湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第8節(2003年9月27日、土曜日)

 

いろいろな視点でゲームを楽しんでいた湯浅でした・・ジェフ対エスパルス(2-1)、マリノス対ガンバ(1-0)

 

レビュー

 

 さて・・、前節のレッズ戦では「これまでで最高のゲーム内容だった・・(オシム監督)」というジェフが、ファーストステージでの優勝争いから最終的に追い落とされるキッカケをつくったエスパルスをホームに迎えます(第14節、エスパルス戦の敗北が、優勝争いでは決定的だった)。

 私は、前節でジェフが披露した素晴らしいダイナミックサッカーの再現を願い、都心から愛車のオートバイを飛ばしたという次第。試合後には、「海ホタル」を経由して横浜へ馳せ参じる予定です。初体験の海底トンネル首都高速(アクアライン)。価値交換という市場原理にのっとって、どのようなお買い得感を与えてくれるのか、試合前から楽しみで仕方ありません・・なんちゃって・・。

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 さて試合。

 立ち上がりに、左サイドの突破から(もちろん村井と羽生のコンビネーション!)、巻の決定的ヘッドという絶対的チャンスがありました(僅かにバーを越えた!・・注釈:先ほどまでチェ・ヨンスだと思い、そう書いていたのですが、読者の方から指摘され、確かめたところ、たしかに巻だったので訂正しました・・失礼)。また前半の半ばには、またまた村井のドリブル突破から絶対的チャンス(ゴールまで数メートルの地点からフリーの村井がシュート!)を作りました。対するエスパルスも、組織的な組み立てからサイドへボールを回して攻め上がり、何度かチャンスの芽を育てます。まあ、決定的なヤツは、フリーキックからのアレックスのドリブルシュートくらいでしょうか。

 チャンスを描写したから、さぞかしエキサイティングな内容だった・・なんて思われるでしょうが、実際のところは、互いに極力リスクを冒さない「静」のゲーム展開というのが正しい表現でしょう。

 ジェフは、例によって「マン・オリエンテッド」守備戦術。スパッ、スバッと相手選手をマークしてしまいます。トゥットとアン・ジョンファン、また久保山くらいまでは、斎藤、茶野、そして阿部勇樹が完全にオールコートマンマーク。もちろん両サイドのアレックスと市川も、坂本と村井がケアーする。ということで、ジェフの攻撃は、前の三人(チェ・ヨンス、巻、羽生)に、ケースバイケースで、両サイド(村井と坂本)と佐藤勇人が飛び出していくという構図です。

 対するエスパルスも同じような攻守イメージ。まあ、ポジショニングバランス・オリエンテッドな「発想」のディフェンスを展開するエスパルスの方が、マークの受けわたし頻度では、確実にジェフよりも多いわけで、たしかに、効率的ではあります。とはいっても、そのやり方だからこそ、逆に不安定要素は確実に増えるのも事実。何度も(特に佐藤と羽生のタテのポジションチェンジによって!)後方から走り上がる選手がフリーになってしまうというシーンを目撃しました(例によって「そこ」へパスが出なかったから目立たなかったマーキングミス!)。でも逆に攻撃では、エスパルスの方が、中盤での「厚み(選手の数)」という視点で上回っているわけですが・・。まあここでも「バランス感覚」という視点がテーマになるというわけです。

 そんな「ダイナミックな拮抗」状態でしたが、前半の残り2分というタイミングで、そこでのバランスが唐突に崩れます。ドリブル突破を仕掛けたチェ・ヨンスがコントロールしたボールが、相手ディフェンダーの手に当たってしまったのです。もちろんPK! そして、チェ・ヨンスの、スピリチュアルエネルギーをぶつけるような強烈なキックが炸裂した次第。見事なペナルティーゴールではありました。そして前半は、ジェフが「1-0」でリードを奪ったところで終了します。

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 さて後半がはじまりました。そこでの私の見所は、ジェフ選手たちの「勝者メンタリティー」の推移。1点リードされているエスパルスは、ガンガンと前へ来るに違いない。そのプレッシャーを「どのように」受け止めるのか・・また、そこから、どのように攻め上がっていくのか・・。そこに、ジェフ選手たちの、勝ち切るために必要なメンタリティーの発達具合が如実に現れてくると思ったわけです。

 まあ落ち着いた後半の立ち上がりだな・・なんて思っていた11分、エスパルスが、見事な同点ゴールを決めます。アレックスに前へ送り出された平岡が、左サイドから、素晴らしいクロスボールを送り込みます。まさにピンポイント。そこには、北島とうまくポジションをチェンジしながら走り込んだアン・ジョンファンが待ち構えていたというわけです。ズバッとヘディングシュートを決めるアン・ジョンファン。そして私は思っていました。さて、これからだな・・。

