戦しました。そこでレッズの中盤守備パフォーマンスが明らかにアップしていることを確認したのです。また、それにかかわるポジティブな背景要因の一つが山田のスタメン落ちだった・・という仮説にもたどり着きました。

 もちろん、レッズがよくなった心理・精神的背景はそれだけではありませんが、そのうちの大きなモノの一つが山田暢久をスタメンから外したことだと思ったのです。それはブッフヴァルト監督&エンゲルスコーチのリスクチャレンジであり、私は、そのことが選手たちを大いに刺激し、チーム内の競争環境&緊張感のアップに大きく貢献したと確信しているわけです。

 たしかに山田暢久の潜在能力はものすごく高いレベルにあるけれど、常に全力で、自ら仕事を探しつづけるという積極プレー姿勢に問題が見え隠れするというネガティブな状態では、それがチームの闘う雰囲気にとってマイナス要因になってしまうのは自明の理というわけです。だからこそコーチングスタッフは彼をスタメンから外すことを決断し、そのことが、チームの発展の原動力の一つとしてうまく機能したということです。

 逆に、山田にとっても、この「極限の刺激」がポジティブに作用すること、そして近いうちに何倍にも意識が高まった彼がスタメンに戻ってくることを願って止みません。何せ、あれほどの才能に恵まれた選手なのだから・・。

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 この試合でのレッズの出来ですが、中だるみはあったものの、全体的には良い内容だったと思います。積極的なディフェンスをベースにした、タテのポジションチェンジがどんどん飛び出してくるような組織的でダイナミックな攻め。そこには、ジェフの茶野がピタリとエメルソンをマンマークしていたから、他の選手たちが機能しなければ仕掛けていけないという事情もありましたけれどね・・。

 それにしても茶野のマークは忠実で効果的でした。ボールタッチのときのアタックが無理だったら、決して安易にアタックを仕掛けず、しっかりとしたウェイティングから、エメルソンの勝負のアクションを読んで対応する・・。たぶん彼は、エメルソンのプレーをビデオでしっかりとアタマに入れていたのでしょうね。ゲーム戦術としてのイメージトレーニングというわけです。

 ワントップが抑えられていただけではなく、二列目の長谷部も、どうも動きが鈍い。それでも、もう一人の二列目プレイヤー山瀬と、アレックスと平川の両サイドコンビ、そしてもちろん鈴木啓太と酒井友之の守備的ハーフコンビが、入れ替わり立ち替わり最前線へ飛び出していくから、レッズは、十分な攻めの変化を演出できていましたよ。まあエメルソンが効果的にオトリになっていたということもありますがね。クレバー、クレバー・・。

 あっと・・もう一人、忘れてならないのがトゥーリオ。はじめてグラウンドで観たのですが、やはり秀でたモノを持っていますね。まだまだスイーパーとしては「読みベースの勝負ポジショニング」が甘いけれど、抜群の身体能力と気の強さが、チームに素晴らしくポジティブなインフルエンス(影響)を与えていると思います。そのトゥーリオも、チャンスを見計らってガンガンとオーバーラップしていくのです。

 攻撃陣にとって彼のオーバーラップは邪魔かな・・? まずそんな視点で彼の攻撃プレーを観察していたのですが、いやいやどうして、ものすごく中身のある攻撃参加ですよ。迫力がありますし、ボールを持っても器用なプレーができますしね。それに何といってもヘディングが大迫力です。前半のヘディングシュートは、まさに決定的と呼べる絶対的な先制チャンスでした。

 ギド・ブッフヴァルトとゲルト・エンゲルスも、「チャンスがあったら積極的に行け!」と言っているに違いありません。全員の高い守備意識をベースにした前からのプレッシャー守備や前後左右のポジションチェンジだけではなく、そんなオーバーラップもまた、ドイツの迫力攻撃のエッセンスですからネ。もちろん彼らがイメージしているのは、先進的リベロのイメージを作り上げた二人のドイツ人プレーヤー、フランツ・ベッケンバウアーとマティアス・ザマーですよ。この二人は、いまでも世界サッカー史上に燦然と輝いています。

 もちろんトゥーリオが上がったら、鈴木啓太か酒井友之が最後尾に残ります。

 あっともう一人、酒井友之にも言及しなければ・・。彼もまた、中盤守備の活性化を基盤にした好調レッズの原動力の一人です。いや、彼こそが本物のキー・パーソンなのかもしれません。シーズン当初はスタメン・・その後はベンチスタート・・でも出場したら、攻守にわたって常に全力でのハイパフォーマンスを魅せつづける・・。そんな酒井に強いシンパシーを感じていました。だからスタメンに固定し、攻守にわたるダイナミックな積極プレーでチームを盛り上げられたのも当然の成りゆきだったと思うのですよ。

