湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第4節(2003年9月7日、日曜日)

久々にアントラーズの「伝統的な強さ」を体感させてもらいました・・ジェフ対アントラーズ(2-3)

レビュー

 ものすごく面白い試合になるゾ・・今日は、スタジアムは満杯になるに違いない・・なんて確信しながら国立競技場へやって来たのですが、スタンドには空席が目立っていました。そんな寂しい光景を見ながら、一つのクラブが、多くの生活者にとっての「日常の生活文化的な価値」を提供できるようになるまでには、当事者の努力も含め、本当に様々な紆余曲折があるということを実感している湯浅でした。だからこそ、コミュニティーとの深い絆を達成し、維持できているクラブに対して拍手喝采なのです。

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 ゲーム終盤の時間帯、こんなことを思っていました。「やっぱりジェフには、まだまだ足りないところが多い・・これでは、アントラーズの堅守を崩せないだろう・・」。試合時間残り15分というタイミングで3-2とリードされ、吹っ切れた心理状態でガンガンとアントラーズを押し込んでいくジェフ・ユナイテッド。でも、ゴールチャンスを作り出すところまでいけない。どうも、ジェフの攻撃から、いつもの危険なニオイがしない。

 もちろんそれには、相馬が退場になり(後半22分)、その7分後に勝ち越しゴールを入れた百戦錬磨のアントラーズが守備を固めてきたという背景もあります。そうなったときのアントラーズ守備ブロックは本当に堅い。だからジェフも、最終勝負ゾーンで「仕掛けの起点(フリーの選手)」を演出することがままならない・・決定的なスペースを使えない・・というわけです。

 「あの」アントラーズが守備を固めているのですから、常套手段では崩れない。もっと前後のポジションチェンジを活発にしたり、積極的にロングシュートを打ったりと、大きな変化をつけなければならないのですよ。でもジェフ選手たちの攻撃イメージからは、大きなブレイクの兆しを感じない。両サイドの坂本と村井のオーバーラップタイミングも予想範囲だし、攻撃的ハーフの羽生とサンドロ、また守備的ハーフの佐藤と阿部が絡み合うような「大きなタテのポジションチェンジ」も出てこない。これでは、アントラーズ守備ブロックが、視線の背後を突かれて慌てるというシーンの演出など叶わないのも道理・・。

 とにかく、最後の時間帯にアントラーズが魅せた余裕のディフェンスに(それを基盤に、タイミング良く繰り出していくカウンター攻撃も含めて)彼らの「奥深い伝統」を感じていた湯浅でした。

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 試合は、「マン・オリエンテッド」の忠実ディフェンスには定評がある両チームということもあって、ガップリ四つという展開ではじまります。互いにリスクを冒さないから、どうしても最終ラインを崩しきれない・・。後方からの追い越しフリーランニング(オーバーラップ=タテのポジションチェンジ)に代表されるリスキープレーが見られず、前線の選手たち「だけ」が、イチかバチかの単独ドリブル勝負を仕掛けていくのですよ。要は、注意深い立ち上がりを心がけている両チーム・・といったところなのです。そんなですから、ゴール前のエキサイティングな攻防が見られないのも当然といったところです。

 それでも、前半も20分を過ぎるあたりから、徐々にゲームが動きはじめます。「個のクオリティー」で優るアントラーズが、ニアポストスペースへ決定的クロスを送り込むという最終勝負を挑んでいくなど、僅かずつペースアップしてきたのです。それに対し、まだまだディフェンス意識が優先していることで、厚い攻めを繰り出していけないジェフ。

 それでも、全体としては膠着状態。そんな雰囲気のなか、唐突に先制ゴールが生まれます。ジェフの阿部。見事なフリーキックゴールではありました。前半31分のことです。でもその3分後には、アントラーズ平瀬の、振り向きざまのミドルシュートが見事に決まって同点。そして前半44分に、この試合のハイライトともいえる見事な勝ち越しゴールが決まります。アントラーズの小笠原(記録はオウンゴール・・でもこれは、95パーセント以上は彼のゴール!)。

 そのとき私は、ジェフの右サイドに目をやっていました。サンドロが、オーバーラップを仕掛けた相馬のマークに戻っていたのですよ。「やはりジェフ選手たちの守備意識はハイレベルだな・・」、そんなことを思ったものです。でも次のシーンでは、そのサンドロが、中央ゾーンにいた佐藤勇人に声を掛け、ポジションを入れ替わります。佐藤が右サイドへ移り、サンドロが中央ゾーンへ入っていく。そこに小笠原がいたというわけです。

 と、次の瞬間、逆のサイドでエウレルへのタテパスが通ったのに合わせ、小笠原が爆発したのです。タテのスペースへ向けた全力ダッシュ。彼をマークすべきだったサンドロは、(ポジションを入れ替える最中だったこともあって・・)最初から置き去り。小笠原は、佐藤とサンドロがポジションを入れ替える際の、一瞬の集中切れを狙っていた?! そして最後は、小笠原が走り込む前方スペースへ、ピタリのタイミング&コースのパスが通された・・というわけです。持ち込み、左足のシュートを放つ小笠原。そのシュートはジェフGKに弾かれたのですが、その弾かれたボールが、カバーに入ってきた中西の足に当たってゴールへ転がり込んだというわけです。まあ、仕方ない・・。

 あっと・・後半23分にチェ・ヨンスが決めた同点PKの原因になったジェフの崩しプレーも見事の一言でした。ロングボールを、チェ・ヨンスが「ヘッドで流す」ことを明確にイメージしたサンドロの素早いスタート。それをマークし切れず、追いかけながら手で押し倒してしまった相馬(一発レッドの退場!)。これもまた、この試合でのハイライトシーンでした。これで同点。それにここからのアントラーズは、一人足りない状態でプレーしなければならない・・。

 でもここから、アントラーズというクラブが「雰囲気として内包」する王者の伝統(心理・精神パワー)が選手たちの意識を覚醒していったと感じました(集中力を高め、攻守にわたる積極性を格段に高揚させた!)。何といっても、一人足りなくなってからのアントラーズの攻めが、より組織的に活発になっただけではなく、個の勝負もより鋭いものになったと感じましたからネ。もちろんそのベースは中盤守備。とにかくそのパワーアップが、ジェフ選手たちを(短い時間ではありましたが)呑み込んだ状態は見応え十分でしたよ。そしてセットプレーから勝ち越しゴールまで挙げてしまう(後半30分・・秋田のヘディング!)。こうなったらもうアントラーズのペースですよね。そして、冒頭のレポートへとつづくというわけです。

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 この試合でのジェフ市原の立派なサッカーを予想していた湯浅は、その高質なプレーをベースに、彼らがデモンストレートする「走るサッカー」について、少し掘り下げようと思っていました。

 走ることは、イコール「考えること」・・ジェフ選手たちは闇雲に走っているのではなく、常に明確なイメージを描写しつづけることで互いのアクションを有機的に連鎖させようと努力している・・だからこそ、イメージング(=考えること)・・もちろん考えるためのベースは、マンオリエンテッド守備、パス&ムーブ、ボールを奪われた後の攻守の切り換え等々、明確なチーム戦術(チームコンセプト)・・ETC.。まあ、それは次の機会へ・・。

 とにかくこの試合では、勝者のメンタリティーも含む、伝統に支えられたアントラーズの強さばかりが目立っていました。それこそジェフが発展させなければならない部分。その意味でも、この敗戦がジェフ選手たちにとっての大いなる学習機会になったことを願って止まない湯浅です。



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