 これから?! もちろんポイントは、ジェフの勝者メンタリティーが、どのような状態にあるのかの確認です。そして思っていました。「フム・・たしかにヤツらは発展傾向にある・・」。

 同点にされてからのジェフのゲーム展開に、やっと、「トータルサッカー的なマインド」が明確に感じられるようになったのです。羽生が下がった代わりに、佐藤勇人だけではなく、阿部勇樹までもチャンスを見計らって最前線まで飛び出していく・・左サイドの村井が、クロスを狙うと見せかけて中央ゾーンへ切れ込んでシュートにチャレンジする・・はたまた、チャンスを見計らい、最終ラインのミリノビッチまで、最前線へ飛び出していく・・ってな具合。そんなタテのポジションチェンジこそが、ジェフのダイナミックサッカーを象徴するクリエイティブプレーなのです。

 エスパルスを押し込みつづけるジェフ。そのベースは、何といっても、選手たちの覚醒した心理パワーです。走る(=考える)という行為を基盤に、セルフモティベーション能力や、自ら「仕事を探す(=リスクにチャレンジしていく)」マインドを発展させつづけるジェフの選手たち。

 後半の同点ゴール以降は、内容的に、ジェフが圧倒していました。だから後半31分に飛び出した林のヘディングゴールは、まさに勝ち取ったという表現がふさわしい立派な同点弾だったのです(左サイドでまったくフリーになった羽生からの正確なクロスボールと、ゴール前での林の決定的な動きのシンクロ!)。そのゴールを見ながら、またまた私は考えていました。さて、ここからだな・・。

 今度の「ここから・・というテーマ」は、捨て身に攻め上がってくるエスパルスの前へのエネルギーを、どのくらい効果的に受け止め、抑制することができるのかというポイントに集約されます。これまた「勝者のメンタリティー」というテーマです。チカラのあるエスパルスが、必死に攻め上がってくる・・。それはジェフにとって、願ってもないシチュエーションじゃありませんか。でも結局は、「まだまだ」という評価になってしまって・・。

 エスパルスの前へのエネルギーが、ジェフ選手たちの心理パワーを急激に減退させていったのです。要は、相手の前への勢いに、ジェフのディフェンスが(ビビリ気味に?!)受け身になり、「無為な様子見の状態」が目に見えて増えていったのです。ボールがないところでの「ディフェンスの読みとアクション」が連動しないなど、そんな意識の低い「待ち」の姿勢では、エスパルスにスペースを活用されてしまうのも道理。特にセットプレーでの守備が、目も当てられませんでした。ボールウォッチャーや、シチュエーション・ウォッチャーになって足を止めてしまう(思考停止状態に陥ってしまう)ジェフ選手たち。そんなだから、どんどんと複合的に前へ押し上げてくるエスパルス選手たちにセカンドボール(こぼれ球)を拾われてフリーシュートを打たれるのも当たり前です。

 最後の数分間、何度ジェフが「死にかけた」ことか・・(まあ同点で死ぬってわけじゃありませんがネ・・)。

 たしかにジェフは勝利をおさめました。それでも彼らは、この最後の15分間のゲーム内容について強烈に反省しなければなりません。ジェフ選手たちは、そこで起きたネガティブ現象を、「結果オーライ」にすることなく、それを確かな現実として強烈に意識しなければならないのです。

 そこでは、ビデオによるイメージトレーニングが必要になってくるでしょう。何百回もビデオを見直すことで、そこで自分たちが陥ってしまった負け犬の雰囲気を、しっかりと心に刻み込むのです。

 そんな厳しいプロセス(現実との対峙≒心理的な学習機会)を経ることが、これから常に優勝争いに絡んでいくに違いない彼らにとってものすごく重要な意味をもつと思うのです。厳しい現実を直視し、それを乗り越えていく(自分の弱さに打ち勝つ!)ことを強烈にイメージしつづける。そんな心理的な発展プロセスがうまく機能すれば、同じような心理的な悪魔のサイクルに陥りそうになったとき、鮮明に学習したことが思い出されることで、覚醒した闘うエネルギーが増幅されるに違いない。そのプロセスは、クリエイティブな「イメージ・トレーニング」なのです。

 とにかく、最後の15分間のゲーム内容(足が止まった心理的な悪魔のサイクル!)に、アタマにきていた湯浅でした。そのことをインタビューで聞いてみたかったのですが、何せ、すぐに横浜へ行かなければならなくて・・。

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 さて、いま横浜国際競技場に到着し、記者席に座ったところです。

