湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第3節(2003年8月30日、土曜日)

アントラーズは、自分たちの「良いサッカー」のイメージを喪失しかけているのかも・・アントラーズ対トリニータ(1-0)

レビュー

 この日は、アントラーズの「サッカー・コンテンツ」を見極めるために鹿島へと愛車を飛ばしました。それは、前節ヴェルディー戦でのアントラーズのサッカー(攻撃)に、かなりの違和感を覚えたからです。組織プレーと個人プレーのバランスを欠き、その傾向が強まっているアントラーズ・・?! さて・・。

   前半は、両チームともにピリッとしないサッカー内容に終始します。たしかに守備は、ある程度安定はしているけれど、どうも攻撃での最終勝負シーンでの崩し・仕掛けに変化がない・・危険なニオイが漂ってこない。

 立ち上がりは、中盤の忠実&ダイナミック守備をベースに、トリニータがペースを握ります。それに対し、まったくといっていいほど押し上げパワーを充填することができず、相手ゴール前へ迫ることさえ叶わないアントラーズ。それでも、10分を過ぎるあたりから、アントラーズが地力をみせはじめます。互角の展開とはいいながら、決定的なカタチを作り出すことができる「雰囲気」では、確実にアントラーズが優っているのです(トリニータの最終ラインは、何度かウラ取りのフリーランニング&スルーパスを決められるなど、勝負イメージの問題点も露呈!)。

 でもそのバックボーンは、まさに「個のチカラ」だけ・・。エウレルや本山のドリブル(相手を抜き切るところまではいけないけれど・・)や、小笠原のスペースをつなぐドリブル&タメからのスルーパス(直接シュートまでいくスルーパスではなく、名良橋がフリーでクロスを上げられたりする等の間接チャンス)等々。このことは前回(前節のヴェルディー戦で)も書いたと思うのですが、どうも「組織的な仕掛け」が機能しない・・味方同士の仕掛けイメージがシンクロしないから、ボールがないところでの勝負の動きが単発だし、ボールホルダーも、次のプレーに時間がかかり過ぎてしまうのですよ(=ボールの動きの停滞=トリニータ守備に次を読まれて潰される!)。

 あれだけの個のチカラを有した強者たちが集まっているのだから、もっと互いを信頼すれば(互いに使い、使われるというメカニズムに対する深い理解=自分から積極的に仕事を探すというプレー姿勢)、攻守にわたるボールがないところでのアクションも活性化し、彼らのサッカーが何倍も高質なものへと変身するはずだと思うのです。そう、以前彼らが展開していた、前線の選手たちが、クルクルとポジションを入れ替え、素早く・広くボールを動かしつづけるようなクリエイティブサッカー・・。

 やっぱり、中盤のリーダーシップが問題の核心だな・・まだ小笠原じゃ無理なのだろうか・・ここのところ「ポジティブな自己主張」がパワーアップしてきていると感じていたのに・・とにかく、リーダーが定着しないから、どうしても互いに疑心暗鬼になって「個」に奔ってしまう・・。なんてことを思っていたら、やってくれました、アントラーズの平瀬。右から送り込んだ相馬の「低めのクロス」に平瀬がヘディングで合わせ、その「スリープ・ヘッド」が、トリニータGKがギリギリで触れない本当に微妙なコースへ飛んだのです。右のサイドネットに吸いこまれていくボール。まあ、決してトリニータ最終ラインを崩したという先制ゴールではありませんでしたが、これで、アントラーズが「吹っ切れる」か・・。

 ほんのちょっとしたミスからの失点があっても大丈夫(まだ同点)という状況になった・・さてここから、ダイナミックなリスクチャレンジプレーがパワーアップしてくるに違いない・・なんて期待していたのですよ。でも結局その期待は、肩すかしを食ってしまって・・。吹っ切れたダイナミックサッカーとはほど遠い、緩慢なサッカーに終始するアントラーズ。ヴェルディーとの試合では、最後の仕掛けが「個に偏り過ぎている」とは書きましたが、それでも全体的には優れたサッカーを展開できていたのに(それには、ヴェルディーが積極的な攻撃サッカーを展開していたからという側面もあり!)、この試合では、攻守にわたる全体的なペースがかなり悪化し、そこから抜け出せないでいると感じていたのです。選手たちが、自ら進んでリスクにチャレンジしていったり、ボールがないとこで仕掛けていったりという積極マインドが、まったくといっていいほど見られず、足許パスから、無理な状況でのドリブル勝負を仕掛けていく・・。