 レッズ選手たちが魅せた変幻自在のタテのポジションチェンジですが、前半にはこんなシーンもありました。中盤でのコンビネーションプレーからパスを受けた鈴木啓太が、その直前に、鈴木の後方から全力で最前線スペースへ走り抜けた酒井友之へのラストスルーパスを決めたというシーンです。惜しくもトラップがズレたことでシュートには至らなかったけれど、完全にジェフ最終ラインのウラを突いた素晴らしい最終勝負プレーでしたよ。ほれぼれしました。とにかく、守備的ハーフコンビが、パサーとラストパスレシーバーを演じたのですからね。先シーズンでは、まったく考えもおよばない変化プレーじゃありませんか。そんな「見慣れないヤツらの仕掛け」は、相手にとって脅威以外の何ものでもありませんからね。

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 そんなふうに、前半20分あたりまでは、レッズが完全にゲームを掌握し、チャンスを作りつづけていました。それも相手は「あのジェフ」ですからね。でも、本当にレッズが、このままいつかゴールを奪って押し切ってしまうのだろうか・・なんてことを思いはじめた前半23分、ジェフに、コーナーキックから、あっけなく先制ゴールを奪われてしまうのです。ニアポストゾーンへ走り込んだマルキーニョスの見事なヘディングシュート! そしてその5分後には、マルキーニョスのドリブル突破から、レッズ守備がマルキーニョスへ集中してしまったことでまったくフリーになった右サイドのサンドロへラストパスが通されてしまう・・。これでジェフの「2-0」。そんな展開を観ながら、まあサッカーはこんなモノだ・・なんて斜に構えたモノです。その後は、調子の悪い長谷部に代わって永井が出場したものの、レッズの勢い減退していく・・そして後半早々には、エメルソンもケガで交代してしまう・・さて・・。

 私はこの時点で、テーマを「今シーズン19得点のうち11ゴールを決めたエメルソン抜きでレッズがどこまで攻められるか・・」に絞り込んでいました。何せ、もう攻めるしかなくなっていたレッズですからね。もちろん、「今シーズンのレッズならば組織プレーでも良い攻めを仕掛けていけるはずだ・・」という期待を込めてネ。

 そして彼らが、見事にその期待に応えてくれたというわけです。3-2と逆転したときには、いまのヤツらだったら、本当にこの大逆転ドラマを完遂してしまうかもしれない・・なんていう確信まで浮かんできたモノです。

 まあ最後は、ロスタイムに同点ゴールを奪われてしまったわけですが、レッズが、着実なステップアップを刻みつづけているのは確かなことです。

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 この他にも、『慎重な立ち上がりから早い時間にポンポンと点を取ってしまったことで本来のダイナミックサッカーが影を潜めてしまったジェフ・・たしかに逆転された後になってようやくいつもの大きな人とボールの動きが出てきたけれど、どうも全体的にはスッキリとしない内容だったこの日のジェフ・・村井・坂本のサイドバックの押し上げにも迫力が欠けていたし、羽生と佐藤と阿部のポジションチェンジも湿りがち・・それだけではなく、どうもここのところの彼らのサッカーは、全体的な走りのダイナミズムに翳り(かげり)が見え隠れしはじめているように感じる・・選手たちが、今シーズンはもっと冷静に考えて効率的に走ることをテーマにしよう・・などと大それたことを考えはじめたから?!・・もしそうだとしたら、それは大問題・・何せ優れたサッカーをやれるかどうかは、いかにクリエイティブなムダ走りを積み重ねていけるかにかかっているのだから・・もちろんそれも、走りとタメに対する優れたバランス感覚にかかっているのも確かに事実なのだけれど・・』等々、ジェフに関するテーマも多いのですが、どうも時差ボケが解消されず、この時間になるとものすごく眠くなって思考能力が極端に低下してしまうのですよ。

 また、テレビ観戦した、飛車角落ちのジュビロ対マリノス戦、駒場スタジアムから都心へとって返して観戦したレイソル対アントラーズ戦のレポートもあります。フ〜〜ッ。

 とにかく今日は「ここまで」でご容赦・・。

 



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