 通ってきましたよ、「海ほたる」。情緒的なインプレッションは、まさに快適な高速道路といったところです。市原臨海競技場から横浜国際競技場まで、要した時間は僅かに

・・分(色々と支障がありますから具体的な数字はご容赦)。東関東道路(湾岸線)を飛ばすよりは、たぶん時間的には半分といったところでしょう。

 さて、次に「価値交換という視点」では・・。高いですよ、やっぱり。もちろん通行料金のこと。何せオートバイで「2400円」もするのですからネ(普通車は3000円!)。たしかに建設にカネはかかったのでしょうが、それでもネ。(個人のカネの使い回りも含む!)産業道路(経済活性ツール)という視点では、やはり高すぎる・・。

 それでも、年に一回は館山方面を訪れてみようというバケーションニーズはあるようで、交通量は多かったですよ。まあ、素晴らしい天気に恵まれた土曜日ですからネ。それでも、乗っているほとんどの方々の、この高速道路を利用したことの「情緒的な満足度」は低かったでしょう・・。まあ、様々な経済ファクター的視点を総合すれば、トントンになるという見方もあるのでしょうがネ。とにかく、道路公団による、様々な視点に基づいた収支決算(プラス要素、マイナス要素の相殺評価!)を聞いてみたいものです。

 まあ今回の私の「使い方」では、キックオフ10分前にピタリと到着したことも含め、時間的、肉体的には大きな価値があった(バリューフォーマネー=Very Good !)ということになりますけれどネ。まあ総体的には、ポジ&ネガ相半ばといったところです。

 あっと、いまマリノス対ガンバ戦がキックオフされました。では「雑談」はほどほどにして、サッカーの理想型へ向かってポジティブなベクトル上に乗っているマリノスを中心にレポートすることにします。

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 久しぶりに復帰した松田。

 開始早々に、スパッと最終ラインを上げてオフサイドを取りました。決してこれは、危険因子の方が多いオフサイドトラップではなく、相手のボールの動きに応じたラインコントロールによって、結果的に相手トップ選手を決定的スペースへ残したというプレーです。なかなかじゃありませんか。それ以外でも、松田、中澤コンビのラインコントールは冴えていましたよ。まあこの試合での中澤は、マグロンを抑えるタスクに徹しはいましたが、それでも何度も、組織的なディフェンスプレーも魅せたというわけです。

 今回の日本代表のヨーロッパ遠征では、最終ラインを「全とっかえ」することになります。私も、チュニスとブカレストまで飛ぶのですが、そこでは是非、松田と中澤のセンターコンビを見てみたい・・。さて・・。

 マリノスのサッカーは発展をつづけてています。もちろんベースは守備。つよい最終ラインばかりが注目されますが、彼らが落ち着いたディフェンスをづつけられるのも、中盤のクリエイティブ守備があるからに他なりません。遠藤と那須のコンビは素晴らしい実効プレーを魅せつづけていました(特に、攻め上がるドゥトラのカバーリングに対する意識が高い・・トレーニングでのあうんの呼吸と監督の意識付けの賜)。その二人に、奥や佐藤も積極的に絡んでくるというわけです。

 また攻撃も力強い。忠実なパス&ムーブ、ボールがないところでの「クリエイティブなムダ走り」、それを明確に意識するボールホルダーたちのシンプルなボール扱い、はたまた、どんどんと繰り出していくタテのポジションチェンジ(ドゥトラやユー・サンチョルだけではなく、中央ゾーンでは、那須のカバーリング能力を信ずる遠藤が、スパッという切れ味鋭いオーバーラップを仕掛けていったりする!)・・。プレーイメージの一体感を感じます。組織プレーと、個人の勝負プレーのハイレベルなバランス。前半18分に陥れた久保のスーパーゴール(ドゥトラと久保とのあうんの呼吸・・素晴らしいイメージシンクロから、ギリギリのタイミングで、決定的スペースへ飛び出した久保への、ドゥトラのラストパスが決まった!)は、まさに順当な決勝ゴールでした。

 私は、メンバーが揃わなかった当時の、岡田監督の、なりふり構わない泥臭いサッカー(岡田監督は、リアクションサッカーと表現・・)を高く評価しています。まあそれは、札幌時代に学習したことでしょう(理想を優先させれば、かならず現実からしっぺ返しを食らう!)。それがあったからこそ、躊躇せずに「現実タクティック」を採用し、選手たちにも徹底した意識付けができた・・。

 監督の言動(態度)に少しでも迷いがあれば、確実に選手たちは、そのことを察知するものですからネ。そうすれば、「言葉のパワー」は地に落ち、選手たちのチーム戦術徹底レベルも奈落の底へ・・ってな状態に陥ってしまう。やはり監督は、様々な経験(体感)を積み重ねることが大事なのです。