 アントラーズの選手たちはトリニータを甘く見ている?! まあ、そういう面もあるのでしょうが、でもトリニータは、甘く見られるような弱小チームじゃありません。よくトレーニングされたグッドチームなのです。そのことは、チーム全体の高い守備意識に如実に現れています。もちろん、個人のチカラを単純に足し算したチーム「総計力」ではリーグでも低い方の部類に属するでしょう。それでも彼らは、その弱点を、攻守にわたるチーム組織プレーで補っている。こちらのシンパシーが高まろうというものです。

 トリニータの小林監督は、本当に良い仕事をしている。このことについては、以前も何度か書いたとおりです。それに対し、「総計力」ではリーグトップレベルなのに、それを自分主体で活用していこうとする姿勢に欠けるアントラーズ・・。まあ、トリニータの吹っ切れた爽快サッカーが光っている分、(だからこそ)アントラーズの「心理・精神的な何らかの欠損」が目立つということでしょう・・。

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 サッカーは、攻守にわたる「有機的なプレー連鎖の集合体」。その一つ一つの構成要素(選手のプレーイメージ)が、受け身で消極的になってしまえば、すぐにでも、チーム全体に、そのネガティブウイルスが蔓延してしまう・・。だからこそ、選手たちのプレーイメージを「アクティブ&ダイナミック」なものに活性化し、それを常に「動的」にシンクロさせていなければならず、そこに監督の本質的なウデが問われるというわけです。

 最終的には「自由にプレーせざるを得ない」サッカーというボールゲームの場合、とにかく自分自身が主体になって、攻守にわたるリスクにチャレンジしていかなければ何も生まれません。アナタ任せでは、発展することなど望むべくもないのです。まあそこには、攻守にわたって「自ら仕掛けていかなければ」ミスを犯すこともないし、そんな何もしないプレーが、ネガティブに目立つことも希だという始末の悪い事実もありますがネ。だからこそ、受け身で消極的なプレー姿勢を「心理・精神的なウイルス」と呼ぶわけです。もちろん、だからこそ監督には、それをしっかりと観察する眼と、刺激あるカタチで効果的に指摘できる能力が要求されるのですが・・。

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 さてゲーム。終了間際の20分間は、(1点をリードされている)トリニータがギリギリの攻めを仕掛けていったことで(中盤でのディフェンス圧力を倍増させたことで)、テンポが格段にアップし、局所的な「勝負シーン」も続発するなど、全体的にゲームがエキサイティングで面白いものに変容していきました。だから、アントラーズ選手たちの「ハイレベルな個のチカラ」も目立っていました。とはいっても、それは「外的な要因」によるプレーの活性化だから、アクションはボール絡みに限られます。それに対し、相変わらずボールがないところでの仕掛けプレー(パスを呼び込むフリーランニングなど!)が出てこないから、どうしてもトリニータ最終ラインのウラを突く仕掛けができないアントラーズ。対するトリニータは、スリートップに寺川までも加えて攻め上がります。もちろんそれでも、ボールを奪い返されたら、全員が長い距離を走って戻り、ダイナミックなディフェンスを展開しますし、ボールを奪い返したら「また全力で前へ!」・・。そんな積極的なプレー姿勢(リスクチャレンジ姿勢)こそが観ている者に感動を与える・・だからこそ、リスクチャレンジを効果的にマネージできる中盤のリーダーが必要だ・・。

 たしかにアントラーズは「守り切り」ました。それでも試合内容は、そこでの消極プレー姿勢が「次のゲームまで尾を引いてしまう」ことが心配されるというネガティブなものでした。彼らが、本当の意味で覚醒・復調し、ハイレベルな実力を存分に発揮できるようになるのは何時のことになるのでしょうか。とにかく彼らは、プレー内容でも結果でも、リーグを引っ張っていかなければならない存在ですからネ。



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