 とにかく、今シーズンの最初に、勇気をもって上野をチームから外したことも含め(チームに対する、これ以上ないという刺激・・というか、これ以上ないカタチでの監督の姿勢の表明!)、様々なことを実効あるカタチで学習しつづけることで本当の意味で「自分のモノ」にし、チームに効果的に還元していった岡田監督の仕事に対し(共通のプレーイメージを浸透させ徹底させられている!)、真摯な拍手をおくっている湯浅なのです。いまのマリノスは、彼の目標イメージである「常勝チーム」に着実に歩を進めている・・。

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 あっと・・久保。久しぶりに、インターナショナルクラスのキャパを備えた(潜在力では海外組も含めてトップクラス!)久保竜彦についてもショートコメント。

 サンフレッチェ時代は、後方からの有効なパスという視点で、ちょいと不遇をかこっていた久保が、マリノスでは活き活きとプレーしています。

 このことについて、誤解を避けるために一言。サンフレッチェ時代、久保に良いパスが回らなかったのは、中盤選手たちのクオリティーだけの問題ではなく、やはり監督の姿勢もあったとするのが正しい見方・・。岡田監督は、とにかく前へ、前へと積極的に仕掛けていくサッカーを標榜しています。彼が言うボールポゼッションにしても、全員が前へ志向するなかでのものだから、頻度の高い仕掛けのベースになるポゼッションという、より前向きな発想になる!!

 その姿勢(チャレンジ姿勢)があってはじめてサッカーを発展ベクトルに乗せることができる・・。そして、久保自身もそのベクトル上に乗っているからこそ存分にチカラを発揮できるし、明確に発展をつづけられる・・。

 自分が発展していることを明確に認識できることで、ボール絡み、ボールなしのプレーに対する意志を増幅し、実際のプレーもより一層活性化させられるということです。それこそ、意志と実効パフォーマンスの善循環。

 今回は、久保もヨーロッパ遠征に参加するでしょうから(そうですよネ、ジーコさん?!)、日本代表における久保の、本物のブレイクが見られるかも・・なんて、(松田・中澤のセンターコンビや、これまで招集されなかった外国組も含め)いくつもの「日本代表ストーリー」を思い描いきながら一人悦に入っている湯浅なのです。あ〜〜つ、本当に日本代表のヨーロッパ遠征が楽しみで仕方ない・・。

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 さて前半で「1-0」とリードしたマリノス。

 私はこの試合でも、後半の展開に注目していました。テーマは、もちろん、マリノスの勝者のメンタリティー。そして思ったものです。コイツ等は、やはり強い。松田、中澤、ユー・サンチョル、奥、遠藤などなど、何らかのチャンピオンになった経験が、チームに「サイコロジカル(スピリチュアル)パワー」を注入しているというわけです。もちろん、その「強さ」がもっとも明確に認識できるのはディフェンス。それは、それは落ち着いてガンバの前進パワーを去勢していましたよ。

 そんなマリノスの地力プレーを見ながら、(その前の試合で)最後の時間帯でエスパルスに押し込まれ、何度も決定的ピンチを迎えた(同点にされなかったのは奇跡!)ジェフとマリノスでは、ウィナーメンタリティーで明確な差が見える・・、たしかに個人のチカラをまとめた「単純総計力」でも差はあるのだろうけれど、それに輪をかけてスピリチュアルパワーレベルで差を感じる・・なんてことを思っていた湯浅でした。

 それにしてもガンバ。攻め込みはするのですが、ボールがないところでまったくといっていいほどフリーになれないから、起点(仕掛けゾーンで、ある程度フリーのボールホルダー)を演出することがままならない・・逆にマリノスに、危険なカウンターを浴び、どんどんと心理的に不安定になっていく・・(厳しい状況における選手たちのメンタル面の弱さがかいま見える・・)。まあ結果は「1-0」という最小得点差でしたが、実際の内容では、大きな差を感じたゲームでした。今シーズンのなかでは、この試合でのマリノスの出来は最高だった?!

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 ところで、10月15日に、またまたボランティア講演をすることになりました。

 それは、「川崎サッカー市民の会」という市民団体が企画・運営するサッカーイベントです。10月1日から、毎週水曜日の1900〜2030時まで行われるとのこと。その一環として、10月15日に、私も講演することになったという次第。「欧州サッカー事情」という私の講演の後には、浅野哲也さん(サッカー解説者、元日本代表)、植田朝日さん(日本代表サポーター)、大杉さん(俳優)等が参加するパネルディスカッションもあるそうです(私は最初の45分間の基調講演だけ)。

 場所や、時間などについては「こちら」を参照してください。また、会場となる幸市民館のホームページもありますので・・。

 



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